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ただし、少女は同居するものとする

「そこに住むって……正気で言ってるのか?」

「ああ、勿論だ。アタシは冗談はTPOを弁えて言うタイプだぞ。言わずもがな、今は冗談を言うタイミングじゃない」


渡邊はいけしゃあしゃあと澄ました顔で言った。


「お前な……そんな事が許されるわけないだろう。常識的に考えて突然人様の家にだな……」

「常識だぁ? はははっ! 冗談きついぜおっさん。仮にも研究者が常識を語ってんじゃねー!」


言葉に詰まる俺をよそに渡邊は勝ち誇ったように続ける。


「かのトーマス・エジソンもこう言ってるぜ。『世の中の誰もが納得するような常識的な考え方をしていたのでは、新しいものなど作り出せはしない』ってなぁ!!」


このままでは丸め込まれる。俺は負けじと声を張り上げた。


「お前の家族はどうしてるんだ! いきなり娘がいなくなったら、ましてや初対面の男と同居なんて……」

「アタシは!……アタシは家出してきたんだ。誰もアタシのことなんか心配なんぞしねぇよ……」


俺の言葉を遮って渡邊は寂しそうに言った。


「親父はアタシが生まれてすぐに家を出て行ったらしい。お袋は親父が出て行ったのをアタシのせいだとか言ってな。毎日殴られたよ……」


渡邊の瞳が潤む。かける言葉が見つからず俺はただ沈黙した。


「そんな家庭環境のせいで友達も全くできなかった。笑えるだろ? アタシは1人も友達がいないんだ。過去も現在も。そしてこのままなら未来も」


渡邊は自らの手で顔を覆った。声がさらに震え、肩も小刻みに揺れている。


「アンタの研究を偶然見つけた時、アタシの世界は一変した。もしかしたら……もしかしたらこんな不幸な世界から脱出できるかもしれないって!アタシみたいに悲しい境遇にいる人を救えるかもしれないって!」


渡邊は顔を上げた。涙と鼻水で顔はぐしょぐしょだった。


「頼む! 私をここに置いてくれ! でないとアタシは……アタシは……」


少女はそこまで言うと嗚咽交じりに泣き出した。渡邊の悲痛な嘆きは広い部屋の中を何度も反響しているかのようだった。


「わかった」


気づけば俺は口を開いていた。


「ここに住まわせてやる。俺の計画に協力させてやるよ。だから……」


だから泣くな。そう言って彼女の頭を撫でてやろうとしたその時。


「いやっほおおおおおおお!」


渡辺が飛び上がり、ダイニングテーブルの上でタップダンスを始めた。


「あっはっはっは!チョロッ! おっさんチョロスギィ! あ! 今の録音したからな!」


唖然とする俺を尻目に渡邊は目に溜まった涙をぬぐいながら言った。スマホを取り出し俺の先のセリフを何度もリピートする。


「ありがとなー仲村! これでアタシの拠点が決まったわけだ! あ、空いてる部屋ある? アタシ南向きがいいんだけど!」


健康そうな肌。艶やかな髪。清潔な服。果たして虐待を受ける母子家庭の娘がこれほど健康そうな見た目をしているだろうか。

この時俺は気づいてしまった。


騙された、と。


「この部屋良くなーい!? よっしゃアタシこの部屋に決めた!」


我に帰れば廊下の奥から聞こえる楽しげな声。慌てて声のした方向へ行く。


「おい! お前騙したのか!?」

「うーーん! この部屋最高!南向きだし!広いし!」


たどり着いた部屋は俺の寝室だった。俺は寝る場所にはこだわるタイプでこの部屋の家具は棚ひとつに至るまで一級品である。


「ここは俺の寝室だ! 空いてる部屋なら奥にある。そっちを使え!」

「お断りいたしますわ。わたくし、欲しいものはなんでも手に入れるタイプですの」


渡邊は口調をわざとらしく変え笑った。いい加減頭にきた俺はセーラ服の襟首を掴み上げる。


「いい加減にしろ。警察を呼んでもいいんだぞ」

「警察……ねぇ」


渡邊が笑った。嫌な予感が俺を支配する。


「これを見せたら警官の方はなんと言ってくれるんだろーね?」


俺の顔の前にスマホが突き出される。そこに映っていたのは俺が渡邊の胸を揉んでいる画像。いや、正確には揉まされた画像。

だが、渡邊の今にも泣き出しそうな顔はまるで男に襲われているいたいけな少女のようだった。


「私この部屋がいーな」


俺は口をパクパクとさせ、冷や汗をダラダラと流しながら、顔を赤くしたかと思うと青くし、目を白黒させた挙句、震える声を絞り出すようにして答えた。


「よ……ろ……こん……で」


こうして退屈な俺の日常はこの日を持って幕を閉じた。



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