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ラフレシア討伐戦④

 厳しい戦いの末、シュトルムリリエとの一戦に勝利した夢愛たち。

 かく乱のために召喚したゴーレム犬たちは全滅してしまったが、模型自体は無事である。素早くそれらを回収した夢愛は、兄たちの戦いぶりへと目を向けるのだった。


 

 一方、その幸生たちであるが、真っ先に飛び出したのは翔だ。彼が兄から受けた指示は、魔物たちを魔力阻害フィールドの外に誘い出すこと。

 夢愛が放った魔法の影響で地表には丸い曲線を描くような焼け跡が残っており、その境を目印にスキル瞬速で跳んだ翔が魔物たちを挑発する。


「お~い、ウスノロども。悔しかったらかかってこいよ!」


 なんとも幼い物言いであるが、その効果は抜群だ。挑発に反応した魔物たちが動き出そうと、バタバタともがき出す。

 魔物たちが人の言語を理解できるわけではないが、挑発スキルに声を乗せることで不快に感じるようだ


 けれど、その魔物たちの動きが止まった。

 どうやらカボチャ頭の男が何かしたらしい。


「止まれ! 馬鹿者が」


 たった一言、それだけで魔物たちを(ぎょ)した男。実に統率がとれていた。

 まんまと挑発に乗ったウツボカズラも動きを止めて、不満そうながらも次の指示を待つ。


 魔物となったウツボカズラは巨大な捕虫袋から蔓や根が生えてた、見た目も悍ましい姿だ。

 もともと食虫植物であったこともあり、その捕食対象は人間や動物といった大型な生き物までと、実に厄介な存在となっていた。

 翔程度であれば丸呑みであり、上質な餌の前でお預けをくらった形である。

 そのイライラは募るというものであった。


 魔物がバタバタと地団駄踏む姿は滑稽であるが、翔も誘いに乗ってこないウツボカズラに悔しそうな態度を見せる。

 動き出そうとする姿までは確認できたのだから、それも仕方がない。


「くっそ、あとちょっとだったのに……」


 と、右の拳を左の掌へ叩きつけるが、あくまでもそれは演技。頭の中ではすでに次の手が考えてあった。


 まるで開き直ったかのように魔力阻害フィールドへと踏み入り、得意なスキルを使う。


「【瞬速】」


 だが、彼の姿は一瞬ブレただけで、ほとんどその場を動くことなくバランスを崩し、転倒した。

 

 魔力阻害フィールドではスキルの発動と同時に打ち消してしまうため、このような事態となったのであるが、もちろんこれはワザとだ。転んだ状態でも彼の視線は魔物たちにロックオンされており、ジッとその様子を確認する。


