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敵の正体②

ついに本体登場

 幸生と翔がまだ意識の戻らない男をロープで縛りあげている間、老人は横たわるグリーンゴブリンのそばで心配そうに見守っていた。


 その様子を横目で見ていた幸生は、先ほど聞こえてきた声を思い出す。

 咄嗟のことで素が出たのだろう。『ユキオ様』と呼んだその声には、聞き覚えがあった。


「そういうことか」


 老人の正体が想像通りなら、妹の行動理由も見えてくる。

 もともと契約していた精霊なら、彼女が気づかないわけがない。

 初めから二人はグルだったのだと、ようやく理解した。


 とはいえ、幸生にはまだ他に重要な案件が残っていた。いまだに翔の表情は沈んだままなのだ。

 彼は魔物を操り人々を襲っていた犯人が人間だったと知り、ショックを受けていたのである


「あまり、気にするなよ。日本とは違うんだから」


 幸生は、こういった時に気の利いたセリフ一つも言えない自分をもどかしく思うが、こればかりはどうしようもない。弟に早く立ち直ってくれと願うのみだ。

 

 けれど、その機会はすぐに訪れる。というのも、彼らのもとに(ユア)が合流したのだ。

 さっそく彼女は干渉に浸っている(かける)をみて、ニンマリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ああ~、翔お兄ちゃん、また泣いてるんだ~」


