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シダ村の戦い⑤

 ファングボアとの戦闘を終えた幸生が見守る中、翔とアヴィドボアの戦いは続いている。

 巨体を生かし、プレッシャーをかけ続けるアヴィドボアの猛攻を、翔がなんとか凌いでいるという展開だ。



 互いの力量を探り合うなどということもなく始まった戦いは、いきなり短突進を繰り出してきたアヴィドボアに対し、翔は後手に回ってしまった。

 小刻みに繰り返される突進はターンも速く、厄介な攻撃である。そのうえ、4メートルを超える巨体であり、接近されればその質量に邪魔されて身動きが取れない。

 次第に逃げ場を失い、追い詰められていく翔。

 無理やり聖剣を振るうことで難を逃れようとするも、その攻撃は読まれていた。


 アヴィドボアはむやみやたらと振られる剣を牙で弾き、その勢いのまま体当たりを仕掛ける。


 翔はその攻撃をまともに食らい30メートルほど吹っ飛ばされ、『ダンッ』と背中から地面に落ちた。

 それでも意識はハッキリしていたため、アヴィドボアの追撃を警戒しすぐさま起き上がろうとするが、「ゲホッゲホッ!」と激しくむせてしまう。どうやら、彼が思っている以上にダメージを受けていたようだ。力も入らず、呼吸もままならない。


「ゲホッ、ヤ、ヤベェ……」


 まだ戦いが始まったばかりだというのに、翔は大きなダメージを負ってしまった。


 彼の着る革ジャンには物理耐性が付いているものの、50%カットでしかなく、敵の攻撃に対し半分のダメージを負ってしまう。

 もしこの攻撃が彼の体力を大きく上回るものであれば、一撃で倒されてしまう可能性もあるため、安心はできない。

 幸い、そこまでの威力ではなかったため無事であったが、戦いはまだ始まったばかりだ。

 敵の追撃が緩む事は無い。


 

「いねぇ! 奴はどこだ!!」


 ようやく呼吸も落ち着き立ち上がった翔は、アヴィドボアの姿を探すが見当たらない。

 あれだけの巨体を隠せるような場所は無いはずなのに、いないのだ。

 

 しかし、彼は一瞬だけ何かが横切ったような気配を感じた。


「ハッ! まさか、上!!」


 そう、それは巨大な影。それが意味することを察し、大きく飛びのいた矢先、その場所にアヴィドボアの巨体が降ってきた。


「ズドオオーーン!!」


 地面を揺らす大きな衝撃に、翔はバランスを崩す。この場を狙われれば一巻の終わりだ。しかし、着地したアヴィドボアも動けないでいた。スキル『跳躍』を使い大きく飛び上がったものの、その反動で硬直していたのだ。

 互いに仲間がいなかったことで反撃を避けることが出来たが、今のはヤバかった。

 兄の放った魔法光の雨(シャイニングレイン)で影ができたことで避けられたが、もし月の光だけであれば押しつぶされていたことであろう。


 だが、この攻撃には意味があった。

 これにより、氷拘束に捕らえられた仲間たちを解き放ったのだ。

 氷魔法は振動に弱く、地面を揺らすことで簡単に破壊できる。

 結果的に、その甲斐もなくファングボアたちは全滅してしまったが、その巨体が飛んだということに翔は恐怖を覚えていた。

 パワー型であるにもかかわらず、速い動きにスキル『跳躍』まで使い熟す。そんな化け物相手にどう戦えばいいというのか。

 彼には相性の悪い相手であった。



 

 翔が一方的に押されたまま、戦いは続く。

 このままでは埒が明かないと、彼はスキルの使用を選択した。


「『アクセルブースト』」


 スキルランクがEのアクセルブーストは持続時間が1分。その効果は彼のスピードが2倍になるというものだが、連続使用は不可でインターバルも1分かかるため、有効な手段とは言えない。

