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シダ村の戦い②

前回ビクトとラクトを間違えて記入していました。

正しくは、ラクト→ビクトです。

すでに訂正は済ませております。申し訳ありません。


 森を抜けだした後、真っすぐ幸生たち目指し進んでくる大きな犬を、レーナは助けましょうと言った。彼女はその犬の正体に確信を持っているらしく「大変! 追いつかれてしまうわ!」と、心配した様子だ。

 しかし、幸生はその犬がどういった存在であるか分からないため、動けないでいる。

 月明かりしかなく、それが犬であることは分かるのだが、正確な情報は掴めていない。敵か味方か区別がつかないのだ。


(魔物を村へ押し付けるつもりなのか)


 そう考えたとしても、仕方がない。

 

 だが、それも杞憂に終わる。というのも、その犬が彼に向けて言葉を発したからだ。


「ユキオさまああああああああ!!」


 自身が疑われていると察したのか、懸命に叫ぶその声は、幸生に届いた。


「なっ! ラブじゃないか。どうしてここに……」


 こちらに駆けてくる犬が妹の召喚精霊であったラブだとわかり、幸生は呆気にとられた様子だ。

 それは翔も同じことで、むしろ状況の悪さに頭を抱えている。

 

「うわっ、マジか。何やってんだよアイツ……」


 彼にとってラブは妹からモフモフを狙われる仲間であるため、妙に意気投合していた。彼女も(あるじ)からのモフモフ攻撃は嫌ではないのだが、しつこすぎるため逃げたくなるのだ。

 いかにして早く終わらせるか、それが共通の悩みであった。

 

 そして唯も夢愛から話を聞いていたらしく「そうですか、あの子が」と、納得した様子だ。


(夢愛様が悲しまないよう、無事保護しなければなりませんね)


 と、新たな決意を固めていた。




 幸生はすぐ行動に移す。大事な仲間が襲われているとあっては、黙って見ているわけにはいかない。彼女を見捨てるなどしたら、妹が悲しむのは明白であり、許しては貰えないだろう。


「翔、助けるぞ。行けるな!」


「おう、任せてくれ!」


 迫ってくる魔物はカルムボアとファングボアが2頭。彼が本気を出せば、すぐに片が付くはずだ。まずは先の3頭を倒し、ラブを助ける。それからアヴィドボアを倒す。

 そう考え、行動を起こそうとした、その時だった。

 急に魔物たちが進路を変え、村へと向かったのだ。そのため、ラブは無事に幸生たちとの合流を果たすのだが、状況は最悪である。目標となるのは村の南側。そこには村人たちが多く集まっていた。


「まずい! 魔物たちが村へ向かったぞ!」


「クッソー! どうするよ!」


 魔物たちの不意な方向転換に、動揺する2人。だが、レーナは落ち着いていた。


「幸生さん、あちらはベンに任せましょう。彼の実力は私より上ですから、心配いりませんよ」


「そうなのか……」


「ええ、イヌヤマ子爵家に仕える仲間たちは、全員が戦闘能力を有しています。幸生()を守るための精鋭たちですので、問題ありません」


 そう、自信たっぷりに答えた。


 Dランクのレーナより上の実力ということであれば、脅威度Dのカルムボアなど敵ではない。

 それならば、と安心したのも束の間、新たな問題が降りかかる。


「やっべぇ! さすがにあれはマズいって!」 

 

 後ろから追いかけていたアヴィドボア率いるファングボア30頭の内、10頭がカルムボアを追い進路を変えたのだ。


 全部で13頭の魔物が村を襲うことになる。1人で対処するに多すぎる数だ。


(どうする? ここは村へ引くべきか……)


 別々に対応するよりも纏まった方がいいのでは。そう思いもするが、これだけの数の魔物を村に近づけるのも危険である。


「くっそー、どうすればいいんだ!」


 幸生にしては珍しく悪態をつくが、考えがまとまらず打つ手がない。

 このままでは村に大きな被害が出てしまうことになる。それを避けるために残された手段は、翔かレーナのどちらかに10頭のファングボアを任せるしかないのだが、それは危険な賭けでもある。アヴィドボアの群れは、今の幸生たちでも苦戦は免れない相手なのだ。


 そんな時、村からベンが姿を見せた。彼の後ろには木こりたちが続いている。それぞれが手に武器を持ち気合十分といった様子で、思い思いのポージングを決めていた。


「何してんだ!? あのオッサン達」


「ハハハ、いいじゃないか。助かるよ」


 稽古をつけられていた時とは別人のような木こりたちに、翔は呆れた様子だ。

 とはいえ、もともと力もあり、ファングボア程度なら自分たちで対処できた人たちである。カルムボアさえ何とかなれば、十分戦えるはずであった。


 幸生は彼らに村を任せ、自分たちは目の前の戦いに集中することにした。



 それから数秒後、ラブが無事合流を果たす。


「幸生様あああ。お会いできて嬉しゅうございますワン!」


 魔物たちの追撃から逃げ延びて、幸生と会えたことに感無量といった様子のラブ。

 だが、その背に乗っている物を見たレーナが、驚きの声をあげた。


「ちょっと、これって。 ……嘘でしょう、ビクトなの……」


 それはアウルによって胸に穴をあけられたビクトの死体である。エルフ族ということもあり、以前と変わらないままの姿であった。


「ビクト……」


 幸生は、夢愛から彼が殺された話は聞いていた。だが、それでも現実に目の当たりすると、キツイものがある。

 ビクトはエルフ族の中でも重要な地位を得ていたため、運営側である幸生との接点も多い。そのため、余計に込み上げるものがあるのだ。


 とはいえ、今はそれどころではない。すでにカルムボアたちは村に近づき、アヴィドボアが幸生たちに迫っている。

 すぐに気持ちを切り替え、ラブから話を聞いた。


「それで、どうして彼を運んでいたんだ?」


「リナーテ様の指示ですワン。幸生様に届けるように言われたのですワン」


「リナーテが? それはどういうことだ」


「私にもわかないんですワン。ただそうしろと命令されただけなのですワン」


 リナーテの指示と言われても、幸生には全く心当たりがない。死んだ者を生き返らす魔法など存在していないし、それならむしろ女神の方が適役である。


「幸生さん、時間もありませんし、一旦ストレージに入れてはどうですか?」


 レーナに促され、幸生はスマホを取り出しストレージを開いた。

 ストレージに生き物は入れられないが、死んでいれば入れることが出来る。

 しかし……。


「入らない……。まさかこの状態で生きているのか……」


 ビクトの体はストレージに入れることが出来なかった。それは彼がまだ生きているという意味でもあるのだが、そこまでは頭が働かない。


「唯、君の収納に入れてくれ」


「はい、わかりました」


 唯のスキルは無限収納。生きているものを入れることが出来るか分からないが、ビクトの体は無事に納まった。


 これにてラブの任務は終了した。




 

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