サカオ町
アユムたちと別れた幸生は、仲間たちと一緒に幻の鉱石探しへ出発した。
宿泊予定であるサカオ町は、ロブソン伯爵領内とはいえ徒歩では三時間ほどかかる。流石に歩いていくには遠すぎで、幸生たちはいつものように馬車を使う。
彼らの乗る馬車は『Sラン』仕様で、一般的なものとは違い振動防止にゴム製のタイヤとサスペンションが標準装備。素材もアルミニウムを使用しているため軽く、馬への負担も少ない。
更にはゴーレム馬車――模型の馬――の動力源は夢愛が召喚した下級精霊たちであるため、難なく走ることができた。
街道は多くの人や馬、馬車などが通ることで、地面はかなり凸凹になっていた。
普通の馬車なら振動が酷く、歩くより少し速い位のスピードしか出せないが、彼らの馬車はかなり速く走らせることができたのだ。
町へ向かう道中、索敵のため呼び出したシンノスケに御者を任せた幸生は、馬車に乗る仲間たちに話かけた。彼には思うところがあり、ここでハッキリ示しておこうと考えたのだ。
「みんな聞いてくれ! 今から向かうサカオ町の人たちは、僕たちのことをよく知らないはずだから、ここからはEランク冒険者パーティ『時の絆』として行動しようと思う。みんなもそのつもりでいてくれ」
すでに幸生たちは、ジョワラルムでかなり有名になっていた。というのも、いきなり盗賊たちを捕まえたことで、噂が広まってしまったのである。
彼らの世話になるリョウイチ・イヌヤマ子爵は住民たちにも人気が高く、その甥とされる彼らも注目されていたのだ
そんな彼らが住民たちと気さくに会話をし接することで、更なる評判となっていたのである。
「幸生様、私もメイド服でない方がよろしいのでしょうか?」
ふと、自身の服装に視線を移した唯が、幸生にそう尋ねる。
メイド服といえば貴族。そのため、身バレになると思ったのだ。
とはいえ、彼女のメイド服には高度な魔法付与が施されており、これ以上に優れた装備は無いのである。
「君のメイド服は最強装備だからね。万が一のことを考えると、そのままがいいかな」
「でも、それでは……」
「そうだね。でも、貴族で冒険者をしている人たちも大勢いるはずだから、大丈夫なんじゃないかな!」
「ですが……」
幸生からそう説明されても、メイド服が致命的であることに違いは無い。そこがどうしても気になる唯に、レーナが助け舟を出した。
「唯、貴族かどうかなんて重要ではないのよ。私たちの心構えが問題なの。そうよね、幸生さん!」
「そういうこと。今までレーナさんには僕たちの護衛という形をとってもらっていたんだけど、これからはパーティの一員として活動するべきだと思うんだ。僕たち五人で時の絆なんだと自覚してほしい」
別に何かが変わるのではなく、仲間としての意識を高めようと彼は言いたかったのだ。
そんな幸生の発言はレーナにとって嬉しいものとなる。ようやく本当の仲間に入れてもらえた、そんな気がしたのだ。
ただ、幸生の話はこれで終わらない。御者をしているシンノスケに視線を向けると、こっそり聞き耳を立てていた彼に話しかけた。
「それで、君はどうするのかな? シンノスケ」
そう振られた彼は、その意味が分からず動揺を見せる。
「せ、拙者は精霊であるから、姫をこの命に代えても守る所存でござる」
「そう……、本当に君はそれでいいの? 僕は仲間だと思っているんだけどね」
「拙者がでござるか………」
幸生はシンノスケも時の絆の一員だと考えていた。彼の正体はともかくとして、常に行動を共にしてきた仲間である。幸生にとっても彼は、なくてはならない存在なのだ。
そして、それは翔も同様だった。
「ああ、俺もそう思うぜ! 一緒に死線をくぐり抜けてきた仲じゃないか。それに、なんかお前、人間臭いんだよな」
「うん、そうだよ! シンちゃんも一緒だよ!」
「ひ、姫……。う、う、う、……」
配下ではなく友。シンノスケは二人の言葉に、泣き出してしまった。
「ほら、だから人間臭いって言ったんだよ。精霊が泣くか、普通……」
そう軽口を叩く翔の瞳も、少し潤んだ様子であった。
人と精霊との結びつきは契約によるもの。
もともと神の眷属である精霊たちはプライドが高く、人との契約も気まぐれだった。しかし、一度契約を結ぶと、解除されるか、もしくは雇い主が死ぬまで忠誠を誓うのである。
その根底にあるのは、契約する精霊たちが『人間を好き』という感情だ。これは主である女神の影響と考えられているが、真実は不明であった。
「幸生殿、よろしく頼むでござる……」
シンノスケはそれだけ言って、前を向いてしまった。
改めて絆を深めた幸生たち『時の絆』は、何事もなくサカオ町の見えるところまでやってきた。朝から多くの冒険者が南に向かっていたので、当たり前である。そんな場所へヒョロっと出てきた魔物は、すぐに討伐されたことであろう。
幸生はハイテク馬車をあまり人に見られたくないため、手前で降りて歩きで町へ向かう。シンノスケは送還せず擬態化し猫の姿になっていた。可愛らしい服を着せられ飼い猫姿で夢愛に抱き上げられた彼は、嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。
正直、ペットを連れ歩く冒険者というのもどうかと思うが、彼らはそれに気が付いていないようだった。
時の絆はギルドカードを門衛にみせ、町の中に入る。
この町はサカオ山の麓にあり、主な産業は鉱山から産出された鉄鉱石を使った製品の製造だ。そのため、この町には鍛冶屋や加工屋など、職人たちが常駐していた。
今は昔と違い領主に管理された鉱山ではあるが、一部の鉱石は町に卸しており、それ目当てで商人や冒険者などが引っ切り無しに訪れる。
昔ながらの技術を踏襲した職人たちによって加工された武具や家庭用金属製品は、王都で高く売れるのだ。そのため、町は今でも賑わいを見せていた。
町の中に入った幸生は、その発展ぶりに目を見張る。彼の記憶にあるこの町は、一軒の宿屋に鍛冶屋と飲み屋が数軒ある程度の小さな町であった。それが多くの商店が軒を連ね、高級そうな宿屋に豪華な店構えの鍛冶屋があり、広場には屋台などが出て賑っている。
人口問題さえなければ、ロブソン伯爵領第二の都市となっていたに違いない。
その町の中央にある大きなお屋敷が、この町の町長が住む邸宅だ。町の規模にも負けず、貴族屋敷かと見紛うばかりの貫禄である。
「すごいね。もっと寂れているかと思ったけど、全然元気だね」
ざっと辺りを見渡した幸生が、そう感想を述べる。
日本でも炭鉱など一時的に賑わっていた場所も、資源開発の終わりとともに廃れていった。勿論仕方のないことではあるけれど、少し寂しいというのが本音である。それが開拓時代を過ぎ、領主が管轄する鉱山となっても、これだけの賑わいを見せているのだ。幸生が驚くのも無理はなかった。
「幸生さん、ギルドは後にして、先に宿をとりましょう。私がよく利用している宿がありますので、そこでいいですか?」
まず先に宿、それはホルンから貰ったアドバイスであるため、幸生も異存はない。
「じゃあ、お願いします」
レーナおすすめの宿となれば断る理由もなく、みんなで彼女の後に付いて行くのだった。




