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降臨、大天使ララエル

 Cランクになったレーナに与えられたスキルは、破格なものだった。

 中でも聖属性は本来あるべき属性ではなく、巫女や聖騎士(パラディン)、勇者など、神の恩恵を賜った極一部の者にしか与えられることのない、特別な力なのである。

 この世界を司るニ柱の女神から庇護を受けるレーナであればこそ授けられたのだが、これにより彼女もまた聖なる武器を手にする資格を得てしまった。新たなスキル【槍】に該当する武器がそれにあたるのだが、彼女はこのことについて幸生に話すべきか悩んでいた。


「幸生さん、えっと、あの~」


「あれ、どうかしたの?」


「いえ、その~、……Cランク特典を、授かったのですが……」


 先程までと違い歯切れの悪い様子のレーナに、幸生は疑問に思う。だが、それも一時であった。

 不安そうな表情は残るものの、彼女は思い切って打ち明けることにしたようだ。


「すみません、幸生さん。えっと、私の授かったスキルについて、後で相談したいのですが……」


 そう言いながらもチラリと幸生の背で眠る翔に視線を送り、どこか申し訳なさそうにするレーナ。それもそのはず、聖剣との対話を試みる彼とは違い、彼女はあっさりとその資格を得てしまったのだ。


 そんな戸惑ったレーナの様子から、幸生は彼女もまた厄介な能力を授かってしまったのだと気づく。


「わかりました。僕も翔を早く休ませたいと思っていたので、その後に話しましょう」


 まだ授かったばかりの能力をあれこれ詮索するより、一度落ち着いたほうがいい。そう判断した幸生は弟のこともあるため、すぐに村長の屋敷に戻ろうと提案した。

 

 

 

 一旦、ラブには姿を隠してもらい、村長の屋敷に戻ってきた幸生たち。

 すでに会議は終わっているらしく、入口の前には村長のセトと村の顔役たちが待ち構えていた。


「お疲れさまでした。みなさん、アヴィドボアの討伐を、ありがとうございました」


 代表として村長のセトが礼の言葉を述べると、他の者たちも頭を下げる。さすがに村を代表する者たちだけあり、大騒ぎするような事は無いようだ。


「いえ、これが僕たちの仕事ですから。それよりも、弟が眠ってしまって、出来たら部屋で休ませたいのですが」


 眠っている翔の姿に、どこかホッコリしたような様子のセト。その目はかわいい孫を見るかのような優しさに包まれていた。


「そうでしたか。お部屋の準備はできておりますので、どうぞこちらへ」


 余計な話をせず、まずは翔を休ませようと、セトが自ら案内を買って出る。だが、それでは困るのが村の顔役たちだ。


「セト、例の話は……」


「大丈夫ですよ。幸生様には私から伝えておきます」


「そうか、なら会場で待ってるぞ」


 そんな話をすると、「すまないが、失礼する」そう述べて、屋敷を後にした。




 彼らのために用意された部屋に翔を休ませると、幸生とレーナ、それに唯の3人は、村長の案内で村の広場にやってきた。

 目的は慰労を兼ねた宴会だ。主役である彼らがいないと盛り上がりに欠けるというので、渋々来たのである。


「凄いね。みんな深夜だというのに元気だなあ」


「そうですね。子供たちも一緒になって騒いでいます。でも、あんな怖い目にあったんだから眠れなくても仕方ないですよね」


「ええ、そうね。私もちょっと眠れなさそうですもの」


 時刻はすでに深夜2時。こんな時間から宴会を開くなんてとは思うが、あんな事件の後だけに眠るのは難しいのだろう。

 広場の中央に用意された肉やお酒、そして簡単な料理などを自由に飲み食いしながら、大人たちは仲の良い者同士で集まり談笑し、子供たちは戦いで活躍した木こりたちを囲い盛り上がっている様子だ。


「俺は突進してきたファングボアを華麗によけ、振り向きざまに剣を叩きつけたんだ。鮮血が舞い、致命傷を与えたと確信したね。その後、奴の動きがおかしくなり、次の一撃で……」