 そんな妹の戯れ言に、落ち込んでいた翔も反応を示す。 


「ば、ばか、泣くわけ無いだろう。オレは考え事をしてたんだよ!」


「ホントかなあ……」


 ここぞとばかりに揶揄ってくる妹に、どうにか言い訳をする翔であるが、残念ながらそれは無理というもの。妹への良いパスを送っただけである。 


「ふふ~ん。でも、目は涙でいっぱいだよ」


「うるさい、これはホコリ、埃が目に入ったんだ! だいたい、お前だって、いつも泣いてるじゃないか!」


 そう言い返すも、これは更に握手。妹の追求に動揺し、余計な嘘を重ねてしまった結果の自滅だ。


 夢愛は確かによく泣くが、それは愚図っているだけであり、単なるわがままなだけで、翔のそれとは根本的に違うのである。


「えっ、いつ? 私、泣いてないけど……。それよりお兄ちゃん、今、認めたよね」


 もちろん愚図っているだけの夢愛には、泣いたという自覚がない。

 しれっとした態度で(カケル)を追い詰め、言質をとった。


「くしょう……」


「アハハハ、『くしょう』だって、お兄ちゃんカワイイ!」


 年の離れた妹に可愛いなんて言われたら、もうショックを通り越して赤面ものである。

 これ以上は耐え切れなくなり、あとは大声で叫ぶのみ。


「な、笑うな! ちょっと噛んだだけだろう。ちくしょうって言ったんだ!」


 そんな二人のじゃれあいを見ていた幸生は「フウ」と、ようやく安堵の吐息を漏らした。そして、相変わらず勘のいい妹の頭を「ありかとう」といって優しく撫でる。


 けれど、不意に感謝の言葉を述べられた夢愛は意味がわからずポカンとしていたが、お兄ちゃん大好きっ子である彼女に兄の頭ナデナデは最高のご褒美だ。

 すぐに「えへへ」と、はにかむような笑顔を見せていた。


 そして翔も、ようやく己の未熟さに気が付いた。


「すまない、兄貴、夢愛。おれ、まだまだダメだな」


 謝罪の言葉とともに、また落ち込みそうになる弟に幸生は「大丈夫だ」と、声をかける。

 夢愛は「いつものことだよ」と、なぜか嬉しそうだ。

 そんな妹の表情に翔は少し嫌そうな顔をするが、兄弟の絆で復活できた彼は「ハハハ」と、すぐに笑い声をあげた。



 こうして場が和んだところで、翔は気になっていたことを兄に尋ねる。


「ところで、何で兄貴はこの男が人間だって、わかったんだ?」


「えっ、そんなの簡単だよ。あんだけわめき散らしているのに、全く表情が変わらないなんて、普通ありえないだろ」


 答えは至極簡単。

 漫画やアニメであれば、マスクのままでも表情が変化するなんてこともありえるが、現実では起こりえないため、それが決め手となったのだ。


「なんだ、そんなことか」


 翔もあまりに単純すぎる答えで、がっかりした様子。

 もっと決定的な何かがあるのかと期待していたが、現実とはそんなものだ。


 けれど、この和んだ雰囲気もここまで。


「グフッ!」


 突然、男が血を吐いたのである。

 その声に驚いた三人が振り返ると、彼の胸にはラフレシアの蔓が刺さっていた。


「「「なっ!」」」


「翔、夢愛!」


 すぐに警戒を強め辺りを伺う彼らの前に、カボチャのマスクが浮かび上がった。


「おやおや、捕まってしまいましたか」


 突然そんなことを言いだしたかと思うと、カボチャのマスクはにこやかな笑みを浮かべる。


「まあ、いいでしょう。あなたはもう、用済みです」


 その話し相手は、ロープに縛られた男だ。蔓が刺さった衝撃で意識を取り戻していた。


「ふざけるな! 俺を見捨てるのか」


 息絶え絶えながらも男が言い返すと、カボチャのマスクは不本意だとでも言いたげな表情をする。


「見捨てるなど、とんでもない。最初からあなたは捨て駒に過ぎないのですよ」


「なんだと。では、妻と娘は。俺の妻と娘はどうなるのだ。助けると約束しただろう」


 ここで、ようやく真相が明らかとなった。男は家族を人質に取られていたのだ。


「おや、あめでたいですね。まだ、奥さんと娘さんが生きているとお思いですか? なぜ、生かしておく必要があるのです」


「なんだと! 貴様、まさか……」


「安心してください、すぐに会えますよ。あの世でね、ホホホホホ」


 あまりの急な展開に付いて行けず、幸生は話を聞き入ってしまっていた。


「兄貴、治癒だ!」


 弟の声で我に返り、急いで男に回復魔法をかける。


「傷を癒せ、【治癒回復(キュアヒール)】」


 治癒回復は光魔法の回復(ヒール)と水魔法の治療(キュア)を合わせた治癒魔法だ。本来ならケガの治療と回復を同時に行えるものなのだが、それは阻止されてしまう。


「させませんよ!」


 幸生の詠唱が終わる前に、ラフレシアの蔓が男に絡みつき、連れ去ってしまったのだ。治癒回復(キュアヒール)は対象を失い小さな光を発した後、消えていった。


 そんな中、翔は指示を出していると思われるカボチャマスクに、剣を振るう。けれど、あっさりと避けられ、マスクは剣の届かないところまで飛んで行ってしまった。


 と、そこへ夢愛の放った火球(ファイヤーボール)が襲い掛かる。けれど、これも当たったと思われたその時、ラフレシアの蔓がマスクを攫み、男と一緒に連れ去ってしまったのだ。


 蔓に運ばれる男とマスクを彼らは追いかけるが、すでに手遅れ。

 三体並ぶラフレシアのうち、真ん中にいる一体のもとへ運ばれた男とマスクは、大きく開けた口の中に放りこまれてしまった。


「「「あっ!」」」


「くっそう!」


「間に合わなかったか……」


 翔と幸生は悔しがるが、夢愛は不思議そうに首を傾げる。


「ねえ、どうしてマスクも食べちゃったの?」


 それこそこの事件の主犯と思われるカボチャのマスクが、配下であったラフレシアに食われたのだ。

 彼女の疑問は当然のものと思えるが、彼らはこのような展開をよく知っていた。


「まさか、これって……」


「そのまさかだろうな。テッパンだろ、これ」


「うん、テッパン、テッパン」


 そんな彼らの予想通り、事態は動きを見せる。

 真ん中のラフレシアが光り始めたのだ。


 淡い緑の光を放ちながら徐々にその姿を変えていく。

 花弁が抜け落ち、そこに実のような膨らみが形成された。

 そして、その実に力を分け与えるかのように両隣の二体が萎れていく。

 結果、一層輝きを増した真ん中のラフレシアは、どんどん大きくなる実の重さに耐えきれず、徐々に(こうべ)を垂れていき、最後に実が地面に届くと、真ん中のラフレシア自体も萎れてしまい、ついには三体とも枯れてしまった。


 残るは、いまだ輝き続ける巨大な実。


「まずいね、これは」


「うわあ、マジか……」


「すご~い、なんかワクワクするね」


 もうとんでもなくまずい展開なのだが、三人はすっかり見惚れていた。

 ゲームやアニメで見慣れていても、現実に()の当たりするのは初めて。

 どこぞの最強民族同様、期待の目を向けていた。


 そして、ようやく光も納まり、およそ三メートルほどの巨大なカボチャの実が残る。


「いや、なんでだよ!」


 と、つい突っ込みを入れてしまう翔だが、その表情は真剣そのもの

 というのも、カボチャの形をした実からは、明らかにヤバめの空気が漂っていたのである。


「さて、何が出るか……」


 もう、いつ割れてもおかしくない状態となり、幸生にも緊張が走る。


「おにいちゃん……」


 先ほどまで元気だった夢愛が、今度は怯えていた。全身を兄の後ろに隠し、顔だけひょっこり出して覗かせている。


 魔力に敏感な彼女は、今の状態でも相手の恐ろしさがわかるようだ。

 普段見せない妹の姿に、幸生は動揺していた。


「夢愛がここまでとは……」


 そんな驚きを口にしていると、ついに実が割れた。

 けれど、横に広いカボチャの実のため、うまく出てこれないようだ。


 ようやくというべきか、カボチャの実を横に吹っ飛ばすという芸当でようやく出てきた男は、オレンジ色のカボチャ頭に黒のタキシード、赤いマントに先の曲がった杖と、まるでおとぎ話に出てくるパンプキンヘッドのような姿だ。


「ホホホ、お待たせいたしました。先ほどぶりですかな」


 そう口にする彼の口元は、先ほどまでと違い自然な感じで動いていた。

  



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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