はじめての訪問者
ラウラ姫に案内され城を歩き回った。ええ歩きましたとも!
なんでこんな無駄に広いんだよ!と思いながら歩きましたとも(涙目)
夕食中に何度も舟をこいでなんとか部屋に戻ってきたときにはもうグッタリ。
早く寝たいがさすがに風呂に入らずに寝るのはイヤなので最後の気力を振り絞り
上着を脱いだ所でまた視線を感じた。
昨日も感じたけどこれは気のせいではない。
「ここは直感を信じて!そこに誰か居るんでしょ!出てきなさい!」
あたりをキョロキョロしているといつの間にか後ろに人の気配がして咄嗟に身を
翻して見て見るとそこには男の人が立っていた。
「へぇ~よく気が付いたね。感心感心。」
そう言ってこちらをニコニコしながら見ているが目はとても笑っているようには
見えません。
見た目20台頭くらいで顔は可もなく不可もなく髪と目が黒くて元の世界で
見慣れた風貌。その見慣れた風貌のせいかちょっと警戒心が薄れてしまうのは
ホームシックになっているのでしょうか。
「だ、だれ?!」
「あ~悪い悪い。怪しいものじゃないよ」
「むちゃくちゃ怪しいわ!!!」
両手を上げて何も持ってませんよ。というポーズをしますがどう考えても怪しさ
全開です。折角薄れた警戒心がまた上がってきた。
「一応ここのお姫さんに雇われてる影みたいなもんかなぁ~お姫さんに聞いて
くれれば分かると思うよ~」
「その影が私になんの用なのよ、怪しくなかったらラウラ姫が居るときにくれば
よかったじゃない」
「いやぁさすがに影やってる人間を堂々と紹介はしてくれないと思うけどね。
だからこっそりと異界人を見学にきました!」
ウィンクをしながら親指を立てて言われても・・・・
その姿に緊張が一気に抜けて肩を落とした。
「異界人てそうホイホイと呼び出されるものじゃないから自分が生きてる間に
拝めると思わなくてね~うれしくてつい。」
「それじゃ昨日の視線の犯人もあなたなのね!!」
そう言ってビシッ!と指で刺すとビックリした顔をしてこちらをマジマジと見つ
めてくるのでちょっと照れちゃいました。(元の世界でこんな異性に見つめられた
事なんてなかったんだもの)
そして感心したような顔になって上から下までさらに観察されてますます顔が
赤くなっていく。
「異界人ってすごいな~これでも影やってるから見つからない自信あったんだけど
ちょっと自信無くすなぁ・・・・」
「そうですね、あれだけはっきり視線を感じたくらいですから」
そう言うとガックリと肩を落とし両手で顔を押さえて・・・・・
これは泣き真似かな。
「・・・・異界人だったからだと思いたい・・・・」
アレ、これは結構真面目にショックを受けているようです。覗きをされて
ちょっとムッとしてたのでポロっと言っちゃいましたが直球過ぎましたか反省。
これはどうしたものかと思案しているとバッと顔を上げてこちらに向き直り
「そういえば名乗ってなかったな。俺はエルク。まぁさっき言ったように
姫さんに雇われて影をやっている。何かとかかわってくるかもしれないから
よろしくな」
「私は高橋葵、アオイって呼んでくれていいわ」
「ところでさっきから気になってたんだが・・・・・」
頭を掻きながら言いづらそうにしているので自分の体を確認したが、まだ上着
しか脱いでいないので可笑しなところはないと思うのだが。
「異界人ってのは男でも女言葉で話すのか?」
「へ?」
「話し方がどう聞いても女言葉に聞こえて・・・・いや、偏見はないぞ!」
「あ~それ元の世界で女だったからかなぁ」
「ん?どいうことだ?」
アレ?こっちに召喚されたときに性別変わったけど、それってオカシイ事だった
のかな?これはちょっと確認したほうがよさそうだな。
「元の世界では女だったんだけどこっちの世界に召喚されたら男の子の体になって
たんだけどオカシイの?」
「オカシイというか初めて聞いた話だな」
「初めてってアレ?今までも異界人召喚してるって聞いたけど」
「ああ、この国でもそうだし他の国でも何度か召喚はされているが性別が元の
世界と違うとかは初めて聞いたぞ。大抵は元の世界と性別は同じだ」
「えー!!!」
「まぁ・・・・体は男、心は乙女って奴の場合どうなるかは不明だが」
「失礼な!心も体も女だったわよ!」
「ん~その事姫さんに言ったのか?」
「そういう事もあるのかと思って聞いてないけど明日ちょっと聞いてみる」
「それがいいかもしれん。俺の方でも少し調べてみよう」
これは元の世界に戻る方法を見つける前に肉体を女に戻すのが先な気がしてきた
な。やることが増えたよ~。
「それじゃ俺はもう行くな」
そういって踵を返した所をガシっと服を掴んだ。
「何だ?」
「行く前にお願いがあるの・・・・」
「やれないこともあるから一応聞いてみるが何だ?」
エルクの顔をジッと見て超真顔で言ってみた。
「風呂に入りたいんだけど男の体って洗ったことがないからどうしたらいいと
思う?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「じゃ!」
「まってよ~!」
掴んでる服を外そうとするのを必死で抵抗してさらに強く服を掴む。
「マジ、超マジなんだってば!」
「侍女に頼めばいいだろ!」
「何いってんの!あんな羞恥プレイは朝の着替えだけで十分よ!」
「は?」
「元の世界だと着替えは自分でやるものなの、それなのにズボンのボタンまで
侍女が留めるんだよ?ズボンのボタン横じゃないんだよ?正面なんだよ?やって
もらったことのない人間がそんなことされて恥ずかしくない訳ないじゃない!」
「・・・・・・・・・」
「そんな人間が風呂の手伝い頼めると思う?今日朝速攻でラウラ姫に着替えと
風呂は一人でやるって言ったよ!」
涙目で捲くし立ててる間引き攣った顔で見つめてくる。
そして大きなため息をついて服を掴んでる手を両手で握り締めステキな笑顔で
見つめてきたのでこれは手伝ってもらえる!と期待して力を抜いた途端
フッと姿が消えた。
「わりぃ。それは俺にもなんていえばいいか分からないから一人でがんばれ~」
と声だけでも分かる軽い口調で言って去っていった。
「薄情者ぉぉぉぉ~~~~!」
・・・・・・・・・・・。
泣きながら一人で風呂に入りましたとも!