Cランクの冒険者パーティ
Cランクの冒険者の全滅。それは、すでに彼らが死亡していることを意味していた。
「まさか、そんな……」
真っ先に反応したのはレーナだ。
サカオ町にCランクの冒険者はいないため、全滅したのは必然的にジョワラルムの冒険者、ということになる。
「ロイ! 本当なんですか、それは!」
「……レーナさん」
ロイは彼女を見ると、心苦しそうに俯いた。レーナが少年を知っていたように、ロイも彼女を知っているのだ。
サカオ町にDランクの冒険者は『山の守り人』の三名しかいないため、暫く滞在していたレーナとハヤトのパーティは有名だった。特に、Cランクのハヤトに憧れを抱く冒険者は多く、一緒にいるレーナは羨ましがられたものだ。
「嘘だろ! Cランクの冒険者でも勝てないのかよ!」
そう叫んだ翔も、その事実に驚きを隠せないらしい。
というのも、『Sラン』での彼はCランク。この世界のCランクがゲームと同じかどうかは別として、それなりの実力者であったことは確かである。
握った拳を振り上げ、力強く地面に叩きつけていた。
「ロイ君だったね。すまないが、詳しく聞かせてもらえないか?」
幸生は怯えをみせる少年に、事情を尋ねる。
凄惨な現場に立ち会ったことはわかるが、正確な情報は必要だった。
がしかし、それはロイも同じこと。ようやく話を聞いてもらえそうな雰囲気に、少しばかり安堵した様子であった。
「さっきも言ったけど、俺は仲間たちと一緒にあの魔物と戦ったことがあるんだ。だから、討伐にきてくれたCランクの冒険者パーティ【栄光】の三人を、あそこへ案内したんだけど……、彼らはもう……、うぐっ」
ようやく立ち直りを見せかけた少年だったが、そこまで話すと表情を歪め、嗚咽を漏らし、涙を滲ませる。両の目からは大粒の涙が今にも零れ落ちそうで、そこをギュッと我慢しているようだ。
「さ、最初は彼らの方が、……優位に見えたんだ。でも、戦士ばかりのパーティだったから、どうしても接近戦になるだろ。だから、奴らが振り回す蔓を掻い潜り懐に潜りこんでいったんだ。
……けど、それを見越してか、奴らはブレスを吐いて……。それを食らった栄光のみんなは途端に様子がおかしくなっちまって、同士討ちを始めたんだよ。それで弱ったみんなは蔓に捕まり、奴らの餌に。……丸呑みだった。
俺たちも助けに入ろうとはしたんだ。……けど、ラルフさんが『来るな! お前たちは生きて帰り、ギルドに報告してくれ!』って。自分が食われる寸前だったんだぞ。
……俺たち何もできなかったんだ……う、う、う」
ロイは話終わると、堪えきれず泣き出してしまった。
幸生たちも、あまりの壮絶な内容に言葉が出ない。殺された、というよりも生きたまま食われたのだ。さぞ無念であったことだろう。
しばらく続いた長い沈黙の中、最初に口を開いたのは幸生だった。
「ロイ、君が悪いわけではないよ。いたずらに戦っていても、犠牲者が増えただけだろうしね」
「でも、俺たちにもっと力があったなら……」
ロイは自分たちの無力さに悔しさを滲ませる。だが、翔はそんな彼に目を向けるべき現実を突きつけた。
「だったら、おまえらも死んでいただろうな」
その強烈な一言は、ロイを更なる苦境へと陥れる。彼の言いたいことの意味、それは仲間たちの死を意味するのである。
その事実に気づいた彼に言葉はなく、ただ項垂れるだけだった。
とはいえ、Cランクの冒険者があっさり殺されたとなれば、相手は最低でもBランクの魔物ということだ。
しかし、魔法が封じられた地形であっても、ただのラフレシアにできることではなく、亜種である可能性が高いと考えられた。
となれば、ロイが少しばかり力をつけたところで、かなう相手ではないのである。
「でも、まさか栄光が全滅なんて……」
レーナはまだ信じられない思いでいた。特に知り合いというわけでもないのだが、ギルドの先輩であった彼らのことは、実績のある実力者だと聞かされていたのである。
「レーナさんは、その人たちを知っていたのですか?」
「はい、直接お会いしたことはないのですが、男性三人組のパーティで全員戦士職と聞いています。ただ、リーダーのラルフが光、レクトが水、オルクが風と、それぞれ魔法が使えたそうで、オーガやトロールといった魔物も討伐していますし、実力は確かだったはずです。
彼らはまだ皆二十代前半と若く、将来を期待されていました」
「そうですか……」
レーナの話を聞く限り、彼らは十分な実績を積み重ねてきたパーティだと思われた。しかし、幸生はあることが気になっていた。
「戦士職か……」
魔法が使えるといってもベースが戦士では、魔力量はそう多くはないはずだ。
事実、彼らは強い攻撃魔法を使えず、主に、光属性の回復や水属性の治療といった治癒系の魔法をメインに使っていた。治癒系の魔法は魔力の消費量が多く無駄にできないため、三人とも前線で体を張っていたのだ。後衛なしの特攻型、それが彼らの戦い方であった。
「翔、どう思う?」
「まあ、自重しなくていいってんなら、問題ないんじゃねえか」
魔法が使える戦士パーティと聞けば一見バランスよく感じるが、彼にはかなり歪にみえたようだ。回復を使える戦士っていうのはありだが、あくまでも自身に対して使うべきで、戦闘中に仲間へ使えるものでもない。当然それは治療にも言えることだが、そもそも後衛がいないのであれば陽動もできず、出ずっぱりとなる。弓使い、もしくは魔術師が必要なのであった。
