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ラフレシア討伐戦⑤

 幸生たちは勝利の余韻に浸る間もなく、次の戦いに移行する。


 今度の敵はモウセンゴケ。強力な毒が武器の厄介な魔物だ。

 こちらもウツボカズラと同様に元は食虫植物だったが、現在はその姿を大きく変えていた。

 コケに覆われた広い背中に、巨大なハサミ、さらには六本の長い脚と、その見た目は蟹のような姿へと進化していたのだ。


 けれど、モウセンゴケはあくまでも植物。

 巨大なハサミは強力な武器であるが、最も怖いのは、体中に生えたコケから伸びる無数の長い毛のようなものの、先端にある丸い突起。そこから出る毒性の粘着液で敵を麻痺させ、獲物を捕食するのだ。


 たとえ彼らであっても苦戦する。そう思われたが、案外余裕なようだ。

 

「どうやって戦おうか?」


「そうだな、最初の予定通り、魔力阻害装置を探したらいいんじゃねえか」


 元々の計画では翔が魔力阻害装置を探して、破壊するつもりだった。けれど、出現した魔物の数が多すぎたため、実行に移せていないのだ。

 とはいえ、流石に残りの魔物の数も少なくなり、そろそろいい頃合いだろう。モウセンゴケとラフレシアという強敵相手であれば、破壊しておくに越したことはない。


「そうだね。だいたいの位置は予想できているから、翔に任せようか」


「おっ、流石だな。で、どこにあるんだ?」


「ほら、焼け跡をよく見てごらん。何か気づかない?」


 幸生の勿体ぶった指摘に、翔とロイは焼け跡へ注意を向ける。

 夢愛の魔法で広範囲が焼かれていたが、魔力阻害フィールドは影響を受けないため、はっきりと跡が残っていた。


「あれ? 焼け跡の中心は洞窟じゃないみたいだ」


「そうだな。この感じだと、あの石辺りが怪しいんじゃねえか」


 翔たちから見て左側、木々が生えそろう林の近くに置かれた不自然な石。その大きさは人が腰かけるに丁度いいサイズでベンチ替わりかとも思われたが、ここにいるのは魔物である。

 昔使われていたにしてはキレイすぎるし、男が使うとも思えなかった。


 更には、どう考えても焼け跡の曲線は、その石を中心に広がっているように見える。


「わかったみたいだね。問題は、どうやってあそこまで行くかなんだけど」


 幸生は警戒態勢の敵へ視線を向けると、マズったなあ、と頬を搔いた。


 先ほどの戦いでは接戦を演じるつもりであったが、翔が無茶したことで、もうバレているだろうと考えたのだ。

 あの中でガッチリ守られてしまえば、こちらも攻めあぐねる。そのため、どうにかしたと思うが、あまり良い案は浮かばない。


 だが、こういった時に手を挙げるのが、翔だ。


「じゃあ、俺が行って壊してくるよ。魔力阻害フィールドなら、あいつらも自由に動けないだろ!」


 彼の言葉通り、先程の戦いを見る限りそれは確実だと思えるが、幸生はそれならと任せる相手を指名する。


「じゃあ、その役目はロイくんに任せようか。翔は奴らが邪魔をしないように誘導してくれ」


 動きが制限されているのなら、装置を破壊する役目はロイで十分だろう。戦いを翔に任せた方が安全に対処できるというものだ。


 けれど、ロイはその作戦に難色を示した。

 

