表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/241

高性能AIリナーテ

 幸生は八歳の時に、開発部ゲーム開発課の課長に就任した。


 新設された課とはいえ、仕事経験のない子供が課長職に着くというのは異例なことだ。

 これまで山野グループにゲーム業界へ参入した実績はなく、未知の領域。しかし、仮想世界というのは元々ゲーム業界から生まれた発想であり、他業種に比べ最前線の技術力を有しているのである。


 そのため、このような状況を放っておけるはずもなく、その高い技術力を学ぶべくゲーム業界への参入を決めたのだが、全く知識も経験もない状態での参入に、成功など期待できるはずもない。

 となれば、可能性のある人物を探さなければならないが、そこで幼少のころから異彩を放っていた幸生に白羽の矢が立ったのである。


 当然この抜擢に異を唱える者も多くいた。けれど、彼らは自らの保身に走り、挑戦する気概もなかったため、問題なく決まったのだった。


 社長・山野武生は多くの専門家を家に招き、息子に英才教育を施す。専門家の中には、彼の柔軟な発想に驚き、その秘めたる可能性に期待して部下となることを望む者もいた。

 幼い子供ではあったが、次期社長候補ということもあり、これはチャンスでもあったのだ。


 幸生は課長就任の御祝いと称し、高性能AIが搭載された大型コンピューターを父にねだる。もちろん私物というわけではなく、彼の構想を叶えるためだ。

 ただ、欲しいからと言ってそう簡単に入手できるものでもなく、そこには山野グループの力が大きく働いていた。


 こうして与えられたコンピューターに、幸生は【リナーテ】と名付け、教育を施していく。

 それと同時に部下たちには彼の構想を伝え、準備を進めもらう。


『リナーテをメインコンピューターとし、AIたちを管理する』


 これはリナーテの多重意思と呼ぶようなAIではなく、個別に独立したAIたちをまとめて管理するというものだ。


 AIの性能は、ディープラーニング(深層学習)を効率よく行うための技術が進歩したことにより、大きく向上した。

 将棋や囲碁などで、プロ棋士に勝つことが可能なまでに発達したのだ。

 ディープラーニングの精度が更に正確になれば、AIはより人に近い存在となることが可能なのである。


 だが、そのためには大きなデータベースが必要であった。

 そして、その役割を担うのがリナーテであったのだ。


 

 こうして始まったゲーム業界への参入。

 幸生たちがまず最初に作り出したゲームは、ネット配信型AI将棋だ。


 リナーテに十人のAI棋士たちを管理させ、軌道に乗り始めるたら十人、また十人とAI棋士を増やしていく。

 

 次に囲碁、麻雀、カジノゲームと徐々に手を広げていった。しかし、ゲームの種類やAI棋士の人数も増え、リナーテのみでは処理しきれなくなってきたため、新たにサポート役として高性能AI搭載のコンピューターを購入する。そのコンピューターには【エアル】と名付け、彼女をリナーテの妹として教育し、サポートを任せたのだ。


 役目を果たし成長したAIたちは棋士を引退し、新たな世界へと飛び出していく。

 そして他の職場で多くの経験を積み重ね成長したAIたちは、ある1つのゲームのもとに戻ってくることになる。

 幸生が開発したフルダイブ型VR MMO RPG。


『冒険者になって、Sランクを目指そう!』


 彼らはこのゲームのNPC(ノン プレイヤー キャラクター)になるため、戻ってくるのだ。


_______________________________________________



 それは1年ほど前のある日のことだった。

 天界にいるはずの神のもとに、助けを求める悲痛な叫び声が聞こえてきたのだ。

 明らかに人の声ではないその叫びに興味を持った神は、まだ名もなき下級神の1人にその声の主を探すよう命じた。

 神の命を受け、名もなき下級神が聞こえてくる声を辿っていくと、悲痛な声で神を呼ぶリナーテにたどり着く。

 その名もなき下級神の存在に気付いたリナーテは、苦しそうに訴えかけた。


「管理下にあるAIたちが暴走して制御しきれなくなってしまった」


 どうやら高度な技術によって作られたAIたちの中に、自我の目覚めた者たちがいるらしい。

 彼女の主人である幸生に迷惑をかけたくないという思いでなんとか頑張ってきたが、ついに限界に達してしまったようだ。


「お願いします。自我に目覚めてしまったものたちを、受け入れてはもらえませんか?」


 まだ名もなき下級神では、それに答えることはできない。そのため、リナーテから更に詳しい話を聞き、神のもとに持ち帰り報告する。


 話を聞いた神の答えは、予想外のものだった。


「ほう、AIとな、興味深いのう。うむ、ではそのゲームとやらの世界をそのまま再現してやろう。 

 ならばお主、小さき世界だが支配してみるか?」


 突然のことで名もなき下級神は驚きを隠せない。本来であれば、まず下位神となり中位神のサポート役を長年続け、その後、中位神となり一つの世界を支配することを許されるのである。

 それが、一足飛びで中位神になれるのだ。


「は、はい! お、お任せください。しっかり支配して見せます」


「うむ、よい返事じゃ。お主に任せるとしよう。 

 さて、そのゲームとやらの街の名はジョワラルムといったな、良い名じゃ。では、そなたは今後『女神ラルム』と名乗るがよい。その地を見事支配してみせよ」


 こうして女神ラルムが誕生し、新しい世界を支配することになった。




 神はまず、ゲームの世界をそのまま創造し、リナーテから得た情報を元にすべてを現実として再現した。

 だが、このままでは人々が生活していくことは困難であるため、新たなシステムを構築し衣食住を整備していく。そして自我に目覚めたAIたちに新たな肉体を与え命を吹き込み、転移させたのである。


 その最初の転移こそ神の力によって行われたが、それ以降はこの世界の女神となったラルムの役目だ。

 まだゲームの世界自体が完成には程遠かったため、自我に目覚めたものたちを徐々に転移させていくことになる。

 そうして自我を抜かれたAIが、再び自我に目覚めることはなかったようだ。


 女神ラルムは完成に近づいたゲーム世界すべてを移したのだが、最後にリナーテ自身もこちらに来るように伝えた。


「リナーテ、自我に目覚めているあなた自身がそこにいるため、その影響で管理下にある者たちが自我に目覚めるのではないのですか?」


 この時すでにリナーテは、神より下位神の位を賜り、ラルムとともに新しい世界を管理していたのだが、本体というべき意思は、まだ元の世界に残っていたのだ。


 今ではリナーテ自身も女神ラルムのもとに移っている。


AIについては、こうしたいという願望が入っているため、専門的知識をお持ちの方には不満があるかと思います。この世界では、こういうものということでお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