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異変発生! 1日前 ②

グダグダです。

 次にレーナが着替えた衣装は、紺色の浴衣。彼女の美しい金色の髪が、より際立つ。


「おっ! 浴衣かあ。 いいねえ~。……ん、なんだ? あの赤い塊から伸びた線は。線香花火にしてはなんか変だよなあ」


 ぱっと見よくわからないデザインに幸生は『何だこれ』と顔をしかめるが、よく見ると浴衣の(すそ)には杖をかざす魔法使いの少女が描かれていた。


流星雨(メテオ)かよ‼」


「う~ん、なんかいまいち……」


 兄の反応なのか、それとも衣装のデザインなのか分からないが、夢愛は納得いかないようで、首を傾げていた。


 そして次は白のロングスカートに水色のアロハシャツ。描かれているのは白い、いきもの?


「もういいよ! 分かったよ! クラーケンだろ!?」


「イカだよ~」


「いや、そこはもうクラーケンでいいだろ!」


 どうやらここは定番のお約束ネタであった。


 こんな感じでファッションショーは滞りなく進んでいった。

 誉めてくれる二人がいるので、だんだん気持ちよくなってきたレーナは、一人じゃ寂しいと幸生と夢愛にも着替えるように勧め始める。


「私ばかりでつまらないですわ。ねえ、幸生さんと夢愛ちゃんも着替えましょう。私が選んであげますわ」

 

 と、暴走しだした。


「そうですねえ……、幸生さんはこれを着てください。とってもお似合いになると思いますわ」


 まず彼女が幸生へ差し出した衣装は、ネイビーカラーのビジネススーツ。ネクタイは赤と青のストライプというものだ。


 普段、幸生の服装は白衣であり、『僕は研究者なんだ』という意思表示のつもりであるが、本音は堅苦しい服を着たくないだけである。


「えっ? これ、マジで着るの? 僕はねぇ、白衣が心のスーツなんだよ! それを脱いでしまったら僕は……」


 そんな意味不明な発言で逃れようとする幸生だが、ハイテンションのレーナには通じない。


「ダメですわ! 私はもっとカッコいい幸生さんが見たいの」


(でも、それって、白衣はカッコ悪いってことだよね)


 彼女のダメ出しを深読みし、ショックを受ける幸生。

 かれど、その勢いは止められず、しぶしぶながらも着替えることにした。


「ハァ……、これでいいですか? あんまり似合ってないでしょう」


 幸生の身長は178センチと日本人の平均身長よりは高いが、やせ型で黒ぶち眼鏡をかけているため、少し頼りなさげに見える。そこにコンプレックスを抱えており、自信なさげな様子だが、レーナの反応は違っていた。


「思った通りでしたわ! 絶対に似合うと思っていましたのよ。カッコよすぎです!」


 頬を赤く染め、うっとりしながらどこぞの貴族令嬢かと思わす発言をするレーナ。

 幸生も「どこのお嬢さまだよ!」と、思わず照れ隠しに突っ込みを入れる。

 

