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魔法訓練

 山間(やまあい)に日が沈み辺りが薄暗くなった頃、幸生たちはサカオ町に戻ってきた。話し合いの後、グランとサオリはギルドに戻り、ハヤトも早々にジョワラルムに帰っていった。しかし、時の絆と自由の翼のメンバーは、その場で親睦会を始めてしまったのだ。せっかく一緒に戦ったのだから、今後とも付き合いを持ちたいというのが理由である。


 幸生はロイに渡したフレイムソードが、今後どのような変化を遂げるのか興味があった。炎を伸ばすという荒業を、彼は戦闘時にやってのけ、そのせいで剣が進化していたのだ。鑑定の能力がないため分からないが、元の銅の剣ではなくなっているとみて間違いない。魔石が剣に同化しつつあり、刃長は少し短くなっている。色も黒みを帯びた赤色に変わっていた。もしこのまま彼が使い続けたら、紅焔剣(こうえんけん)などに進化するかもしれない。そんなことを考え、期待に胸を膨らませていた。


 一方ロイはというと、受け取ったフレイムソードを幸生に返そうと思っていた。くれると言っていたが、やはり高価な品だ。自分が持つには荷が重い、そう考えていたのだ。しかし幸生は「進化を遂げた以上、これは君のものだ」と言って受け取ろうとしなかったのである。とはいえ、これだけの剣を所持していれば、誰に狙われるかわかったもんじゃない。そのため彼は、翔に稽古をつけて欲しいと頼みこんだ。その結果、お互いに友好を持とうということになったのだ。


 幸生たち3人とロイの仲間たちの(とし)は近い。そのため、仲良くなるまでに時間はかからなかった。特に女性陣は唯も含めマリナに興味津々だ。見た目は普通の女性の姿をしている彼女だが、背中には蝶のような羽が生えている。時折、羽をパタつかせ地面からふわりと浮きあがると、なぜか「「「「キャーキャー」」」」と大騒ぎだ。そんな若い女の子たちの会話についていけないレーナは、彼女たちを遠目に見ながら寂しそうにしていた。




 それに対し、男性陣は現実的な会話をしている。今の話題の中心はロイの持つ剣だ。フレイムソードのような魔法剣は、普通に冒険者をしていたら一生お目にかかることはない。極一部の実力者だけが持つことを許された武器なのである。それを仲間であるロイが手に入れたとなれば、レントが羨ましく思わないはずがない。


「いいなあ、一度でもいいからそんな剣を扱ってみたいよ」


 彼の口からは自然と言葉が漏れていた。別に打算的に言ったわけではなく、心からの言葉である。


「なら、使ってみるか? いいですよね、ユキオさん」


「えっ、いいの?」


「それは、もう君の剣だ。好きなようにすればいいさ」


 あっさりと使用許可がおり戸惑いをみせるレントだが、ロイが剣を差し出してきたため、恐る恐るも手を伸ばす。この剣はロイの物ではあるが、もちろん彼が使えないということはない。ゲームであれば装備できませんなんてこともあるだろうが、ここは現実だ。貸し借りは可能である。


 剣を受け取ったレントが魔石に魔力を流すと、剣身(ブレイド)を赤い炎が包み込んだ。


「おおっ、本当に炎が出た」


 どうやら彼は半信半疑だったらしく、剣身に纏わりつく炎に驚いている。しかし、それを見ていた幸生の表情は渋い。


「もう少し多めに魔力を流せないか?」


「はい、やってみます」


 幸生の指示でレントはさらに多くの魔力を魔石に流すが、炎の大きさは変わらない。むしろ小さくなっているようだ。


「もしかして、君は水魔法の適正があるのかな?」


「は、はい。一応、水は出せます」


 そう返事はするものの、自信がないのか少しうつむき加減だ。しかし、それ自体が問題ではなく、水の適性があることが重要だった。


「そうか……。なら、この剣との相性は良くないね。火と水は相反する属性だから、火属性の魔法が付与された魔石に水の魔力を流すと威力が小さくなるんだ。まあ、普通に生活する分には問題ないけどね」


 魔法の主な属性は火、水、地、光、風の5種。その中で火と水は互いに干渉しあい、威力を半減させてしまう。しかし、それが悪いというわけではない。例えばお湯だ。この世界では(ファイヤー)が付与された魔石と(ウォーター)が付与された魔石を使い、お湯をだしている。魔力を流す量で温度調節も可能だ。要は使い方次第なのである。


「そうですか……」


 少し残念そうな表情をするレントに、幸生はある提案を投げかけた。


「もしよければ、君もモニターにならないか?」


「……モニター?」


 聞きなれない言葉に戸惑いを見せるレントは、助けを求めてロイに視線を向ける。その言い方から、彼もそうだと気付いたからだ。とはいえ、モニターなんて言葉は彼も知らない。当然返事に困り、首を降る。そんな2人の様子を見ていた翔は、なぜか自慢げに意味を伝えた。


「要するに、兄貴の作った武器を使ってみないかってことだ」


「えっ⁉ 僕にも何か魔法の武器をいただけるのですか?」


「そうだね、あげてもいいけど……。まずは君の魔法を見てからかな」


 自信がないとはいえ、そんなおいしい提案に乗らないわけにはいかない。レントは喜んで魔法の詠唱を始める。


「生命の泉たる恵の水よ、我のもとに集いたまえ【ウォーター】」


 彼が発動したのは水魔法の定番ウォーターだ。しかし、その大層な詠唱にも関わらず出てきたのは、小さな魔方陣からポタポタと落ちる程度の水だ。それでも彼としては十分なのか、満足そうにしていた。水を出せるとは、文字通りの意味だったのである。