「ええっ! オレがやるんですか? 無理ですよ……」


 全くの自信無さげな彼だが、ウツボカズラを倒せたのは、幸生たちの援護があったからだとわかっていた。であれば、単独での行動に不安を感じてしまうのも必然であろう。


 となれば、やはり翔が行くしかないのだが。


「じゃあ俺が行くから、お前がアイツらの相手をしろよ」


「えっ!? ……無理。石を壊す方がまだマシ」


 と、ロイは、アッサリ手のひらを返した。

 どう考えたって、こちらの方が楽。そこに行き着いたのだ。


「決まったようだね、じゃあ任せるよ」


「はい、頑張ります!」


 その返答に幸生も頷き、残るはお爺さんだけだ。

 でもまあ、彼に何かできるわけでもないので、今回もお留守番である。


「お爺さんは、また僕と一緒にいてくださいね」


「わかっとるわい」


 ようやく作戦も決まり四人は行動へと移る。

 けれど、さあこれからというところで、不意に「ドスン!」という響きとともに地面が揺れた。


「な、なんだよ」


「あ~、くそっ、またか!」


 そんな対照的な反応を占めるロイと翔であるが、彼らが振り返り見たものとは、地面に転がる巨大な岩だった。


「また夢愛のやつ、派手にやりやがって」


「やっぱりあの子の仕業なんですね、ハア……」


 翔はいつものことだと呆れていたが、その光景を初めて見たロイは目を丸くする。けれど、そろそろ慣れが出て来たのか、軽いため息を吐くだけだった。




 と、その時だ。


 幸生は背後で起きたことなど気にせずラフレシアの葉に乗る男を注視していたが、そこへ廃坑から小さな魔物が現れたのだ。

 身体に似合わなそうな大きな斧を肩に乗せ、カボチャ頭の男に気づかれないよう注意をはらいながら、ゆっくりと石に近づいていくその魔物。

 遠目から見てもゴブリンらしき姿とわかるが、問題があるとしたらその身体が緑色だということだ。

 本来のゴブリンの身体は肌色とでも言うべきか、ぱっと見、小さな子供のような姿であるはずだが……。


「まさか、グリーンゴブリン? どうして、こんなところに……」


「なんだ、兄貴、どうかしたのか?」


 兄の呟きが聞こえたらしく、翔が心配そうに尋ねた。


「ん……、ああ、ちょっとな」


 そう幸生は言葉を濁すが、その表情は深刻そうだ。


「あれ……、何かあったんですか?」


 ロイも二人の様子から察したらしく、そう口にする。


 実際、何か問題があったわけではないが、幸生はグリーンゴブリンの正体が魔物ではなく妖精だと知っていたため、その行動に頭を抱えたのだ。

 

「二人とも予定変更だ! 僕が魔法を放ったら、奴らに攻撃してくれ!」


 急な作戦の変更に、ロイは驚いた様子。

 魔力阻害フィールドがあるため魔法は効かないはずなのに、真っ先に魔法を放つというのはどういうことだろう。


 そう疑問に思ったロイの心を見透かしたように、幸生はこう答えた。


「問題ない。それよりも時間との勝負だ。できるな」


「でも……」

 

 ロイは不安なのか、そう口にする。

 彼の実力では、フレイムソードが使えない状態でモウセンゴケの相手は厳しい。それを自覚しているだけに、否定的なのだが、翔がその不安を吹き飛ばす。


「心配するな。兄貴ができるというなら絶対だ。思いっきりやればいい」


 兄を信頼してか、全く不安な様子を見せない翔に、ロイの気持ちも固まった。


「任せてください!」


 彼の中で小さな闘志が芽生え始めていた。



 一方、グリーンゴブリンは魔力阻害装置のある石に近づくと、斧を構える。

 破壊が目的なのだろうが、まだカボチャ頭の男は気づいていないようだ。


 幸生はその援護のために、詠唱を始めた。


「煉獄の炎を司る武神イフリートよ、その力をお借しください。【火炎放射(ファイヤーストリーム)】」


 彼の右手に持った杖から放たれた魔法は、火炎放射。帯状の炎がモウセンゴケ目掛けて襲いかかる。

 けれど、魔力阻害フィールドの影響もあってか、届かず霧散。

 とはいえ、この炎は持続タイプだ。いまだに杖からは炎が出続けており、途絶える様子はない。


 幸生の魔法に合わせて、翔とロイも飛び出した。魔法が打ち消されていることは見てわかっているが、それでもお構いなしだ。炎のライン上に入ってしまうと自身が危ないため、二人は両端にいるモウセンゴケを狙う。

 魔法無しでの戦いは厳しいものになるはずだったが、終わりはあっけなかった。

 