 がしかし、特に変化はない。


 それでもまだ演技は続けるらしく、翔は剣を杖に見立てて立ち上がり、魔物たちに背を向け、いかにもケガをしましたといいたげに足を引きずって歩き出した。


 あまりにもお粗末な演技に、幸生も「何やってんだアイツ」と、苛立った様子。

 もしそれが人間相手であっても騙せるとは思えない演技に、到底魔物が反応するとは思えなかった。


 けれど、ここでまさかが起きる。何故か魔物たちが動き出したのだ。

 その理由はウツボカズラにあるわけではなく、カボチャ頭の男であった。


「お前たち、奴らを皆殺しにしろ!」


 そう指示を出した男は、もちろん翔の作戦に引っかかったわけではない。

 遠目に見えるシュトルムリリエが次々と水球を放出し敵を寄せ付けない戦いぶりを見て、ウツボカズラに挟撃させようと目論んだのだ。


 このチャンスに最前列のウツボカズラが動き出す。魔物たちは翔の挑発に我慢していたこともあり、その行動は早かった。


 魔力阻害フィールド内ということもあり、真っすぐに進んでくるウツボカズラであるが、その動きに気づいた幸生たちは、驚いた表情を見せる。


「嘘だろ」


「おっ、やったぜ、兄貴。成功したみたいだぞ!」


「いや、そんなバカな……。まさかあんなのに引っ掛かるヤツがいるなんて……」


 とはいえ、これはチャンスだ。

 幸生はすぐに落ち着きを取り戻し、ここぞとばかりに指示を出す。


「翔は右を頼む、ロイは左だ。僕が魔法を叩き込むから、逃がすなよ」


「「 了解! 」」


 魔力阻害フィールドとの境まで隊列を維持したまま進んできたウツボカズラは、そこを過ぎると一気にバラけ、獲物目掛けて強襲する。その動きは大型の魔物にしては速く、長い蔓を鞭のように振り回し、獲物を逃がさない構えだ。


 けれど、いくら速くても大型の魔物は遠隔攻撃の良い的でしかない。

 特に植物系の魔物は火に弱いため、格好の餌食となる。


「燃えさかる炎よ、集まり、燃やし尽くせ!【火球(ファイヤーボール)】」


 待ってましたとばかりに、幸生は正面のウツボカズラに大きめの火球を叩き込む。挑発の影響もあり、猛進してきた魔物たちに避けるすべはなく、たった一発で隣接する三体の魔物を巻き込み、炎の海に沈めた。


 これで残りは左右に分かれた七体。


 翔は残っているうちの右側にいた四体を相手取る。隊列を保っていたため若干の差があり、まずは先頭にいた一体に的を絞った。


「秘儀、疾風斬り!」


 スキルを使い、加速をしつつ刀を横に薙ぎ払うことでウツボカズラを真っ二つに。続けて、後ろにいた一体も逆袈裟に斬り上げ瞬殺だ。

 けれど、待ち構えていた残り二体から同時に攻撃され、間一髪で躱す。


 ウツボカズラたちは長い蔓を振り回し、翔からの反撃を阻止しようとするが、それで止まる彼ではない。

 武器が鋭い切れ味を誇る刀であるため、飛んでくる蔓を次々と切り落としていった。


 このまま続く膠着状態。小刻みに振る翔の剣捌きは素晴らしいが、ウツボカズラとて負けてはいない。蔓の数(てかず)を増やし、互いに隙を探り合う。


「まずいな、これじゃあ、キリがないぜ。どおすっかな……」


 まだまだ余裕のあった翔であるが、このままではジリ貧だ。一旦距離を取るという方法もあるが、その隙にロイの方へ向かったら最悪である。


「仕方ない、使うか。【アクセルブースト】」


 スキル【アクセルブースト】は使用者のスピードを二倍にするというものだ。

 普段使いのスキル瞬速から派生したもので、その効果は一定時間持続するが、魔力消費はそこそこ多いという欠点もある。

 おまけに覚えたばかりのこの技は継続時間は僅か十秒とあってないようなもの。

 一瞬の輝きにかけ、翔は刀を振るう。


 サクサクっと二連撃。

 それで勝負はついた。

 振り回される蔓の僅かな間を縫うように進み、呆気なく仕留めたのである。


「ふう、結構魔力を食うな」


 戦い終えた翔は、そう感想を漏らす。


 彼の魔力量はあまり多くもなく、それまでにも瞬速を多用していたこともあり、そこそこの魔力を消耗していたのだ。


 魔力枯渇に近い状態となっているが、たいして多くない魔力量であるなら回復も早い。

 彼は僅かばかりの休息を取り、ロイの援軍へと向かうのだった。


 


 一方、ロイと幸生はというと、一進一退の攻防を続けていた。

 ロイが相手にしている魔物は三体。やはり蔓を鞭のように振ってくるが、その攻撃は単調であり、わかりやすい。たまに来る体当たりさえ警戒していれば、フレイムソードを持つ彼の方が優位といえた。


