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廃坑

 何やら話の行方がおかしくなり始めたため、幸生は受付嬢から詳細を聞くことにする。初めから少し疑ってはいたが、どうやら間違いなさそうだ。


「えっと、幻の鉱石探しというのは何だったのですか?」


「そうですね……。正直申し上げまして、宝飾ギルドからは『幻の鉱石を探して欲しい』という依頼は出されています。ですが、今までに発見された記録は古い物ばかりで、最近では一切見つかっておりません。それでも宝飾ギルドに残る記録に『廃坑に眠る宝』と記されていることから、あちらのギルドが中心となって定期的に開催しております」


 受付嬢の説明を聞く限りでは、全く問題ないかと思われる。しかし、これだけでは先ほどの説明になっておらず、そこからどうして魔物退治に繋がるのかが不思議であった。


「それで、どうして魔物退治に繋がるんですか?」


「はい、最初は普通に探すだけの依頼だったみたいなのですが、あまりにも見つからないので、参加者がいなくなってしまいまして、それで廃坑の魔物退治と合わせて行うようにしたところ、ついでという形で参加してくれるようになりました。依頼先が宝飾ギルドですので報酬も上乗せされて、冒険者の方々には美味しい依頼となっているんですよ。

 でも、今回はちょっと異常でして、危険な魔物の目撃情報があったため、制約を設けさせていただいております」


 彼女の言う制約とは、Dランク以上の冒険者であることだ。

 ジョワラルムの下部的組織となるサカオ町の冒険者ギルドにDランクの冒険者は三人しかおらず、残りはEランクとFランクのみ。今回出没している魔物は強力で、彼らだけでは対応できそうにないと判断され、急遽この依頼が行われたのである。


 移動に時間のかかる隣町ではあるが、魔物は狩り放題、素材の買い取り金額もアップとくれば、わざわざ出向く価値はある。冒険者の中にはこの依頼を狙って活動している者も多く、楽しみの一つとなっていた。


「そういうことか……」


 全ての話を聞き終え、幸生はやはりこれはイベントクエストだと確信する。幻の鉱石探しのイベントは、『Sラン』でも序盤での資金稼ぎが目的だったのだ。形こそ変わっているが、その目的は同じ。だったら普通に参加すべきだろう、幸生はそう考えた。


「情報ありがとうございます。僕たち、もう行きますね」


 欲しい情報はすべて得た。もうここに用はないと判断し、幸生は受付嬢にお礼を言ってギルドを出た。翔、夢愛、唯もペコリとお辞儀をしあとに続く。最後はレーナの順番だが、ここで受付嬢が彼女を呼び止めた。


「レーナ……、あなたがいるのなら大丈夫でしょうけど……」 


「ええ、安心して、サオリ。 あの子たちの実力は、私より上よ!」


「えっ……」


 Dランクの冒険者を護衛として雇った貴族の子供たち。そう認識していたサオリは、レーナの言葉に耳を疑った。

 パット見、戦えそうなのは兄弟らしき剣士と魔術師の一組だけで、あとは可愛らしいペットを連れた彼らの妹と付き添いのメイドである。どう考えてもお遊びにしか見えず、無理はしないだろうと考えていた。


「そうなの? でも、奥の方は危険だから、無理だと思ったらすぐに帰ってきなさいね」


「わかったわ」


 不安そうな顔でレーナを見つめるサオリ。そんな彼女を安心させるかのように一言告げて、レーナは足早にギルドを出ていくのであった。






 サカオ町を後にした時の絆一行が山に入ること一時間。すでに他の冒険者で踏み固められた登山道を登り、ようやく目的の採掘場跡地へと辿り着いた。


 この場所はSランでも採掘場跡として機能していたため、すでに二百年という時間が経過し、大木やら藪木やらで、まるっきり自然の中に溶け込んでいた。


「変わった魔物いないねぇ」


「ああ、歯ごたえのありそうな相手だと思って期待してたのにな」


 この場所に来る道中、せっかく珍しい魔物に会えると張り切っていた夢愛と翔。

 しかし、出会ったのはすでに戦ったことのある魔物ばかりで、ギルドで聞いたキラープラントなどとは遭遇していなかった。


「僕たちが来たのは遅かったからね。もう全部、倒されちゃったんじゃないのかな」


 幸生はそう予想するが、ある意味それは正しい。というのも、サカオ町に所属する冒険者に加え、ジョワラルムから大勢の冒険者がこのイベントに参加しているのである。すでにほとんどの魔物が討伐されていて、彼らが遭遇した魔物も跳兎(ステップラビット)一角兎(ホーンラビット)といった弱くて見逃された魔物のみであった。


