表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/241

シダ村の戦い①

 事の起こり、それは八時間ほど前のことだった。


 破壊の魔人アウルとの戦いで命を落とし亡骸となったビクトの体を回収したラブは、幸生と合流するためシダ村へと向かっていた。

 まだ日のある時間であったため街道を避け、森の中を慎重に進む彼女であったが、その選択を後悔することとなる。

 というのも、森の中に嫌な気配があったのだ。


「あんな奴がいるなんて、聞いてないんだワン」


 彼女が感じ取ったのは、強者の気配。アヴィドボアと呼ばれる巨大なイノシシだ。

 体高は四メートルほどで、毛並みは灰色。気性も激しく、力任せに暴れまわる。

 厄介極まりない相手であった。 


 それでもラブは探索能力に優れたクーシーだ。広範囲の索敵が得意で、すでに魔物たちの分布を正確に把握している。


「アヴィドボアと三十頭のファングボアなんだワン。見つかったら大変だから、慎重に進むんだワン」


 彼女の背中には死亡したビクトも乗っているため、全力で走ることは難しく、見つかったなら逃げ切れる保証はない。

 けれど、ビクトの亡骸を幸生に届けることが彼女の使命であるため、ここで立ち止まっているわけにはいかなかった。


 


 そうして森の中を慎重に進むこと8時間。リベルタからシダ村までは、街道を進めば1時間足らずで着く距離である。それがここまでかかったってしまったのは、アヴィドボアに見つかるまいと、あちこち彷徨った結果であった。

 だが、それでも目的の場所には近づいていた。もう少しで森を抜ける、そんな場所まで来ていたのだ。

 

 必然的に彼女の意識は森の外へと向かい、少しだけ気が緩む。


「もうすぐ幸生様に会えるんだワン」


 森の外に感じる懐かしい気配。彼女は夢愛の召喚精霊でもあったが、直接の主は幸生である。優しく、温かな御主人様との再会に、ラブは心を踊らせた。

 だが、運命は優しくない。一瞬の気の緩み、それが危機を招くこととなる。


 というのも、いつの間にか新たな敵の気配が近づいていたのだ。


「しまった! のだワン」

 

 不穏な空気を感じ、慌てて意識を戻す。だが、もはや手遅れであった。

 突如現れたカルムボアと2頭のファングボアの群れ。まだ少し距離はあるが、追いつかれるのも時間の問題だ。

 

「どうする……」


 一瞬だけ逡巡するが、彼女のやるべきことは1つしかない。

 幸生たちとの合流を目指し、一目散に駆け出していた。




 一方、ラブを追いかけるカルムボアたちはというと、また様子は違っていた。

 アヴィドボアを避けるように移動していたのだが、運悪く見つかってしまったのだ。

 もともと敵対していただけに、捕まれば殺されると分かっている。なら、逃げるしかない。

 アヴィドボアの追撃から逃れようと、なりふり構わず全力で走る。

 だが、敵は大群。いずれは包囲され捕まってしまう。


 そんな時、偶然にも自分たちが向かう先に不思議な気配を感じた。


(アレだ!)

 

 そう判断し、カルムボアはラブを目標に切り替えたのである。


 


 そして現在に至る。


 森を抜けだし懸命に走るラブ。それでも背中に乗せたビクトには注意を払っていた。彼女がここまで来た最大の目的が彼である。万が一にも落とすわけにはいかない。


 そして、彼女を追従するカルムボアたちも必死である。自分たちに変わる餌をアヴィドボアに提供するつもりなのだから、それも当然だ。

 しかし、ここにきて予定が変わる。村にたどり着いてしまったため、こちらを餌にと考えたのである。

 せっかく手に入れた美味しい餌場であったが、自分たちの命に比べたら安い。

 カルムボアたちは目標を変え、村へと進路を変更した。


 最後にそれらすべてを追いかけるアヴィドボアは、進路を二手に分ける。

 明らかに強者がいると思われるところには自身が向かい、カルムボアの追跡は10頭のファングボアに任せた。

 獲物はすべて逃がさない。それが強欲(アヴィド)と呼ばれる所以である。


 これにてカルムボアの計画は、早々に崩れ去った。


 


 一方、大きな地響きの音で目を覚ました村人たちは、恐怖心から村の広場に集まりだしていた。

 そこで彼らが目にしたのは、真っすぐこちらに向かってくる魔物の群れ。


「おい、なんだよあれ……」


「なんてことだ……。この世の終わりなのか……」


「ああ、ラルム様……。どうか我々を……」


 村人たちは、ただその光景に怯え、直に口を閉ざす。絶望、それだけであった。


 だが、そんな人々にに活を入れる者がいる。


「おいおい、シケた面してんじゃねえよ。あんな奴ら、俺が退治してやんぜ」


 それは木こりたちの頭領、バランであった。事実、彼はそれほど怯えた風でもなく、むしろ自信満々といった様子だ。本気で退治できる。そう思っているのである。

 そして、それは他の木こりたちも同様であった。


「バランさん。俺たちの分も残しておいてくださいよ」


 そう言って、にかッと笑顔を向ける5人の木こりたち。それぞれ自信があるようで、やる気満々といった感じだ。


 そして、それを待っていたかのようにベンが口を開く。


「そうですか。では、皆さんに武器を授けましょう。私の乗ってきた馬車に剣や斧といった武器があります。どうぞご自由にお使いください」


「おおっ! ありがたい。

 ヨシ! みんな、取りに行くぞ!」


 木こりたちはみんな、歓喜に満ちた表情で馬車に向い、思い思いの武器を手に戻ってきた。

 これから彼らには、魔物たちとの激闘が待っているのだ。


 そして、村長は村人たちに避難を命じていた。村の入口である街道側に集まり、いつでも逃げ出せるよう準備を始めたのだ。

 村の食料を犠牲にすれば、しばらくは時間が稼げる。そう判断したのである。


 こうして、すべてが整った。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