ラフレシア討伐戦①
謎の老人に案内され、幸生たちは新たな採掘場跡地へ向かう
そこには採掘された鉱石を運び出すための広場があり、廃坑入口前にラフレシア三体が陣取っているという話だったが、彼らが辿り着くと、そこでは想定外の出来事が起きていた。
「うそだろ! まだ出てくんのかよ!」
「すごいねぇ、何体いるのかなぁ?」
目の前で起きている光景に信じられない様子で驚きの声をあげる翔と、どこか嬉しそうな夢愛。
それというのも採掘場跡地では、廃坑の中から次々と魔物が現れたのだ。
魔物たちはそのまま襲ってくるというわけではなく、ラフレシアの前で隊列を組み始め、一列目と二列目にマンドレイク、三列目から六列目までを様々な種類のキラープラントたちが並び、その後にやや大きめのウツボカズラが五体ずつ二列。その次に巨体のモウセンゴケ五体が横並びとなり、最後は三体のラフレシアという順だ。
「そんな、ありえない……。 何だよこれ、さっきまでこんなんじゃなかっただろ」
ロイは眼前に広がる光景に怯え、震えて出した。
Cランクの冒険者たちが、たった三体のラフレシアに全滅させられたというのに、今はこれである。Eランクでしかない彼には、無理のないことであった。
だが、そこに追い打ちをかけるかのように、レーナの声が響く。
「幸生さん、後ろからも現れました‼」
その声に反応し幸生が振り返ると、後方から三十体ほどのキラープラントが隊列を組んで近づいてくる。
「どうやら、逃がす気はないようだね」
戦場で最も危険な挟み撃ち。前に百、後ろに三十と、完全に逃げ場を封じられた。にもかかわらず、幸生はあまり焦ってはいない様子。すぐにでも攻撃を仕掛けてこないこないことから、ある予測を立てていた。
「翔! 指揮官がいるはずだ。 わかるか?」
隊列を組んでいる時点で、指示を出すものがいることはわかっていた。それが雑多な組み合わせであるなら尚更だ。
「ちょっと待ってくれ。 …………いた! あいつだ‼」
魔物たちをサッと見回した翔は、最奥にいる指揮官らしき魔物を見つけた。
大きなカボチャ頭に黒の燕尾服と、到底似つかわしくない姿だが、真ん中のラフレシアの葉に乗り、整列する魔物たちに指示を出していたのだ。
「あいつだ! ワシの孫娘をさらったのは。おのれ! 孫を返せ‼」
老人もその姿を捉えたらしく、大きな声をあげる。
しかし、幸生は指揮官らしき者の姿に、不可解そうな顔をした。
「確かにカボチャ頭だけど、パンプキンヘッドとは違うかな。あのカボチャは皮が黒いみたいだね」
ジャックオランタンといえばオレンジが定番である。それが黒カボチャとあっては興も覚めるというものだ。
とはいえ、指揮官が姿を見せたということは、そろそろ攻撃が始まるはずである。幸生たちも辺りを警戒し、臨戦態勢へと入った。
が、そこで。
「なんだよ、たったこれだけの人数に、ずいぶんな戦力だな。……っていうか、話、違わねえか。ラフレシア三体どころじゃねえぞ……」
あまりの戦力差に、翔がそんなことを言いだした。
そもそもラフレシア三体と思っていたものが、アレでは軍隊である。到底このまま戦ったのでは勝ちは見えず、何かしらの作戦が必要であった。
「もしかしたら、ここは魔王軍の拠点になりつつあるのかもしれません」
「「「拠点?」」」
「はい、これだけの魔物の数です。これを統率できるとすれば、魔王軍幹部クラスが関与していると考えたほうが自然かと思います」
魔王軍幹部クラスといえば、難敵である。それが関与していると言い出したレーナに、幸生も気を引き締めた。
「……ってことは、ここは潰しとかなきゃいけないね」
こんな町の近くに魔王軍の拠点など、冗談にもほどがある。それだけは絶対に阻止しなければならないと、気合を入れた。
……がしかし、レーナの話を聞いたロイは絶望に打ちひしがれていた。
「なんだよ、拠点って。それに、魔王軍幹部って。冗談だろう」
彼はまだEランクの冒険者であり、駆け出しだ。年も十五歳と若く、この先の未来もあった。それが、自分はここで死ぬ、そう突きつけられたことで、心が折れてしまったのだ。
