御歌(ぎょか)
みずからの領地田仲庄の館に帰って文袋の紐を解く。そこにはくくられた中宮の御髪と心付けが、そして桜模様の浮かび上がった唐紙が入っていた。御歌が認められている。「うつろいの花こそ散りね散るならば西方行きて花においせむ」あさましや出家後の妻子への扶養はともかく、自らへの扶持さえも万端怠りなくしつらえた我身など、死を覚悟したかのような中宮様の御歌から見れば、まこと遊びごとごつ数寄者でしかないと、つくづく思わざるを得ない義清であった。
せめて、出家後の法名に御歌の意をいただいたものかどうか、そこまではわからない。しかし桜花の散りざまを誓願とする西行の本懐の所以とはなったであろう。
―小説返歌―
「おもかげの忘らるまじき別れかな名残を人の月にとどめて」
「嘆けとて月やはものを思はするかこち顔なるわが涙かな」
ー西行法師
※「小説返歌」とは和歌の世界における長歌に対する返歌の形式に習ったものです。私は小説家である前に歌人でして、この小説を思い立ったのも実は西行法師の和歌の数々に感銘を受けたがゆえのことです。それですから法師の和歌をどのような形式であっても小説内で皆様にぜひ紹介したいものと思いました。またこちらは甚だ拙歌ながら私自身の和歌も小説内のあちらこちらで登場人物の作として入れております。こちらもどうぞご承知おきください。