 だが、それでも何かしらの変化が欲しくて、彼は動いた。


 そのスピードを生かし果敢に攻める翔。本来なら多彩な技を披露し追い詰めていくのだが、相手が巨体であるため、なかなか難しい。

 それでも先ほどまでとは違い速い動きで敵を翻弄し、少しずつだが傷を負わせていた。

 しかし、1分という時間は長いようで短い。大きなダメージを与えることは叶わず、効果は切れてしまった。

 ここからは次の1分間をどうやり過ごすかの戦いだ。

 アヴィドボアは気づいており、またしても短突進が始まっていた。


 繰り返される小刻みな突進に、翔はもううんざりだ。


「くそっ、いつまで続くんだこれ。いい加減にしやがれ」


 そう言ってはみたものの、自分が完ぺきに避けれなければ終わらないことは分かっている。スキル『瞬速』という手もあるのだが、消費魔力も大きく長期戦には向いていない。


「どうする? 跳ぶか? いや、アイツも跳んだらこっちが不利だな……」


 翔もスキル『跳躍』を覚えてはいるが、空中で激突となったら吹っ飛ばされるのは目に見えている。

 空中では身動きが取れないため、かわすことは難しい。


 そんなことを考えているとインターバルも終わる。

 2度目の『アクセルブースト』を使い、少しずつだがアヴィドボアに傷を負わせていく。


 こうして何度か繰り返しているうちに、幸生たちの戦いは終わっていた。




 仲間たちがすべて殺されたことで、アヴィドボアは激高する。強欲の名を冠するだけあり、自分のものを奪われることは許せないのだ。


「うげぇ、こいつ動きが変わりやがった。さっきまでは手を抜いてたのかよ!」


 怒り狂うアヴィドボアは短突進に、牙を使ったかち上げや真横に転がる横転などを混ぜ、なりふり構わず暴れまわるといった様子だ。


 すでに何度か攻撃を受け、スタミナを減らしている翔に、この攻撃は脅威であった。

 あと一度でも大きな攻撃を受ければ終わりかねない、そんな状況なのである。


 とはいえ、今はアクセルブーストを使い終えたばかりであり、タイミングは最悪であった。

 急激な変則攻撃に対応できるほどの余裕は、彼になかった。


「やべぇ!!」


 それはほんの一瞬遅れただけである。しかし、その一瞬が命取りだ。

 翔は短突進からのかち上げをまともに食らい、大きく打ち上げられてしまったのだ。


 アヴィドボアは止めを刺そうと数歩後ずさりし、体勢を低く構える。これはスキル『牙突』を使うための、予備動作だ。落ちてきたところを強靭な牙で仕留める、そう考えているのだ。

 アヴィドボアの牙は体全体のバランスで見れば短くなっているように見えるが、実際はファングボアや、カルムボアと変わらない。むしろ、より強靭で鋭くなっていた。

 その牙を地面ギリギリのところから突き上げるかのように刺し貫く。そういった技なのである。



 

 幸生の心は弟のピンチに激しく揺れていた。任せるといった手前、できれば手を出したくない。

 だが、この状況がまずいことは十分理解していた。成長のためとはいっても、死んでしまっては意味がない。

 それでも、ためらわずにはいられなかった。すべてを含めて任せたのだから、自分は見守るべきだ。

 そう決めていたのたから。

 だが……。


「うわあああああああ」


 空中でなすすべなく叫び声をあげる弟に、幸生の身体は動き出していた。大事な弟を見殺しにするなど、ありえないからだ。


「水よ集え【水牢(ウォータープリズン)】」


 彼が放った魔法は水牢。落下してくる弟を助け、アヴィドボアの牙を防ぐとなれば、これが確実である。

 だが、そこでおかしな現象が起きる。集まってくる水の量が異常なのだ。


 魔法の発動は個人の持つ魔力量が重要であり、それを触媒となる宝石などを通し威力を上げている。勿論、自然の火や水、地、光、風を利用してもいいのだが、まれに精霊の力を借りることでその威力を大幅に増幅させる者がいる。

 召喚魔法を使う夢愛がそれで、自然界に漂う精霊たちの力を借りて魔法を行使していた。

 彼女は精霊たちとの結びつきが強く、周囲には自然と集まってくる。そのため、彼女の呼びかけに反応し、結果、必要以上に強力な魔法を放ってしまっていた。


 そして、今の幸生もそんな状態である。


 翔を水風船のようなものに閉じ込め攻撃から守るつもりであったが、その水風船がデカい。

 アヴィドボアを楽に閉じ込められるような大きさだ。


「なんだ、これ……」


 呆気にとられる幸生であったが、これは好都合でもある。

 目標を切り替え、翔には新たな水牢を作りだす。

 そして放ったのである。



 

 アヴィドボアは幸生の様子を気にしつつも、翔に止めを刺そうと意識を集中していた。

 敵は罠に落ち、もはや反撃できる状況ではない。

 こうなれば奴が動く。そう考え、様子を見ていたのである。

 幸生は仲間を殺した張本人であり、にっくき仇だ。

 すでに勝負の着いた相手なんかより、仲間の仇討の方が重要である。何もしなければこのまま男を殺し、次は奴だ。そう考えていた。




 幸生の放った水牢は、警戒していたアヴィドボアにアッサリかわされる。しかし、翔に向かった水牢には気づいていないらしく、無事その中に閉じ込めることに成功した。

 これで彼は保護されたはずなのだが、どこか様子が変だ。

 いつの間にか、彼の持つ聖剣から青白い光が漏れ出ていた。


「なんだ、あれは」


 アヴィドボアの意識は幸生に向いているらしく、翔の変化に全く気づいていない。

 空中に飛ばされていた時とは違い、目をカッと見開いて立った状態だ。

 しかし、それは彼らしくない姿ともいえる。


「兄貴、これを解いてくれ」


 その声は翔のものであったが、明らかに変だ。


「お、おまえ……」


 幸生はこの状態に見覚えがあり、何が起きているかの想像がついていた。


 そして、水牢を解除する。




「待たせたな。ここからが本番だ」


 その声に驚いたのはアヴィドボアである。もう地面に落下して死んでいるはずの男が、生きているのだ。

 しかも、男から発せられる気配がヤバい。


(お前、何を!)


 言葉を話せないが、心の声はそんな感じだ。

 聖剣から漏れ出す青白い光が、今は翔まで覆いつくしている。

 そもそも聖剣とは魔族相手に特化した武器で、魔王軍だけでなく魔物にも有効だ。


(ヤバい!)


 アヴィドボアはすぐにでも逃げ出したい心境であった。




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