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子供たちの行方②

 アユムはコウタと、ケイタはミツヒサとマルクの2人と同じタイミングで、この世界に来ていた。

 そんな彼らと同じように、カオリにも一緒に来た仲間がいる。


「私は理沙(リサ)と一緒だったわ。でも、あの子はノブヤス・タニガワ伯爵の娘だからね。幸生様が心配なさらなくても、元気で暮らしているはずよ」


 そうは言ってはいるものの、なぜか彼女の表情は暗い。


 子供将棋倶楽部ではカオリが8歳、リサが6歳という設定だった。2歳年上のお姉さんであるカオリは、いつも彼女のことを気にかけていたようだ。そして、それは『Sラン』に移ってからも変わらず、運営スタッフに彼女の様子を尋ねていたのだ。


「ノブヤスさんって、とっても彼女を大切にしているらしいの。だから、大丈夫!」


 気丈に振る舞う彼女だが、あくまでもそれは十年以上も前の話である。


 宿屋の娘であったカオリが冒険者をしているように、リサも成長し大人になっているはずだ。

 伯爵家の娘となれば、すでに結婚していてもおかしくないが、貴族同士の政略結婚が当たり前の世界なのだから、良い相手に巡り会えていればいいが、そうでなければ酷い結婚生活を送っている可能性もあるのだ。

 しかし、日本では未成年で結婚適齢期にも程遠い幸生に、その発想はなかった。

 心配そうなカオリと違い、彼は記憶にあるリサを思い出し相好を崩していたのだ。


「そっか~、彼女もこっちに来てるんだね。カオリと一緒ってことは、今の彼女は20歳(ハタチ)くらいかな? 可愛くなっているんだろうなぁ」


 彼が思い出しているリサは子供将棋倶楽部時代の彼女ではなく、ノブヤス・タニガワ伯爵の娘としての彼女だ。艶のある長い黒髪に黒い瞳で、笑窪の似合う可愛らしい少女だった。彼がタニガワ伯爵家を訪れた際には、いつも満面の笑みで出迎えてくれていたのだ。


 そんな彼女の成長した姿を想像し、幸生がニヤけた笑みを浮かべていると、今度こそと言わんばかりに夢愛が食いついてきた。


「あれ~ 幸生お兄ちゃん、どうしたのかな~。お顔が変だよ~」


「な、何言ってんだ。ぼ、僕は別に……」


 激しく動揺する兄を見て、夢愛はしたり顔だ! さらに追及しようと悪戯っぽい笑みを浮かべ口を開く。


「え~、でも、なんか嬉しそうだよ~。

 うふふ、リサちゃんに会えるといいね!」


「ゆ、夢愛! だから違うって……」


 確信を突かれ戸惑いをみせる兄の困った顔が見れて、夢愛は満足そうだ。やっぱり幸生お兄ちゃんだと、嬉しそうに笑うのである。

 

 そして、これが結果的に功を奏す。


 今日の夢愛は朝から愚図っていたように、少し機嫌が悪い。というのも、彼女は少しホームシックにかかっていた。

 まだ12歳の少女である彼女は、優しい父や母、可愛がってくれる使用人たちや仲のいい友人たち、みんなと会えない寂しさから少し落ち込んでいた。

 信頼する2人の兄は一緒にいても、それを埋めるまでにはいかなかったのである。


 朝、ケーキを食べに『喫茶ヤマガール』へ行ったことで少し元気になってはいたが、それは一時的なものに過ぎない。


「アハハハハッ! もう、お兄ちゃんたら、お顔真っ赤だよ! リサちゃん可愛いもんね」


 挙動不審となった兄の様子を思いっきり笑った夢愛は、持ち前の明るさを取り戻していた。




「あっ! お兄ちゃん、レーナさんが来たよ」


 精神的にも余裕のでてきた夢愛は、門の方から歩いてくるレーナを見つけて大きく手を振った。すると、レーナも同じように手を振り応えてくれる。

 そうして、そのまま幸生のもとまで来た彼女は、申し訳なさそうに頭を下げた。


「幸生さん、遅くなってしまい、申し訳ありません。オルトに伝えてきましたので、使用人たちにも伝わると思います。ただ、メイドたちは不満そうでしたけど……」


 遅くなったといっても、一旦屋敷に戻ったのだから仕方がない。それを幸生が咎めるはずもなく、労いの言葉を述べた。


「お疲れ様、レーナさん。まあ、彼女たちは夢愛を愛でたいだけだからね、たまにはいいんじゃないかな……」


 メイド三人衆の野望はお嬢様を愛でることであり、幸生たちにはあまり近づいてこなかった。そのため、唯が彼らの世話係となっているのだが、メイドとしては如何なものかと思う。とはいえ、この屋敷にはお嬢様がいないわけで、その野望を叶えるために、夢愛は打ってつけの存在だ。まだ幼さ残る少女であり、彼女たちのターゲットとなるのも、無理は無かった。


