謎の老人
軽い昼食、そしてまだ見ぬ夢の装備へと思いを馳せた時の絆一行は、予定通り翔を先頭に廃坑へ入る。
入り口付近はまだ日の光が入り込んでいるため明るいが、奥の方は暗く見通せたのは十メートル程度だ。
「辺りを照らせ! 【光】」
幸生の放った光魔法ライトは坑道の天井付近で留まり光を放ち、その前後三十メートルほどの範囲を明るく照らす。戦闘となれば少し物足りないが、すでに冒険者の入った足跡もあるため、心配は無用であった。
「シンノスケ、魔物の気配は感じるかい?」
「うーん、少しお待ちくだされ。……いないようでござる」
「ありがとう」
念のため、幸生はシンノスケに魔物の反応を確認するが、やはり狩られてしまった後のようだ。冒険者の気配もないことから、もう探索済みなのは確定である。
「みんな、ここは人が造った坑道だから罠はないと思うけど、足元には注意してくれ。それと、魔物はいないみたいだから、先頭は僕が務めるとしよう」
「「「「はい!」」」」
幸生は洞窟に魔物がいないとわかると、歩く順番を入れ替える。目的のありかを知る幸生と探索可能なシンノスケを先頭に、唯と夢愛、後方を翔とレーナが守るという順番だ。
洞窟内に魔物はいなくても、新たに外から入ってくる可能性は否定できない。もしゴブリンやオークであれば、咄嗟に対応できる剣士の翔とレーナのほうが向いているのだ。
幸生は道なりに坑道を進む。流石に鉱山ということもあり、道幅には余裕があった。そして、およそ200メートルほど進んだところで立ち止まり、地面の様子をじっくりと確認した。
「じゃあ、まずはここからだね。レーナさんと夢愛、それにシンノスケは周りを見張っていてくれ」
坑道といっても、そこは目印となる物など何もなかったはずだ。それなのに幸生は迷いなくそう指示をすると、ストレージからスコップとつるはしを取り出したのである。
「翔はこれな!」
「うわっ、やっぱり手で掘るのか」
「そう、魔法だとダメにしちゃうかもしれないからね」
ダイヤモンドの原石は小石ほどの大きさだ。穴を掘る魔法【穴掘り】などで行えば壊してしまったり、見落とす可能性もある。細かい作業はこうして手で行う方が正確で速いのだ。
「幸生さま、私は何をしたらよろしいでしょうか?」
自分だけ指示を与えられないことから不安になった唯が、幸生にそう尋ねた。
折角行動を共にしているのだから、自分も役に立ちたい。そう思っているのである。
「じゃあ、僕たちが掘った土を調べてくれるかな? 一応、確認しながら掘るつもりだけど、ダイヤモンドの原石は小さいからね」
幸生はストレージから取り出した潮干狩り用の網付熊手を彼女に渡す。
「はい! がんばります」
「うん、任せるよ」
受け取った唯も、嬉しそうに熊手を握り締めるのであった。
幸生と翔が土を掘り起こし、唯が熊手でかき分ける。そんな作業を続けていたが、どうやら何も出てくる気配はない。
「ねえな」
「ありませんね」
「ないようだね」
これ以上は無意味。そう決断した幸生は視線をレーナへ向けると、移動を提案した。
「もう、次へ行こうか?」
「そうですね」
そして、心当たりのある場所を、何ヵ所か掘り起こすも、見つかるものは何もない。『Sラン』ではイベントで見つけられた原石は、次のイベント時には違う場所に自動設定されており、そのすべてを探してみたのだが見つけることはできなかったのである。
「……残念、無いみたいだね。どうしようか? 他の廃坑にも行ってみる?」
「そうだな、どうせなら行ってみようぜ!」
「賛成!」
「せっかくなので、すべて回りましょう」
「私は幸生様の指示に従います」
一発目は空振り、それでも仲間たちに異論はなく、幸生は次の廃坑へ移ることにした。
が、しかし……。次の廃坑でも同じように何もなく、また次も同じ結果となってしまった。