とはいえ、あくまでもそれは彼だけであり、幸生は淡々としたものだ。いつもと変わりなく指示を出し、最善を模索する。
「じゃあ、そろそろだね。作戦を決めようか。
まずはいつものように夢愛が魔法を放ち、翔は正面を突破してくれ。レーナさんには後ろを任せるから、唯は魔法杖で援護してあげて」
「「「「はい!」」」」
リーダーの出す指示に迷いなく返事をし、四人は戦闘態勢に入る。翔とレーナは剣を抜き、夢愛と唯も杖を手に持ち意識を集中し始めた。
魔法の発動に杖はなくてもいいのだが、イメージは重要。触媒として杖を使ったほうが、便利な場合もあるし、威力も増す。
夢愛の持つ杖は長さ一メートルほどの樫の杖。先端にはルビーがはめ込まれ、火属性の魔法をよりイメージしやすくしていた。
そして、唯の持つ杖は幸生の作った短めの魔法杖だ。火弾、氷の針、光の矢と三種類の魔石が使われた特殊な武器で、実はとんでもない代物なのである。
魔法の装備を作るにはラピスホールと呼ばれる穴が開いている必要があり、これが三個開いているなどまずありないことだった。実存するこの手の武器は全て伝説級であり、いずれは唯の持つ魔法杖も名前が付けられ、そう呼ばれるはずである。
まあ実際はストレージに入っていた『Sラン』で入手した杖を幸生が使っただけであり、本人には全く自覚が無いのだが……。
とはいえ、続けて幸生は老人とロイに指示を出す。
「おじいさんは、僕の後ろにいてくださいね」
「おうおう、頼んだぞ」
全く戦力にならないと自覚のある老人は、素直に幸生の指示に従った。先ほどの勢いだと自ら飛び出していきそうであったが、これで一安心だ。
そして問題となるのはロイである。一度は心の折れた彼に再び戦う気力があるのかどうか。
「ロイ、きみにも戦ってもらうよ」
「もちろんだ。オレだって、戦える。あんな奴ら、軽くあしらってやらあ」
明らかにやせ我慢とわかるカラ返事であるが、どうやら少しは気持ちが残っていたようだ。
幸生はそんな彼に自信をつけさせようと、ストレージから一本の剣を取り出した。
「君にはこの剣をあげるよ。役に立つんじゃないかな」
「え……」
一瞬、キョトンとした表情を浮かべたロイ。だが、幸生が差し出した剣をつかむと、男らしい顔つきとなっていた。
「これって、魔法剣だよな」
「そうだよ。これはフレイムソードって言うんだ。柄にはめ込まれている魔石に魔力を流すと炎が出るから、試してごらん」
そう聞かされたロイは物は試しと魔石に魔力を流す。すると、あっというまに、ブレード部分が炎に包まれた。
「すげえ」
本物の魔法剣。勿論、見るのも触るのも初めてだ。と、同時にある疑問も浮かぶ。
「俺なんかがこんな高価な武器を使わせて貰っていいのか」
「ああ、それなら気にしなくていいよ。それは僕が作ったものだからね」
「作った……、これを?」
魔法剣の作成には魔石に魔法を付与するスキルと、魔力回路作成スキルの両方を必要とする。
魔法付与は付与師ギルドのDランクで覚えることができ、魔力回路作成はCランクになってからだ。
そのため、幸生は最低でも付与師ギルドでCランクとなるわけだ。
自分とそう年の変わらない相手が付与師ギルドのCランクとなれば、驚きも増すだろう。
「まだ実践で試してないから、あとで感想を聞かせてよ」
そんなことを気軽に言う幸生と話しているうちに、ロイの震えは収まっていた。
ある意味バカバカしい。そう思ってしまったのである。
「おっ、いいなそれ。兄貴、俺にも作ってくれよ」
「なんだよ、お前にはもっといい武器があるじゃないか」
「いや、それはそれ、これはこれだ!」
これから魔物の大群と戦おうというのに、この調子である。
彼らはこの状況をピンチと捉えておらず、むしろ楽しんでいるようにも感じられた。
「おい! そろそろ、動きだすぞ!」
気の抜けた会話をする二人に毒気を抜かれたロイは、むしろ大丈夫かと心配するほどだ。
何故か逆に発破をかけ、彼らの意識を戦場へと戻す羽目となった。