 そんな彼女たちの不満そうな様子を伝えられると、幸生も少し呆れていた。

 ただ、ある意味それはブーメランにもなりかねないため、あまり余計なことは口にしない方針だ。

 サラリと流し、会話を終わらせた。





 レーナは幸生への報告を済ませると、彼のそばで強張った顔をするアユムたちに視線を移す。


 「「「おはようございます、レーナさん」」」


 緊張気味の彼らは揃って挨拶をするが、視線は定まらずキョロキョロと落ち着きがない。

 この世界においては先輩であるはずであったが、どうやらゲーム時代の上下関係は健在なようだ。


「おはよう。……アユムにケイタ、カオリ、三人共こんなところで何をしているのですか?」


「はい、僕たちは今帰ってきたところです。それで、門にいる幸生様を見つけましてご挨拶をと……」


「そうですか、それはよい心がけです。……ですが、我々は今からサカオ鉱山に向かわねばならないので、そろそろ遠慮していただきたいですね」


 普段とは違い厳しい口調で話す彼女は、幸生にも馴染みのない姿だ。とはいえ、それは彼も同じで、仕事であれば厳しい態度をとる必要もある。

 レーナたち初期のメンバーは後輩たちを導く役割も担っていたため、自然とこのような話し方になってしまうのも、無理のないことであった。


「あっ、すみません。ずいぶん長く話し込んでしまったみたいですね。僕たちもギルドに報告しなきゃいけないんで、急がないと……」


 露骨に『しまった』といった表情を浮かべたアユムは、まだ緊張した様子の二人を急かし、カオリとケイタも、これ幸いとすぐに動きだす。


「私たちもう行くね。

 ユキオ様、『幻の鉱石』見つかるといいですね」


 名残惜しそうな様子のカオリは、幸生に向けてニッコリとほほ笑んだ。


「ありがとう、見つかったら報告するよ!」


 そうして彼らは現れた時と同じように、慌ただしくこの場を去っていったのである。



 ☆ ☆ ☆



 幸生と別れた後、アユムたち三人はギルドに向かわず宿屋に戻っていった。

 すでに長期宿泊の契約を済ませているため、一旦それぞれの部屋へ向かい、すぐにアユムの部屋へ集まった。


「でもアユム、あんな感じで良かったの?」


「ああ、十分だよ! 第一目標との接触は成功したしね。あの感じだと、幸生様に僕たちやリサを印象付けることも、うまくいったんじゃないかな」


「でも……、ミツヒサやマルクの情報は、いらなかったと思うぜ」


「そうかもね。でも、彼らは領主様だから、レーナから情報が入るんじゃないかな。だったら、こちらから伝えた方が印象的にいいと思わない?」


「あっ! そういうことか」


 そんな彼らの会話から、幸生と出会ったのは偶然でなく、計画的に実行された出会いだったことがわかる。


「じゃあ、この後はどうするの?」


「幸生様が、玉樹(たまき)や龍之介、それに(あおい)の情報を持っているか確認しないとね。もしかしたら、すでに接触しているんじゃないかな」


 アユムたちは子供将棋倶楽部の仲間たちの内、六人までの確認を取れているが、残る三人はいくら探しても見つけられなかった。

 そのため、彼らを探す手がかりを、幸生に求めようとしたのである。


「でもよ、あの様子じゃ何も知らんだろう」


「そうかな? 僕は知っているとみてるんだけどね」


「どうして?」


「何て言ったらいいかな……。まず、龍之介は夢愛を『姫』なんて呼んで、心酔していたでしょう。それに、葵は加奈の妹って設定だったよね。僕の予想では、2人ともあちらの陣営についているんじゃないかなって考えているんだ」


 あくまでも予想であるがと前置きしたうえでそう話したところ、二人にも心当たりがあるらしく納得した様子だ。


「じゃあ、玉樹は?」


「彼だけはよくわからないんだよね。こっちに来ていない可能性も考えているよ」


「そうかぁ……。あいつは俺たちのリーダーだからな。できたら、こっちに付いて欲しいんだけど……」


「まあ、最悪二人は、こっちに引き込みたいと考えているよ。……でも難しいかな。 何よりもまずは、確認だね!」


 アユムは、そういって笑っていた。

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