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敵の正体①

 ウツボカズラにモウセンゴケと、次々に主力の魔物を倒されたカボチャ頭の男は、目の前の現実を直視できないでいた。


「バカな、全滅だと……。ありえん、なんだというのだ、あいつらは」


 けれど、思い返してみれば、最初からこの戦いは異常であった。

 百体近くもいたキラープラントとマンドレイクが一瞬で燃やされ、ウツボカズラやシュトルムリリエもあっさり倒されてしまったのだ。

 戦いぶりを見ていた限り、相手は魔法主体で剣技は大したことない。

 であれば、まず負けないはずなのだけれど……。


「まずい、まずいぞ! このままでは……」


 残された魔物はラフレシアのみ。戦力的には申し分ないが、魔力阻害装置も壊されてしまっていた。

 更には、相手に火属性魔法が得意な者が二人もいるのだ。


「くそっ、ゴブリンめ!」


 男は悪態をつくが、このグリーンゴブリンの体には【隷属の紋】が刻まれていたため、瀕死の状態だ。

 隷属の紋とは奴隷に刻まれる紋様で、反逆的な態度をとると呪いが発動する仕組み。軽度であれば死ぬことはないが、内容次第では即死する危険な契約であった。


「忌々しい、早く死んでしまえ!」


 全く動きを見せないグリーンゴブリンの死は、目前だ。それでも、まだ生きているということが癇に障るらしく、男は苛立ちを隠せないでいた。


 けれど、そんな男の眼に、意外な光景が映り込む。


「フワハハハハ、あるではないか! 魔術師風情が、剣士から離れてどうする」


 そういうと、男はラフレシアの葉から飛び降り、壊された魔力阻害装置目掛けて走り出した。



 ☆ ☆ ☆



 シュトルムリリエを倒し終えた夢愛、唯、レーナの三人は、まだ戦いの続く翔たちと合流するため、急いで戻ってきた。


「あれ? 終わっちゃったの」


 夢愛はまだ物足りないのか、残念そうな様子。けれど、まだラフレシアが残っているので、すぐに意識を切り替え、ロイを庇うように立つ(カケル)に近づき、戦況を確認する。


「翔お兄ちゃん、どんな様子?」


「ああ、夢愛か。ちょっとロイが無茶しちまってな」


 その言葉通り、すでにロイは意識を失っており、それを見たレーナと唯も急いで駆け付ける。

 

「翔、ロイは大丈夫なの?」


「ああ、心配ない。たぶん魔力切れだろう。暫く休めば、目を覚ますさ。でもまあ、これ以上戦うのは無理だろうから、唯さんが彼に付いててくれると助かるんだが」


「は、はい。それでしたら、ここは危険なので、もう少し離れましょうか?」


 彼らがいる場所は魔力阻害フィールドがあったエリアだ。ラフレシアからも近く、戦いが始まれば巻き込まれる危険性もある。


「では、私が彼を運びます。翔は幸生さんのフォローに行ってあげて!」


 そういうと、レーナはロイを軽々と持ち上げ、お姫様抱っこの状態で戦闘エリア外へと運んでいく。

 翔はその様子を羨ましそうに眺めていたが、不意に妹の「お兄ちゃん!」との、悲鳴のような叫びに驚いて振り向いた。


 そう、それはまさに、カボチャ頭の男が(ユキオ)へと剣を振り下ろそうとする瞬間だったのだ。


 ☆ ☆ ☆


 幸生は全く動きを見せないグリーンゴブリンのもとへ、急いでいた。


「くっ、想像できたはずなのに……」


 そう、自身の愚かさに悪態をつくが、今はそんなことを考えている場合ではない。もし彼の想像通りであれば、一刻の猶予も許されない状況だ。こんな時こそ冷静にならなければならない。