「やっぱり、無いのかな? 『Sラン』だと、次のイベント時には復活してるんだけど……。まあ、ゲームじゃないんだから、当然か」
三箇所目の廃坑を探し終えるも、そのすべてが空振りであったことで、幸生はそう結論づけた。
「もう、ずっと昔に採られてたんじゃないのか?」
「そうですね、私もそう思います」
「でも、魔物、全然いなかったね」
ダイヤの原石が見つかるよりも、夢愛には魔物と出会えなかったことの方が残念なようだ。未だ諦めきれずに土を弄っていたシンノスケをヒョイと掴み「もう帰るよ」と、抱き締めた。
そんな妹を見るに見兼ねてか、幸生はある提案をする。
「これからどうする? まだ時間もあるし、少しくらい魔物を狩っていこうか?」
「ほんと、賛成!」
メインとなる依頼も不発に終わり、このまま帰るのでは忍びない。せめて、可愛い妹の望みだけでも叶えたい。
そんな幸生の希望通り、夢愛は勢いよく手を挙げるのだった。
こうして次の目的を決めはしたが、まだ彼らは洞窟の中だ。とりあえず外へ出なければ始まらないと入口まで戻ってきたが、何やら騒がしい様子。
「おい、爺さん危ないって」
「なんじゃと、わしはまだ老いぼれてはおらぬわ」
どうやら入口の近くで言い争いをしているらしく、坑道の中まで声が聞こえてきていた。
「なんか、外が騒がしいぞ」
「う~ん、そうだね。とりあえずシンノスケ、君は一旦戻ろうか?」
「了解したでござるよ。姫、しばしのお別れでござる」
「うん、シンちゃん、またね!」
幸生からの指示で、夢愛はシンノスケを送還した。というのも、召喚魔法自体は珍しくないのだが、召喚された状態で留まっていることは不自然なためだ。
精霊召喚には多くの魔力を必要とし、そして召喚された精霊を留めている間、ずっと魔力は消費される。夢愛のように精霊石の力を借りていれば維持も可能だろうが、本来は必要に応じて適宜召喚することが望ましいのだ。
幸生は外の様子を窺いながら、坑道を出るタイミングを計っていた。聞こえてくる話の内容からは、お年寄りが坑道内へ入ろうとしているところを、男性が止めているらしかった。
「たぶん大丈夫だと思うけど、みんな注意は怠るなよ」
「「「「はい!」」」」
どうやら害はない。幸生がそう判断したのには理由がある。
会話を聞いていてわかったことだが、どうやら老人はボケているらしかった。
「爺さん、だからダメだって!」
「うるさい! わしは勇者様に用があるんじゃ! 止めるでないわ」
「なんだよ、勇者様って! そんなの、こんなとこにいるわけないじゃんか!」
「間違いないわ! さっきわしは、勇者様がこの洞窟へ入っていくのを見たんじゃからの」
「いいや、そんなの見間違いに決まってんだろ!」
言い争いをしているのは真っ白な髪の老人と、冒険者らしき少年だ。意味不明なことを言って廃坑に入ろうとする老人を、少年が必死に止めているといった状況である。
「どうやら老人と子供のようだね。あまり驚かせないようにしないとな!」
「ああ、わかってるって」
真っ先に出口へ向かうのは翔。右手に疾風剣を握り、素知らぬふりをして外へ出た。それから続けざまにレーナ、幸生、夢愛、唯と続く。
「えっ?」
そんな驚きの声をあげたのは冒険者らしき少年だ。まだ駆け出しであるらしく、突発的な変化には付いていけないようである。冒険者としてはまだまだ甘いと言わざるを得ないが、見たところまだ少年らしき姿であったため、仕方のないことだと言えよう。
だが、老人の方は違う。坑道から出てきた時の絆メンバーを眺め、すぐさま行動に移したのだ。
「おお、やはり勇者様じゃ。わしの見間違いではなかったのじゃ」
そういって老人が膝まずいた相手とは、まだ少女にしか見えない夢愛の前であった。