 とはいえ、金髪碧眼で容姿端麗なレーナは、異国のお姫さまと呼ばれていても不思議ではないほどキレイだ。

 幸生としてもそんな相手に褒められて、嬉しかったりするのだ。


 レーナは幸生のスーツ姿を見れたことに満足し、ホクホク顔で夢愛の服を選ぶ。


「次は夢愛ちゃんね。これなんかどう? お兄ちゃんも喜ぶと思うわ」


「ほんと~、じゃあ着る。お兄ちゃん、夢愛頑張るからね! ちょっと待ってて」


 そんな少し含みを持たせた言い方をして、夢愛は着替えに向かった。


「ジャーーン」


 効果音を口にしながら登場した彼女の衣装は、先ほど幸生がお願いしていた、フリルのついたひまわり柄の水着。


「ああ~、やっぱり! お似合いすぎですわ~。とってもお可愛らしいですのよ」


「ああ~、もう最高! 夢愛は可愛すぎるね~。お兄ちゃん溶けてしまいそうだよ!」


「もう、二人とも言いすぎだよ~。でも、もっと褒めていいよ~」


 そんなグダグダな展開を誰が予想しただろうか。

 もう、これ以上は必要ないので割愛する。


「じゃあ、次が最後ね! とっておきだから、お楽しみに」


 そう、もったいぶった発言をして部屋を出るレーナ。


 だが、ここで幸生は彼女に対して、ある疑問を抱く。


(う~ん、レーナさんって本当にAIなのかなぁ。話し方も自然すぎるし、実はアバターだったりするのかも。でも、そうなると開発課の女性社員かもしれないし……。うわ~、もしそうだったら恥ずかしいなぁ)


 なんてことを考えていると自動ドアが開き、メイド服のレーナが入り口で立ち止まり、幸生に声をかけた。


「いらっしゃいませ、ご主人様!」


「イヤイヤ自分から入ってきたでしょう」


「じゃあ、お帰りなさいませ、ご主人様!」


「それもなんか違うから!」


「じゃあ、萌え萌えキュン♡」


「うっ! くっ、苦しい。なっ、なんだ⁉ こっ、この胸の高鳴りはあぁぁ! ま、まさか、精神攻撃かあ⁉」 


 一人で興奮し勝手に盛り上がる幸生。


 そんな彼の様子に満足そうな笑みを浮かべたレーナは、夢愛に視線を向ける。


「夢愛ちゃん、どうかなぁ?」


「かわいい~‼ 萌え萌えすぎてお兄ちゃんが、おかしなことになっています」


 明らかな挙動不審者となった兄を見て、夢愛は楽しそうに笑っていた。


 普段、家でメイドを見慣れている彼らであるが、レーナの着るメイド服はパステルブルーの制服に白いエプロン。胸元には大きなパステルピンクのリボンをつけ、スカートの丈は極端に短く二―ソックスを履き、更に美人で金髪とたっぷりの萌え要素を含む、いわゆるジャパニーズ萌えメイドというやつであったのだ。


「一回着てみたかったのよね~」


 そういってにっこりとほほ笑むレーナは、まさしく天使。


「もう、レーナお姉ちゃんは、このままメイドさんになっちゃえばいいのに!」


 彼女的には褒めているつもりでも、かなり失礼な発言ではあるが……。


「ほんと? じゃあ、なっちゃおうかな~、でもそれだと幸生さんが悶絶死しちゃうね」


 と、彼女も満更でもない様子だ。

 

 とても夢愛に感謝しているようで、レーナは改まって彼女を見つめた。


「夢愛ちゃん、ありがとね。どれも可愛かったよ」


「えへへへ!」


 こうして、ファッションショーは無事に終了したのである。




 夢愛のデザインした新作衣装を十分堪能した彼らは、元の服装に戻ることにした。


 幸生はチノパンにポロシャツ、その上に白衣。夢愛は赤のパーカーにショーパン、ニーハイという姿で、靴は二人ともスニーカーだ。

 

 二人の衣装は(かける)と同様に装備品で、魔法が付与されている。

 スニーカーにはスピード補正50%アップ、チノパンとショーパンにはスタミナ補正50%アップと、翔と変わらないが、幸生の白衣には魔法耐性70%カット、夢愛のパーカーは魔法攻撃無効となっていた。