 たとえどんな状態でも、生きていさえすれば助かる。そう思い幸生が倒れているグリーンゴブリンに近づき確認すると、まだ息はあった。


「これなら」


 幸生は急いであるべきものを探すが……。


「あった……が、なんだこの隷属の紋は。僕が作ったものじゃない」


 グリーンゴブリンの左肩には赤く紋様が描かれているが、その図柄は幸生の記憶にないものだった。

 とはいえ、何もせず手をこまねいているわけにはいかない。グリーンゴブリンはまだ生きているのだ。


「このものを苦しめる幾多の呪い、われの力をもって解き放ちたまえ【解呪(アンチ・カース)】」


 思い切って幸生が解呪の魔法を行使するが、グリーンゴブリンの体が淡い光に包まれただけで、その光はすぐに消滅していった。


「クッソ、ダメか……。じゃあ、どうすれば……」 


 解呪の魔法は幸生が設定した呪いであれば解くことができるが、そうでなければ効果は無い。

 この世界ができて200年もたっているのだから、新しい【隷属の紋】ができていても不思議ではないのだ。


 他に呪いを解く方法を思いつかない幸生は、焦燥感に駆られていた。

 そんな彼に近づき、背後から覗き込む者がいる。


「どれどれ、うむ、まずいのう。この者の命、もってあと五分といったところじゃな」


 その声に驚いた幸生が振り向くと、いつの間にかそこに老人が。


「お爺さん。どうしてここに?」


「いや、お主が離れるなと言ったではないか」


「そうですけど。……それより、あと五分って、わかるんですか?」


 あと五分、それが本当なら、もう時間はない。目まぐるしく頭を回転させ、何か手はないかと必死で記憶を探るが、老人はそんな幸生を諭すように話し始めた。


「そうじゃな。まあ、焦るでないわ、ユキオ殿。お主ならわかるであろう。この者を呪いから解放してやるのじゃよ。よいか、解放じゃぞ」


 そう、それはアドバイス。

 

「解放? もしかして……」


 解放と聞いて思い浮かぶ魔法が一つ。もちろん、そのままの意味である。


「聖なる魂を持つ者を、悪しき呪いから解き放ちたまえ!【解放(リベラシオン)】」


 老人の言葉を聞いて幸生が解放の魔法を使うと、先ほどと同じようにグリーンゴブリンの体を淡い光が包み込み、今度は消えることなく浄化が始まった。

 苦痛に顔を歪めるグリーンゴブリンだが、徐々に安らかな表情へと変わっていく。やがて、光の終息とともに穏やかな寝息を立て始めた。


「成功だ、よかった……」


 幸生は安堵で気が緩み、その場にへたり込んでしまう。けれど、「ユキオ様‼」と叫ぶ若い女性の悲鳴のような叫びが、彼を正気に戻した。


 彼の眼の前まで、カボチャ頭の男が迫っていたのだ。


「まさか、その裏切り者を治したというのか! ふざけるな! 死ねぇぇぇっ‼」


 右手に持った剣を、幸生めがけて振り下ろす。けれど、それが彼に届くことはない。


「【防御(プロテクション)】」


 透明な盾が幸生の前に現れ、カボチャ頭の男の剣をはじき返した。

 男はわけがわからず何度も剣を振るうが、盾を破壊するだけの実力はないようだ。


「くそ、くそ、くそ! なんで当たらないんだ!」


 そう叫ぶ男であるが、もはや手遅れ。

 次の瞬間、男の前に翔が現われ、疾風剣で男の剣を弾き飛ばす。そしてそのまま返す剣で男を斬り捨てようとしたのだが、幸生が待ったをかけた。


「待て、翔!」


「チッ!」


 制止する兄の声を聞き、訝しげに思いながらもその手を緩めた翔は、すぐに手首を返し剣の平面で男の顔面をひっぱたく。


「これぐらいはいいだろう」


 そういって、意識を失なった男の頭に手をやると、そのマスクを剥がした。


「なんだ、人間だったのかよ」


 そう呟いた翔の表情は暗い。これだけの騒ぎを起こした犯人が人間だったのだから、無理もないだろう。

 幸生はそんな弟の様子に、焦りを覚える。


(翔は優しすぎる)


 このままでは、いつか心を壊してしまうのではないか、そう思わずにはいられなかった。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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