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アシューリ商会

 迷い猫の捜索を夢愛とマリナに任せた幸生は、残りのメンバーと共にイヌヤマ子爵邸へと戻ってきた。

 というのも、今回の移動には夢愛がいないため、ゴーレム馬車を利用できないからだ。

 シダ村はサカオ町より更に南にあり、歩きで行けば半日ほどかかる。そのため、馬車を引かせる馬を調達しに来たのだ。

 通常の馬車では舗装されていない街道でスピードを出すことは難しく、歩く速さと変わらない。

 けれど、彼らの馬車は特殊な構造をしているため、スピードを出しても振動を抑えることができるのだ。


 幸生は指名依頼の内容をリョウイチに伝え、今日が泊まりになることを話し、夢愛がいないからと馬を借りる許可も貰う。そして、仲間たちと一緒に厩へ向かった。そこで彼らの馬車を引かせる馬を選ぶつもりであったのだが、その途中、目ざとく話を聞きつけた御者のベンが声をかけてきた。


「幸生様、馬をお探しとのことですが、御者も必要ではないですか?」


 さっそく自分を売り込んでくるベンに、レーナが口を挟む。


「あら、ベン。御者くらい私にもできるわ」


 レーナは操馬(そうば)スキルを所持しているため、御者もできると豪語しているのだが、実はまだ一度も実践経験がない。それでも乗馬はできるし、夢愛の呼び出した精霊によるゴーレム馬車で、御者の練習もしていた。しかし、ベンからしてみれば、その程度で御者ができると思われてはたまらない。そもそも、乗せる相手は幸生なのである。

 

「実践経験の足りないレーナさんが御者をして、もし幸生様に何かあったらどうするのですか?」


「そ、それは……」


 確信を突かれ言い淀むレーナではあるが、万が一幸生にケガなどさせようものなら大事(おおごと)である。だからこそベンは自信ありげに、こう続けた。


「では、私があなたに御者の指導を行いましょう。それで、私も付いていきますけどよろしいですね」


「……わかったわ。お願いね」


 少し納得いかない様子のレーナではあるが、彼の言葉が正しいのも事実だ。護衛という立場である自分が、幸生を危険に晒すなどあってはならない。今後のことを考えれば、ここで彼からの指導を受け、しっかりした技術を身に付けた方がいいかもしれない。そう考え、渋々ながらも頷いた。


 こうして話が纏まりかけたところであったが、ふと幸生が疑問を口にする。


「でも、ベンはリョウイチさんの御者じゃないのかい?」


 そう、それは当然の疑問であった。彼かいなくなれば、リョウイチの御者をするものがいなくなる。子爵位を持つものが、歩いて移動するなどありえないことだ。しかし、ベンからしてみれば、どうでもいいことのようであった。


「いやですよ、そんなの幸生様を優先するに決まってるじゃないですか」


「ちょっと、ベン‼」


 あまりにも彼の口調がフランクすぎて、レーナは驚いてしまう。そもそも、主人であるリョウイチに対しても不敬な発言だ。しかし、当の本人は全く気にした様子もなく「私の愛馬を連れてきますね」と言って、フンフンと鼻歌交じりで去っていった。

 その様子を呆然と見送った幸生たちではあるが、早々に出発できるに越したことはない。ベンの申し出を快く受け、彼の愛馬に馬車を引いてもらい、シダ村へ向かうこととなった。



 ☆☆☆



 一方、夢愛とマリナは迷い猫であるリリィの詳細を確認するため、アシューリ商会を訪れていた。


「こんにちは。依頼を受けた冒険者ですけど、詳しいお話を聞かせて貰いに来ました」


 商会の入口で受付嬢にそう説明するのは、マリナである。当然2人の関係性でいえば夢愛の方が立場は上だ。しかし、少女にしか見えない彼女が話を進めるのには無理がある。そこでマリナが中心となって話をすることにし、夢愛は孫娘を安心させる役目になったのだが、ここで1つ問題が発生した。残念なことに、彼女は世情に疎かったのである。元がAIであり、長いことグリーンゴブリンとして生きてきた彼女は、人としての知識がほとんどない。そのため、店内に置かれている商品に目が釘付けとなってしまい、依頼者である会頭が孫娘と姿を見せるまで「お嬢様、あれは何ですか?」と、大はしゃぎしたのである。


 アシューリ商会の建物は、3階建てのデパートのような造りで、1階はファッションアイテムなどを並べたアパレルショップと、小物や生活用品などの日用品を販売するフロアー。そして2階は武器や鎧といった冒険者向けの装備品に、クワやスコップ、鉄製なべなどの金属加工品、更に作業着やリュックなどの仕事用品を販売するフロアーだ。そして3階は、魔法道具を取扱う店であった。どのフロアーにも数軒の専門店が入り、互いに独自のスタイルでショップを展開している。つまり、アシューリ商会が家主となり、希望者に店舗を貸しているのだ。もちろん、誰でも借りられるという訳ではない。出店を希望するものは厳正な審査に掛けられ、認められた者のみがお店を開くことができる。それらの店はアシューリ商会に属すことになるため、この場所に店を開くことは、1つのステータスとなっていた。それほどの、ネームヴァリューを持つのである。