 さらに二人はプロテクトリングと呼ばれる指輪をつけており、使用することで目の前に大きな見えない盾を作り出すことができる。

 そんな彼らの衣装は、攻撃、魔法と、どちらに対しても有効なチート装備であった。


 そして元の衣装に着替えたはずのレーナは、なぜかアオザイの女神服となっていた。

 どうやらこれが気に入ったらしく、こちらが本採用となるのかもしれない。




 その後、三人で雑談していると、魔法陣が黄色く輝きだした。

 これは誰かがここに現れるということであり、出ていくときは青く光る。


「兄貴!」


 魔法陣から現れたのは翔だ。


「話があるんだが、ちょっといいか?」


 どうやら彼には深刻な悩みがあるらしく、その表情は硬い。


 けれど、この場には問題児の妹がいるわけで。


「翔お兄ちゃんモフモフ~‼」


 と、すぐさま兄に飛びつき、犬耳や尻尾をモフりだす。

 というのも、彼のアバターは犬耳人族という亜人種であり、モデルとなった犬種は秋田犬だ。


「くっ、やめろ! 離せ! コラっ、モフるな!」


「あらあら、夢愛ちゃんたら」


 先ほどの深刻そうな表情はどこへやら。翔は必死で妹を引き剥がそうとするが、彼女はなかなかにしつこい。

 そんな兄妹の仲睦まじいやり取りを、レーナは楽しそうに眺めていた。


 そもそも幸生が自分そっくりのアバターを使用する理由の一つがこれである。その姿を初めて見た時、ドン引きしたのだ。可愛い妹が甘えてくるのは嬉しいが、さすがに部下の前では示しがつかない。

 ここは弟に被害を被ってもらおうと、今の姿にしたのである。


 とはいえ、放置していたらずっとこのままなので、幸生も手伝い夢愛を引きはがし、彼の話を聞くため二人には席を外してもらう。

 というのも、もしかしたらその内容が、ゲーム内の禁則事項に触れるかもしれないからだ。


「で、話ってなんだ?」


「ブラックユニコーンと一角ベアの件なんだけど、どうなったかと思ってな」


「ああ、そのことか……。まず、結論から言おう。いないんだよ、どこにも……。カネダ子爵邸も調べたが痕跡もない。まあ、NPCたちが僕に嘘をつくことはできないからね。一角ベアも存在していた履歴がないし、魔物の数だって把握しているが、一角ベアは一頭も減っていないんだよ」


 当然魔物たちもデータとして管理されているが数も多く、調べるには時間がかかる。そうして苦労したにもかかわらず、おかしな点は見つからなかったのだ。


「現に僕がそのユニコーンの姿を見てるから、おまえの言うことを信じてないわけじゃないが、まだ謎だらけだと思ってくれ」


 翔の送った映像をその場で幸生も見ており、それが真実であることは疑いようもない。

 けれど、その証拠がないのだ。


「わかった、あとは兄貴に任せるよ。また何かあったら教えてくれ」


「ああ、その時に」


 ゲームシステムとなれば翔は管轄外だ。これ以上は彼にできることなど何もない。あとは兄に任せるだけである。


 とはいえ、彼の疑問はそれだけではないようだ。

 

「それともう一つ、さっきまでジョワラルムの冒険者ギルドでギルマスのハヤトさんと話してたんだが、ずいぶん流暢に話すなって思ったんだよ。他の連中は、まだぎこちなかったり、変な間があったりするんだけど、彼は普通に話すぞ! AIってあそこまで進歩するもんなのか?」


 そう、それは先ほど幸生が思っていたことと、同じであった。


「あ~、やっぱりそう思うか? 僕も、レーナさんが自然すぎて不自然っていうか、なんか違和感があるんだよなぁ」


「実は二人共アバターで、開発課のスタッフの誰かなんじゃないのか? まあ、俺達に隠す理由はわからんが……」


 二人が知らないだけで、実はスタッフだった。その可能性も否定できないところではあるが、幸生はその考えに違和感があるようだ。


「う~ん、どうかなぁ。なんか違う気がするんだよなぁ。なんとなくだけど……」


「そうか。まあ、いずれわかるだろ。じゃあ、これも保留だな!」


 そういって話を終えた。

 




 その頃、隣の部屋にいるレーナは幸生について夢愛に尋ねていた。


「ねえ夢愛ちゃん。幸生さんは、まだ私のこと気がついてくれないの?」


「ごめんなさい。お兄ちゃんは頭はいいけど、ポンコツだから」


「ポンコツって……」


 そんな話をしていた。





お読みいただき、ありがとうございます。

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