 と、その頃、幸生が魔法を放ったことを確認したグリーンゴブリンは、石を破壊するため持っていた斧を振り上げ、力強く振り下ろした。

 その勢いは強力で、石とともに隠されていた謎の装置までも破壊したのだ。


 するとどうだろう。それまで霧散していたはずの炎が勢いよく進んで行き、真ん中のモウセンゴケを呑み込んだ。


「よし!」


 幸生はそのまま両隣の二体も焼き払い、残りは翔とロイに任せ辺りを確認すると、カボチャ頭の男の視線は壊された魔力阻害装置に向けられていたが。


 そこにグリーンゴブリンの姿はなかった。


 逃げたのであればいいが、幸生は胸騒ぎを覚える。


「まさか……」


 と、次の瞬間、幸生は走り出していた。

 そして彼が危惧した通り、グリーンゴブリンはそこに倒れていたのだ。



 翔は兄の異変に気がついていたが、今は目の前の敵に集中する。モウセンゴケは蔓を持たないため、それほど戦いにくい相手ではないが、毒性のあるハサミは厄介だ。大きさも翔の倍はあって、攻撃範囲が広い。


「チィッ、武器の相性が悪いな。変えるか」


 今、彼が手にしている武器は『麗光』。斬ることに特化した武器だが、相手は堅すぎた。


 翔はストレージから疾風剣を取り出し、詠唱を始める。


「風よ刃となって切り裂け、【空刃(エアカッター)


 すばやく剣から空刃を飛ばし様子を見るが、モウセンゴケはハサミでそれを打ち払う。

 それを幾度か繰り返しタイミングを計った彼は、一瞬の隙をついて懐に飛び込んだ。


「【秘儀、風神】」


 翔は全身に風を纏い、そこから彼の流れるような連続斬りが始まった。そのイメージはカマイタチ。モウセンゴケの足を根本からすべて斬り落とし、柔らかい胴の部分も切り裂いていく。

 敵は近づけば毒に侵される危険な魔物だが、彼の纏う風がそれをすべて弾き飛ばした。


 そして、決着の時。そこに残るは無惨にも切り刻まれたモウセンゴケの姿であった。


「くっそ、せっかくのカニなのに、食えないのが残念だ!」


 そう呟く翔だが、見た目はカニで、その正体は猛毒の苔である。食べるのは自由だが、その後が自己責任だ。

 けれど……。


「ま、不味そうだし、いいか」


 と、すでに興味を失っていた。



 一方、ロイはというと、苦戦していた。フレイムソードがあるとはいえ技量はまだまだ足りず、飛んでくる毒を避け、迫り来るハサミを躱しながらの戦いは、彼に反撃の隙を与えない。


「チッ、このままじゃあ」


 そう思うロイであるが、少し気になることがあった。

 もし、さっき見た魔法のように炎を伸ばせたら戦いが楽になるのではと、考えた。


「魔法はイメージが大事って言ってたし、もしかして……」


 彼に火属性の適正はないが、この世界のスキルは後天的に授かることが可能となっていた。

 そのため、彼はここにきてとんでもない力を発揮する。


「炎を帯状に伸ばす。えっと、こんな感じか?」


 そう口に出して魔法をイメージすると、フレイムソードの炎が少しだけ伸びた。


「おっ、良さそうだ」


 十分に手ごたえを感じているが、まだ数センチといったところ。これでも効果はあるのだが、まだ不十分だ。


「お願いだ! もう少しだけ、伸びろ!」


 そう、力を込める。

 すると、炎は少しずつ伸びていき、剣の2倍の長さで止まった。と、同時に彼は新しいスキルを習得したのだ。


「いける。唸れ、【炎流(えんりゅう)】」


 ロイは覚えたばかりのスキルを使い、フレイムソードを横凪ぎに振る。剣では届くような距離ではないが、炎は流れるように伸びていき、モウセンゴケを捕らえた。


「やった!」


 その喜び通り、炎が弱点だったモウセンゴケは、火ダルマとなって焼けたのだ。


「よくやったな!」


 成果を挙げたロイに翔が声をかけるが、彼は魔力の使いすぎで、もう限界。

 安心できる声を聞き、その場で意識を手放した。


「おっと」


 翔は倒れ行くロイを両手で支え、横たえる。


「もう大丈夫だ、安心して休め!」


 そう言って、彼を庇うように立つのだった。




 

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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