「バカ野郎!! お前はそれで吹っ飛ばされたじゃねえか! そんで仕舞いだろうが」


「いやいや、何とか倒しましたよ。助けてもらったけど……」


 子供たちを前に自身の戦いを誇張気味に話すクリス。だが、戦いの一部始終を見ていたバランが激しく突っ込みを入れる。


 そんな二人の会話に、子供たちは大うけだ。


「クリス兄ちゃん、僕見てたよ。カッコ悪かったよね」


「それに比べ、バランさんは超カッコよかった! 僕もバランさんみたいになりたいな」


 木こりたちのリーダーでもあるバランは実力も申し分ない。それに比べ、どこか頼りない様子のクリスは、ちょっと残念な感じだ。

 とはいえ、それは一部の子供たちの意見であり、そうでない子もいる。


「クリスさんカッコよかったです、途中までは……。でも、村を守ってくれてありがとう」


「私はそんなクリス兄ちゃんも好きだよ~」


 感謝の言葉を述べる子供たちに、彼も満更ではないようだ。


「そうか、俺がいる限りこの村は安泰だからな。大船に乗ったつもりでいていいぞ!」


「それなら、もっと鍛えないとなあ。どうだ、これからは俺と稽古でもするか」


「「「じゃあ、僕も一緒にする~」」」


 彼らの戦いぶりに感化された子供たちが稽古という言葉に乗り気な反応を示す。しかし、クリスはというと「いや、えっと、その~」と、あまり乗り気ではなさそうだ。


「もう、クリス兄ちゃん。そんなんじゃあ、また負けちゃうよ」


「いや、俺、勝ったからね。倒したから、一頭……」


 そんな情けないクリスの言葉であったが、次の瞬間、大きな歓声に掻き消された。


 村人たちみんな、幸生たちが来たことに気づいたのだ。


「俺たちの村を救ってくれた英雄の登場だ。盛大な拍手で迎えてやってくれ」


 その一言で広場は大いに盛り上がりを見せる。大人たちが次々に感謝の言葉を述べ、子供たちは興味津々といった様子で群がってきた。さっきまで木こりたちを取り囲んでいた子供も含め、全員が幸生たちのもとに集まっている。

 だが、子供たちの目的である人物がいないことに気づくと、少しガッカリした様子だ。


「剣士の兄ちゃんがいねえ」


「ほんとだ。……残念」


 子供は正直なもので、木こりたちを相手に無双していた翔がいないことを残念がっているのだ。


「ごめんな。弟は凄く頑張ってたから疲れたみたいでね。もう休ませているんだ。明日には元気になっていると思うから、今日は勘弁してあげて」


 幸生がそう伝えると子供たちも理解したようで、「そうだよな。村を救ってくれたんだから、当たり前だよな」と、納得した様子だ。すぐに対象を切り替え「じゃあ、レーナお姉ちゃん、稽古つけてくれよ」と、彼女の方に群がっていった。


 その後、子供や大人たちとの簡単な交流を済ませた幸生たちは、眠っている弟が心配なのでと一言詫びを入れ、広場を後にする。

 もちろん建前に過ぎないのだが、村人たちも快く送り出してくれた。





 再び村長の屋敷へと戻ってきた幸生たち。時刻は3時を回り、もう休まなければならない時間ではあるが、彼らにはまだすることがある。翔を起こすわけにはいかないので、レーナと唯、2人に用意された女性部屋へ3人は集まっていた。


「ラブ、いるんだろ。出てきてくれ」


「はい、ですワン」


 名前を呼ばれたラブが、何もない空間からポンと現れる。彼女は自分の体を自由に不可視化できるため、騒ぎにならないようにと身を隠してもらっていた。


「唯、ビクトの身体を出してくれ」


「はい、わかりました」


 そう言われた唯も、収納していたエルフの亡骸を取り出すと、部屋の中央に寝かせる。そこに一切の躊躇がないことにも驚きだが、幸生もまた胸に穴を穿たれた彼の身体をジッと眺めていた。


「さて、これはどういうことか説明してくれ」


 わざわざ死んでいるビクトの身体を自分に届けた理由(わけ)。それがどうにも分からない。だが、それは彼女も同じであるようだ。


「説明っていっても、リナーテ様からその身体を回収し、この村にいる幸生様に届けるように指示されただけですワン。その後のことは、すべて幸生様にお任せするって言ってたワン」

 

「僕に? そう言われても……、全く心当たりがないんだが……」


 この世界に蘇生魔法は存在しない。それはリナーテ本人から直接聞いているため、死んでしまった相手では、いくら幸生でもどうしようもないのだ。


「幸生さん、ビクトは本当に死んでいるんでしょうか? ストレージには入らないので、もしかしたら……」


 生きていて欲しい。レーナはそう思って、幸生に提案する。だが、体の損傷がひどく、生きているようには見えない。


「胸に穴が開いた状態で生きてるなんて……、ありえないだろう」


 この状態で生きているなんて、そう思う彼は完全否定をする。しかし、唯はもっと簡単に考えているようだ。


「幸生様、回復魔法をかけてみてはどうでしょう。もし生きているなら治るんじゃないですか?」


「そうだね。試してみてもいいか。――この者を癒したまえ【治癒回復(キュアヒール)】」


 彼女の提案を聞き入れ、物は試しとビクトに治癒の魔法をかけるが、何の変化もない。やはり彼は死んでいるらしかった。


「変化無しか……。残念だけど、やっぱり彼は死んでいるみたいだね」


「そうですか……」


 仲間である彼の死。それを現実と受け止め、レーナはガックリと肩を落とす。


 結局、これでまた理由が分からなくなってしまった。だが、リナーテが彼を幸生のもとに届けた意味は、必ずあるはずである。


「リナーテは僕に何をさせようとしているんだ?」


 いくら考えても理由が分からず、そう愚痴をこぼしたその時だった。

 神々しいばかりの光が部屋中を照らし、そこに人の姿が現れたのだ。

 背中からは白い翼が生え、頭には光輝く天使のリング。明らかにこの世の者ではない姿である。


「誰だ!?」


 幸生は眩しさから直視できていないようだ。しかし、レーナにはその姿がハッキリと見えていた。


「まさか、そんな……。ララエル様」


 光の中に立つ者の正体。それは大天使ララエルであった。



 




 



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