 

 そんなアシューリ商会の1階、アパレルショップの1つ『ミライエ』に夢愛とマリナはいた。このお店の特徴は、洋服だけでなくバックや小物まで充実していることだ。


「お嬢様、これはどうやって使えばいいのでしょう?」


 マリナが手に持っているのは1本タイプのかんざしであった。細い棒の先に鼈甲で作られたネコのモチーフが付けられている可愛らしい逸品だ。


「あ、それはね、こうするの」


 夢愛は自分の髪を纏めているシュシュをはずし、一旦髪をすいたあとお団子状に纏めていく。そして、準備が整ったところでマリナからかんざしを受け取り、纏めた髪の中心辺りにプスリと差した。


「わぁ、お嬢様、とってもお可愛らしいです!」


 普段と違った夢愛の姿に、マリナは感動した様子だ。幼い見た目の彼女が髪をアップにすることで、ちょっとだけ背伸びしようしている少女に見えたのである。


 2人の仲睦まじい会話に店員さんたちもホッコリした様子だ。いつの間にか、多くのスタッフが集まり、2人を見守っていた。


 そんな中、ようやく姿をみせたのはアシューリ商会の会頭と、その孫娘である。会頭は真っ白な髪に見事な白髭を生やした、恰幅のいい老人であった。


「おやおや、これは何事かな?」


 売り場の様子を見て異変を感じとった会頭は、にこやかな笑みを浮かべながら誰ともなしにそう尋ねた。だが、その視線は真っ直ぐに夢愛へと注がれている。


「ほう、これはまた可愛らしいお嬢さんだ。どこのお貴族様かと思いましたわい」


 夢愛が着ているのは赤いパーカーにショーパン、ハイソックスと到底貴族令嬢のする姿ではない。だが、横に控えているマリナはメイド服だ。黄緑色の珍しいタイプとはいえ、その姿は変わらない。だが、それだけの理由では、彼女が貴族であるか分からない。会頭は彼女を良家のお嬢様と勘違いしたのである。


 突然現れた老人に夢愛は驚いた様子であったが、マリナがすぐに耳打ちする。


「お嬢様、彼が会頭ではないかと」


 夢愛は「ああ」といって、思い出した様子で頷いた。いつの間にかマリナのペースにはまり、すっかり買い物気分になっていたようだ。今日は2人でお仕事なのだから集中しなければと思い、気を引き締める。とはいえ、メインで話をするのはマリナであり、彼女の役目は猫好きの孫娘を安心させることだ。さっそく老人の後ろに隠れている少女に話かける。


「あなたが、リリィちゃんの飼い主ね。私はユア、冒険者よ」


「初めまして、私はラナといいます。お姉ちゃんがリリィを探してくれるの?」


 ラナと名乗った少女は、自分と同じくらいにみえる夢愛に気を許したらしく、老人の後ろから出てきてコテリと首を傾げる。その可愛さに身震いする夢愛は、お兄ちゃんの気持ちがわかるかもと、変な扉を開けそうになっていた。とはいえ、まだマリナと老人の話が始まってもいないのに、自己紹介をしてしまった夢愛たちを見ていた周りの店員たちは、驚きで目を見開いている。それもそのはず、まだ少女にしか見えない彼女が、12歳以上でなければなれない冒険者だというのだ。しかも、現在8歳のラナと同い年くらいにみえる少女がである。


「ほう、嬢ちゃんがリリィを探してくれる冒険者じゃったか」


 不思議なことに、店員たちと同じく2人の少女の出会いを温かく見守っていた老人は、夢愛が冒険者であることに驚いてはいなかった。


「それならば、嬢ちゃんと話をしなければいかんのう。私はロイド、ギルドへ依頼を出した者じゃ」


 そう言ってチラリとマリナに視線を送るが、彼女も納得したように頷いている。そして、老人はすべてを理解したかのように、こう言った。


「君が例の伯爵家の子だね」


 どうやら素性はバレていたようである。

 その言葉を聞いた夢愛が警戒のいろを見せると、ロイドは慌てて取り繕う。

 

「すまない、驚かせてしまったようじゃな。君たちに危害を加えるようなことはないから安心して欲しい。ただ、私のお店を見て気づいたことはないかね?」


「……え、もしかして」


 そう、それはこのお店の形態であった。明らかにデパートを彷彿させる営業形態は、彼が転移者であることを意味していた。


「お待ちしておりました、夢愛様。お目にかかれたこと、光栄でございます」


 そう言って、跪いたのである。


 







ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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