とはいえ、それでもCランクになれたのは戦士としての技量が優れていたからで、彼らの努力の証なのであろう。
翔が遠慮なく魔法を行使できるのも、兄妹たちのサポートがあるためである。
「よし! そんなやつを野放しにするわけにはいかないからね。みんな、倒すよ!」
どう見ても罠が満載な状況だが、放っておくには危険すぎる案件だ。ここで倒しておかなければ被害が増大するだけである。
そう判断した幸生が仲間たちに発破をかけると、みんなも乗り気であった。
「よっしゃー! 腕が鳴るぜ‼」
久々の強敵とあって、翔の士気は高い。武者震いというべきか、身体を軽く震わせる。
しかし、そんな彼とは対照的な反応を見せるのが、女性陣だ。
「ラフレシアの亜種って、どんな感じかな?、可愛いといいな」
「そうですね、私はヒマワリみたいな花だと思いますよ」
「……いや、唯。それはヒマワリであって、ラフレシアではないのではないか?」
相変わらずマイペースな夢愛と、ふんわりした唯。そして、突っ込み役となったレーナである。とはいえ、それぞれがやる気を漲らせ、レーナに至っては「栄光の弔い合戦だ」と、気合も十分だ。
そんな彼らを見つめる老人は、してやったりと笑顔を滲ませる。
「フォ、フォ、フォ、やってくれると思っておりましたぞ。では、ワシが現場まで案内いたしますわい」
ここまでは予定通りと老人が先頭に立って歩き始めると、まだ納得できていないロイが「ちょっと待ってくれよ!」と、慌てて前を塞ぐ。
「お前ら俺の話を聞いてたのかよ! あいつは本当にヤバいんだぞ! 無理だって! 俺の仲間がギルドへ報告に行っているから、応援を待ったほうがいいって!」
元は仲間と共にこの地に来ていたロイ。しかし、Cランクの冒険者が敗れたとギルドへ報告に戻る途中、危険な山を彷徨う老人を見つけたのだ。そのため、リーダーの彼が老人を守るためこの場に残り、仲間たちだけでギルドに向かったのである。
メンバーの中でロイが一番の実力者。おまけに仲間たちのうち二人が火属性魔法の使い手だ。そのため、彼は安心して仲間たちを送り出すことができたのだ。
が、しかし、そんな見当違いな発言をする彼に、冷ややかな視線を送る老人。そう、そもそも根底から間違っているのである。
「ロイとやら、お主こそワシが何と言ったか覚えとらんのか。 『この者たちは勇者じゃ』と言ったはずじゃぞ」
呆気にとられるロイを横目に、老人はスタスタと歩いていく。そのあとを、夢愛とレーナが追いかけていき、幸生と唯も続いた。最後に翔が一瞬立ち止まり、ロイに声をかける。
「なんだ、おまえは行かねえのか?」
その声にハッとした彼は、「いくよ! いく。おい! 待ってくれよ!」と、先を進む翔を慌てて追いかけていったのだった。
☆ ☆ ☆
深い闇に閉ざされた廃坑の奥。
その一角には金属製の扉に閉ざされた小さな部屋が存在する。
もともと、鉱夫たちが休憩するために作られたその部屋は、利用する者がいなくなったことで、荒れ果てているはずだった。
しかし、今この部屋では明かりが灯り、真新しいテーブルにはグラスとワインが置かれ、椅子には男が一人、腰掛けていた。
男の年齢は四十代くらいで、黒い燕尾服を着て、整えられた髪型に端正な顔立ちと、いかにも優秀な執事といった雰囲気だ。とても、このような場所にいる人物ではなく、むしろ華やいだ場所でこその存在も生きるというものである。
だが、この部屋のおかしな点はこれだけではない。というのも、部屋の中央を冷たい鉄格子が横切り、この部屋を二分しているのだ。
反対側に出入り口が存在しないことから、ここは牢獄であろうと想像ができる。とはいえ、そこに人の姿はなく、あるのは巨大なオレンジ色のカボチャのみであった。
「ふっ、もはや人型も維持できぬか。まあよい、もう暫くもてばいい」
オレンジ色のカボチャに向けて言葉を放つ姿は、実にシュールだ。しかし、それはこれがただのカボチャであればの話で、実際はそうでないらしい。
「それにしても、二週間も持つとはな。さすが上位精霊といったところか」
薄っすらと笑みを浮かべ、そう語る男の言葉から、牢獄の中にあるカボチャは上位精霊であるようだ。そして、この見た目から想像できる精霊といえば、パンプキンヘッドくらいしかいないのである。
「フハハハ、もうじき念願が叶う。これで、私も……」
男はグラスを片手に立ち上がり、愉悦に浸る。その様は実に奇怪で、もし他に人がいたのなら、身震いしたことだろう。
「ゴン、ゴン。パンプキンヘッド様、また人間どもが現れました。いかがなさいますか」
不意に聞こえてきたのは金属製の扉を叩く音。そして外から告げられた、招かれざる人物の襲来。
僅かばかりの時間で現実に戻され、男は少し不機嫌そうな様子。しかし、その内容を深く吟味した後、不適な笑みをみせる。
「またか、ご苦労なことだな。だが、先ほどの奴らは、いい養分になった。逃がすのは惜しいか。よし、今宵を前夜祭としよう。お前は全軍を連れて迎えてやれ。逃がすなよ」
「はっ! かしこまりました。すぐに準備をいたします」
タッタッタと走り去る足音を聞きながら、男は何処からともなく大きな黒皮のカボチャを取り出した。それは、ジャックオランタンであるかのように中がくり貫かれ、大きな目と口が掘られているが、よく見ると本物ではなくマスクのようだ。
「久しぶりに、私も出るか」
そういって、男はカボチャを頭から被り、部屋をあとにしたのである。