 けれど、それはあくまでも防御に徹する上でのことだ。

 彼には三体のウツボカズラに有効な攻撃能力がないのである。いくらフレイムソードといえど、近づけなければ意味はなかった。


「チッ、蔓が多すぎる。これじゃ、どうしようもないじゃないか」


 そんな泣き言を口にするロイに、幸生が発破をかける。牽制の炎の矢(ファイヤーアロー)を放ち、「まだまだいけるだろう。ほら、まず一体だ。そしたら助けてやるよ」との無茶振りであったが、その炎の矢は一体のウツボカズラに突き刺さった。


「あれ?」


「え、チャンス?」


 そんな絶好のチャンスが訪れ、ロイが走る。けれど、すぐに他の二体に邪魔され振り出しに戻った。


「くそっ! またか……」


 いつの間にか炎の矢が刺さったウツボカズラの火も消え、三体による蔓の攻撃が再開される。

 

 せっかくのチャンスを不意にしたロイは悔しそうにするが、これは彼の思い切りが悪く、踏み込みの甘さが原因だ。

 相手が悪いといえばそれまでだが、分不相応の武器を持ったせいであるともいえる。

 まだ実力の伴わない彼にフレイムソードを扱うなど、荷が勝ち過ぎた案件だった。


 幸生の思惑としてはフレイムソードの実験をしつつ、彼に経験を積ませようという腹積もりであったが、そう上手くはいかないものである。


 二人がモタモタしているうちに、自分の分を倒し終えた翔が合流した。


「おい、何遊んでんだよ!」 


「おっ、もう終わったのか」


「終わったのかじゃねえよ。あんなのに時間かけ過ぎだろう!」


 そう苛立ちを見せる翔であるが、幸生としても無闇に遊んでいたというわけではない。むしろ接戦にみせるかけることで、カボチャ頭の男に『敵は弱い』と思わせることが目的であった。


 とはいえ、もう頃合いといってもいいだろう。

 ウツボカズラ相手に苦戦するようでは、その後に控えるモウセンゴケに勝てるはずがないと、印象付けたはずである。


「もういいや。翔、すまないが一体倒してくれるか。ロイも自力で一体な!」


「ええっ! 俺一人で倒すんですか?」


「そうだよ、がんばれ! で、僕も1体と、【火球(ファイヤーボール)】」


「「 ズルい!!」 」


 そう幸生はポンっと火球を放ち、ウツボカズラ一体を呆気なく倒す。それに触発された翔も、一体程度ならとスキルも使わず倒していた。


 そして残るはロイだけとなったが……。


 ロイはウツボカズラに正面から斬りかかる。けれど、やはり蔓を振り回してくるため近づくことができず、先程までと同様に攻めあぐねていた。


「おい、フェイントとか入れて、掻き回せよ。そんなんじゃ倒せないぞ!」


 翔はあまりにも馬鹿正直な戦い方を見兼ねて、ロイに声をかける。虚実のない彼の剣はキレイ過ぎたのだ。

 それなりに実力があるため、Eランク程度の魔物なら今のままで十分対応できたが、この先に進むのならもっといろんな技を身に付けるべきである。


「フェイントって……」


 ロイは翔との模擬戦を思い起こす。

 確かに翔は視線を含め、多くのフェイントを入れていた。


「翔さんはこんな感じで……」


 そんな思考の変化から、彼の動きが変わる。

 前後左右や緩急をつけ、ウツボカズラを惑わし始めたのだ。体を動かすことで蔓も避けやすくなり、次第に余裕が生まれてきた。


「いける!」


 そう叫んだ言葉通り、彼の剣がウツボカズラに突き刺さった。そのまま横に凪ぎ払い、返す剣で縦に振り下ろす。十字に斬り刻まれたウツボカズラの身体は激しい炎に包まれ、そして燃え尽きた。


「なんだよ、やればできるじゃないか!」


「いえ、翔さんのおかげです」


 初の大仕事をやってのけ、ロイは嬉しそうに幸生たちのもとへ戻るのだった。




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