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Cランク特典

 次の日、幸生は弟の(カケル)と妹の夢愛、それにメイドの唯、さらに護衛役のレーナを連れ、冒険者ギルドを訪れた。

 ギルドが込み合う早朝を避けたため、残っている冒険者の数は少ない。とはいえ、この場にいる彼らの視線は、幸生たち――特に夢愛――にくぎ付けとなっていた。

 レーナがイヌヤマ子爵家と専属護衛契約を結んでいることは有名で、そんな彼女が護衛している少女こそが子爵家の御令嬢なのではと、勘違いされたのである。


「へえ~、あれがイヌヤマ子爵様の御令嬢か、初めて見たよ! かわいいなぁ」


「レーナは、あんな可愛い子の護衛をしてるんだ、羨ましい……」

 

 20代前半と思われるプレートメイルを装着した男が小声で話すと、同じくらいの年齢と思われる黒いローブを身に付けた女性が、小声で返事をする。

 

 2人はレーナと知り合いらしく、可愛らしい少女と楽し気に話をする彼女を羨ましく思っていた。

 貴族の護衛など疲れるだけで、できたら受けたくないと思っているが、あんな可愛い子の護衛なら別だ。そう考えているのである。


 他にも、20代後半と思われる軽装の男は激しく勘違いしているらしく、レーナに深く同情していた。


「騎士様に、魔術師様、それにメイドまで……。ひえ~、レーナも大変だな~」


 もともと、リョウイチ・イヌヤマ子爵が娘を溺愛しているらしい、という噂はあった。

 ただ、娘のリンはジョワラルムにいることが滅多にないので、彼女の顔を知る者は少ない。そのため、この場にいる冒険者たちはレーナが護衛している少女を、子爵家の御令嬢だと思っているのだ。


 とはいえ、小声で話す彼らの声は、幸生たちに届いていない。だが、その視線には気がついているようだ。翔が冒険者たちにチラッと視線を移すと、みなサッと目を逸らしていた。


「見られてるな!」


 翔は皆の視線の先に気づき、妹の夢愛が見られていると言ったつもりだったが、幸生は見当違いな返事をする。


「まあ、僕たちはどう見たって貴族だからね。メイド姿の唯もいるし、バレるのは仕方ないよ」


 唯の服装はメイド服のままだ。というのも、女神ラルムが夢愛の装備と同じ付与を彼女のメイド服に付けてしまったからである。

 彼女の靴にはスピード補正50%アップ、ワンピースにはスタミナ補正50%アップ、そしてエプロンには魔法攻撃無効が付与されていた。

 そして指にはプロテクトリングがはめられている。これはリングに魔力を流すことで無色透明の盾を前方に展開させるもので、後衛チームである幸生と夢愛の必須アイテムとなっていた。


 同じようにレーナの着る服にも、翔の装備と同じ魔法が付与されている。スニーカーにはスピード補正50%アップ、チノパンはスタミナ補正50%アップ、ジージャンは物理耐性70パーセントカットとなっていた。ちなみに幸生の白衣は魔法耐性70%カットである。




 幸生は周りの様子を気にせず、レーナへ受付の案内を頼んだ。

 受付は三箇所あり初心者用、中位ランク用、上位ランク用と分かれており、彼らが向かうべきは初心者用の受付だ。


「メイベルさん、彼らの登録をお願いします」


 受付嬢たちも彼らのことは気になっていたらしく、どんな要件なのかと思っていたら、まさかの冒険者登録である。

 初心者の受付を担当する受付嬢のメイベルは「えっ……」と、驚いた様子で視線を夢愛に移し、宜しくない対応をしてしまう。


「わ、わかりました。えっと、登録可能な年齢は12歳からですが、そちらのお嬢さまはおいくつでしょうか?」

 