 幸生の想像以上にレントの魔法は残念だった。しかし、彼にとってはこの方が望ましい。上機嫌で一本の杖を取り出すと、2人の前に差し出した。この杖の持ち手には青い魔石が埋め込まれ、先端にもサファイアが付けられている。


「この杖にはウォーターの魔法を付与してあるんだ。試してごらん」


 いかにも高価そうな杖を渡され、恐縮する2人。しかし、ウォーターの魔法と聞いて少しガッカリしているようだ。それでも何か意味があるのではと思い、レントは青い魔石に魔力を流す。すると、杖の先端にあるサファイアから大量の水があふれ出し、驚いた彼は慌てて魔力を流すことをやめる。それを見たロイと翔は面白そうだと、杖を受け取り魔力を流す。水適正のある彼よりは劣るが、やはり同じように水があふれ出た。


「すげえ、この杖があれば、水を持ち歩かなくていいじゃん」


 ロイは真っ先にこの杖の有用性に気づいた。冒険者にとって水は貴重だ。食べる物はなくても何とかなるが、水は飲まなければ死んでしまう。ウォーターの魔法と聞いてガッカリした自分が恥ずかしいと今は思っていた。

 だが、重要なのはそこではない。幸生はこの杖を渡した意味を、2人に説明する。


「魔法はね、詠唱ではなくイメージが大切なんだよ。でも、別に難しいことじゃない。今度は今見た光景を思い浮かべながら、自力で魔法を放ってごらん」


 魔法はイメージの具現化だ。とはいえ、それが分かるためには実践あるのみ。そのイメージを植え付けることが今回の目的なのである。


「水よ集え 【(ウォーター)】」

 

 レントは長い詠唱を行わず、イメージだけを声に出し魔法を発動した。すると、いつもより大きめの魔方陣が現れ、より多くの水が流れ始めた。


「うそっ……」


 今までどんなに頑張っても少ない水しか出せず、自分には才能がないと、彼は思っていた。しかし、やり方が間違っていたことに、ようやく気付くことが出来たのだ。

 

 十分な水を出すことが出来たことで嬉しくなった彼は、何度も何度も繰り返す。


(ウォーター)(ウォーター)(ウォーター)


 回数を重ねるごとに、その効果は増していく。数回続けると、かなりの量の水を出せるようになっていた。魔法はイメージ、その意味がようやく分かったのだ。今までショボい量の水しか出せなかった彼にとって、これはとてつもない進歩である。彼の魔力量は少なかったわけではなく、単にイメージが出来ていなかっただけなのだ。


「ユキオさん、ありがとうございます」


 レントは幸生にお礼を言って深々と頭を下げた。彼がここまで成長できたのは自分だけの力ではないのだから当然だ。しかし、もちろん幸生がこれだけで満足するはずがない。「じゃあ次はこれかな」と言って、楽しそうにしている彼の手には、まだ3本の杖が握られていた。てっきり終わりだと思っていたレントは、「もう、魔力が……」と、引きつった表情を浮かべていた。





 男性陣が魔法の練習をしているころ、女性たちの話題の中心は、夢愛たちに移っていた。その話の内容は、彼女たちの見た目である。


「ええっ! ユアちゃんって12歳なの?」


 夢愛がギルドカードを見せたことで、ノアが驚きの声をあげる。カードに年齢は記載されていないが、冒険者登録できる年齢は12歳からだ。


「うん、そうだよ」


「あ~ん、もう……。どうして1つしか違わないのに、こんなに可愛いの!」


 彼女はそう言って夢愛を抱きしめた。元々、孤児院で育った彼女は、ずっと小さい子たちの面倒をみてきた。特に姉のニア、それにロイとレントが冒険者になり孤児院を出ていってからは、彼女が最年長となった。そのせいもあって、幼い見た目の夢愛に庇護欲を掻き立てられたのだ。


 そして、こちらでも同じような会話がなされていた。


「ええっ! ユイさんって20歳(はたち)なんですか? 同い年位かと思ってました」


 そう言うのはニアだ。彼女もまた、年齢以上に若く見える唯に驚いていた。15歳で成人を迎えるこの世界では、子供たちの成長は早い。唯とニアは同じ成人年齢であると考えれば、同い年と言えるのかもしれない。


 


 時の絆と自由の翼、この2パーティが友好を深める中、1人ヤキモキしている女性がいる。それは幸生たちのお目付け役ともいえる立場のレーナだ。彼女は陽がだいぶ傾いてきたことに焦りを覚えていた。


「幸生さん、もう帰らないと暗くなってしまいます!」


 いい加減に痺れを切らした彼女は、幸生に進言する。少し棘のあるその声に気づいた彼がスマホの時計を見ると、その表示は17時20分であった。


「えっ、うそっ⁉ もうこんな時間? みんな、撤収だ!」


 そう、この世界では街の門が閉まる時間は18時と決まっている。一旦門が閉まれば、朝まで入ることはできない。そこはサカオ町も同様で、もはや一刻を争う状況だ。幸生たちはすぐに椅子やテーブル、それにティーセットを唯の収納にしまい、大急ぎで山を下りたのである。


 


 

  

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