「あーくっそー、こんなことなら、早くくりゃ良かったぜ」


「まあまあ、これから廃坑に入るから、中に何かいるかもしれないよ」


 幸生はそういって翔を落ち着かせるが、全く植物系の魔物と遭遇していないことから、この廃坑にも冒険者が入っていたことは確実である。


「ま、いいや。早いとこ探そうぜ!」


 仲間たちにそう言って急かす翔であるが、残念ながら彼らはまだ昼食を済ませていなかった。


「翔、急ぐのもいいが、まずは腹ごしらえだ。こんなところで万が一にも不測の事態が起きたら困るからね」


 幸いここは採掘場跡ということもあり、開けていて見通しもよいい。短い時間なら休憩するにはうってつけで、幸生と翔はおにぎり、女性陣はサンドイッチ、そしてシンノスケはミルクと手早く食事を済ませた。


 そしてその後は簡単なミーティングと、幸生の新スキルがお目見えだ。


「これから廃坑に入るけど、先頭を翔、次にシンノスケと夢愛、そのあとに僕と唯、背後の警戒をレーナさんにお任せします」


「「「「はい!」」」」


「それから唯、君には念のため、新しい武器を渡しておくよ」


「「「「武器?」」」」


 新しい武器、そう聞けば皆の興味は一気に高まる。そんな中、幸生が取り出したのは一本の(つえ)であった。

 幸生は唯のシューターという特殊なスキルに、どのような武器が合うか試行錯誤しており、試しに作り出したのが、これである。


「杖、ですか……」


 長さ三十センチ位の樫の杖。持ち手側には三色の魔石――火属性を示す赤、水属性を示す青、光属性を示す黄色――が埋め込まれ、それぞれに何かしらの魔法が付与されていることが窺えた。


「この杖を持って、赤い魔石に魔力を流してみて。それから、えっと、目標はあの岩でいいかな」


 幸生から杖を受け取った唯は言われた通り少し突き出た岩に杖を向け、赤い魔石に魔力を流す。

 その瞬間、彼女の手にした杖の先からは炎の塊が飛び出し、目標にした岩へ命中し粉々にした。


「す、凄い」


 適性のある風魔法ではヒョロヒョロッとした矢しか出なかった。それがこの杖を使えば、適性なしの属性でも簡単に魔法を放つことができるのだ。

 彼女が驚くのも無理はない。


「赤い魔石には【火弾(ファイヤーショット)】、青い魔石には【氷の針(アイスニードル)】、黄色い魔石には【光の矢(シャイニングアロー)】を付与してあるんだ。ほんとはね、杖の先端にダイヤモンドを付けると、もっと効果が増すんだけどね」


「ダイヤモンド? って、今探しているやつじゃないか!」


「うん、ちょっと多めに取れたらいいなって思たんだけど、無理っぽいかな。でも、ダイヤモンドにはね、魔力を集約させる効果があるから、まだ魔力コントロールが覚束ない彼女の助けになると思うんだよね」


『幻の鉱石』の正体、それはダイヤモンドなのである。白い小さな原石――実際には元素鉱物に分類されるため鉱石ではない――は、小石のように見えるため見逃しやすいが、鉄鉱石の採掘場で採れる謎の石という扱いとなっていた。


「いいなあ~。お兄ちゃん、私も欲しい!」


 夢愛は火魔法と地魔法に適性はあるが、水と光は使うことができない。それが、この杖を使えば可能なのだ。


「そうだね、考えとくよ」


「ほんと! わ~い」


 可愛い妹の頼みである。幸生が断るはずもなく、また付与魔法の練習にもなるため、あっさりと了承するのであった。


 そして……。


「あの、私もお願いしたいのですが」


「じゃあ、俺も!」


「レーナさんに翔も? ええ、いいですよ、どんな魔法がいいか相談しましょう」


 こうして、幸生の魔法武器工房はフル稼働することとなったのである。

 


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