そんなロイの姿にクスッと笑みをこぼした幸生は、再び戦場へと視線を向ける。勿論、しっかり辺りの警戒は怠っておらず、敵の動きも察知していた。
「夢愛、いけるか?」
「うん、すぐにでも撃てるよ」
すでに魔法の詠唱を終えていた夢愛は、スタンバイ状態で待っていた。
魔法は詠唱なしでも発動できるが、詠唱ありの方が威力もあがり、その詠唱次第ではとんでもない威力となるのだ。
そして……、幸生はそのことをすっかり忘れていた。
「前進‼️」
カボチャ頭の魔物が大きな声で叫ぶと、魔物たちが一斉に進軍を開始した。けれど、その動きは遅々として進まず、徐々に距離を詰めてくる程度だ。
無言の圧力ということなのだろうが、普通の冒険者には脅威であっても、幸生たちにこの作戦は正に悪手。
「いいぞ!」
「じゃあ、いくね! 【炎輪】」
幸生からの指示に、夢愛が発動呪文を口にすると同時に、持っていた杖で空中に円を描き、白い光の輪を浮かび上がらせた。そして、それを魔物たちに向けて放り投げたのである。
「あ、ほいっと」
彼女の手元を離れた白い光の輪は、ふわふわと魔物たちの上空へ飛んで行き……。
「なあ、あれって、ヤバくねえか?」
「白かあ、ずいぶんため込んだな」
「何悠長なこと言ってんだよ! やべえって。くっそ、あいつ、自分がダメージを受けないからって、やり過ぎだろ‼」
「うん、確かにあれはマズい。 みんな、すぐに僕の後ろへ避難して!」
妹の放った魔法を見て、急に慌てだす二人の兄たち。そしてその意味をよく知るレーナと唯、老人が慌てて幸生の後ろに隠れた。
けれど、ロイだけは何のことかわからずボーっと突っ立ったままだ。
「おい、何やってんだ! 早く隠れろ!」
翔は慌てて彼の腕をつかみ、幸生の背後に引きずり込む。
それと時を同じくして、夢愛が杖をかざし起動の言葉を口にした。
「いっけえ! 【|破裂《バースト】!」
彼女の声に反応し、白い光の輪は一旦収縮。そして次の瞬間、一気に膨張し破裂した。
「パア――――ン」
酷い破裂音が響き、光の輪からは赤い炎があふれ出し、円状へと広がっていく。そのスピードは速く、魔物たちを一瞬にして呑み込んだ。
が、それだけではなく、その炎は幸生たちにも迫る。
「守れ!【絶対防御】」
幸生の放つ絶対防御魔法により、周り三メートルほどの範囲を聖なる光が覆う。
これはどんな攻撃をも防ぐという無敵技だが、その分魔力消費も激しい。
できる限り使いたくない技であるが、今はそれどころではないのだ。
幸生たちを素通りした炎が、今度は後方で待機していた魔物たちを襲う。
「「「「「「「ギャアアアアアァァァァッッ‼」」」」」」」
と、醜い断末魔の叫びが響き、この一瞬で多くの魔物が燃えカスとなった。
炎は植物系の魔物にとって弱点。特に夢愛の放った【炎輪】は威力も高く、周りの木々も一瞬にして焼き尽くしたようだ。
けど、その高威力のおかげか、森林火災とまでは至らず、小さな炎がくすぶっているだけに留まっていた。
「【氷雨】」
幸生はすぐさま絶対防御を解除し、次の魔法を放った。炎によって発生した水蒸気を氷に変え雨として降らせたのである。
広範囲魔法氷雨によって、くすぶっていた炎も消え、焼け焦げた大地が姿を見せた。
どうやら元が採掘場だっただけに、生えている木々が少なかったことが幸いしたようだ。
「あれ……」
「てめえ! 毎回毎回、俺たちを巻き込むんじゃねえよ‼」
「え~、うまくいったよ~」
明らかにやり過ぎたにもかかわらず、全く反省の色がみえない夢愛。
その様子にブチ切れの翔であるが、それが通じる相手でもなく。
「ふざけんな! 兄貴が居なかったら、俺たち死んでたじゃねえか‼️」
「べぇ~」
と、相変わらずであった。
「まあ、まあ、翔も被害はなかったんだから、許してやんなよ」
「チェッ、兄貴はこいつにあめえんだよ! だから、つけあがるんだ!」
怒り心頭の翔であるが、兄の言葉に幾分かは落ち着いた様子。
実際のところ彼女の言い分も正しく、これで大方の魔物がかたずいたのだ。
これからが本番。そう思わせるには十分だった。