 案内役がレーナである以上、年齢が達していないということはあり得ない。しかし、彼女はそんなことにも気づけなかった。


「12歳だよ」


 夢愛は見た目が幼く、年の頃も8歳から9歳ほどの少女のような姿だ。そのため、彼女の年齢が12歳というのは、とても信じられない様子である。

 とはいえ、相手が貴族であることは明白なのに、この対応はまずい。同僚である隣の中位ランクの受付嬢も、彼女の対応をハラハラした様子で見守っていた。


 メイベルは夢愛の年齢が気になりつつも、石板に魔力を通せばわかることなので、そのままスルーすることに決めたようだ。

 カウンターのテーブルに、手のひらがすっぽりと収まるサイズの黒い石板を取り出すと、彼らに案内を始める。


「では、ギルドカードをお持ちでしたら、お出しください。お持ちで無いようでしたら登録をいたしますので、こちらの石板に触れ魔力を流してください」


 その説明に幸生は定番だなと思いつつも、素直に応じた。受付嬢の態度がおかしいことは気にならないようで、石板の仕組みに興味を示していた。

 そして唯はギルドカードを持っているので、メイベルに渡す。


 幸生、翔、夢愛は石板に手を置き、順番に魔力を流してみる。すでに子爵家で魔石に魔力を流していたので、問題ない。


「えっと、こうか?」


 幸生が魔力を流すと、石板はぼんやりと光る。続けて翔と夢愛も同じように魔力を流したが、石板は幸生の時と同じようにぼんやりと光るだけだった。特に変化はないので、そういうものなんだろうと幸生は思っていたが、翔はなぜか残念そうにしている。


「チェッ、俺だけ激しく輝いて、おおこれは! なんて、ないよなあ……」

 

 勿論、登録するための手続きなので、そんな機能はない。魔力には個人差があり、指紋認証と同じ効果があるだけだ。この時、名前や年齢などの個人情報も読み取られ、ギルドカードに記載される。


「ユイさんはメイドギルドに所属しているようですが、冒険者ギルドに変更ということでよろしいですね」

 

 メイベルが口頭で確認をとると、唯は頷いた。だが、ここでもまた問題が発生する。

 実はメイドランクCの唯がギルドを変更する場合、ギルドマスターに報告しなければならないのだ。

 これに気づけなかったばっかりに、この後、大問題へと発展することになる。


「では、ギルドカードが出来上がるまでの間、簡単な説明をさせていただきます。 

 初めて冒険者登録された方が受けられる依頼は、薬草採取のみです。これが無事達成されましたら、それ以降はランクに合った依頼を自由に受けていただいてかまいません。

 冒険者のランクはFから始まりE、D、C、B、A、Sという順に上がっていきます。依頼は自身のランクの1つ上まで受けることが出来ますが、依頼失敗となりますと、ペナルティが発生することもございます。ただし、ランクを上げるためには、1つ上のランクの依頼を複数回受ける必要がございます。失敗を数回しますとギルド登録抹消の場合もありますので、ご注意ください。 以上です」


 特に気になるようなこともなかったので、幸生は「わかった」と頷いておく。そもそも分からないことはレーナに聞けば済むので問題ない。

 ただ、幸生は唯のことで伝えるべきか悩んでいることがあったが、迷っているうちにギルドカードは完成してしまったようだ。





「お待たせいたしました。ギルドカードが出来ましたので、お渡しします」


 メイベルは幸生、翔、夢愛と順にギルドカードを渡していく。

 ギルドカードはパスポートほどの大きさで名前と年齢、ギルドランク、そして所属するギルドが書かれていた。


「へえ~、こんな感じなんだ。材質は何だろう?」


 紙でもなく、金属でもない不思議な素材。異世界特有の謎素材なんだろうなと、幸生は納得した様子だ。


 そして、同じように唯へギルドカードを渡そうと内容を確認したメイベルが、目を丸くする。


「あれえぇぇ、ユイさんのカード、所属が2つになっています。おかしいなあ」


 彼女は驚きのあまり大きな声をだしてしまった。そんな大失敗に、上位ランクの受付嬢は慌てた様子だ。


「ダメでしょう、そんな大切なことを大声で話して‼」


「でも、ホルンさん! 所属のギルドが2つになってるんですよ。もう、どうしたらいいか……」


 メイベルが驚くのも無理はない。というのも、唯のギルドカードには冒険者ギルドとメイドギルドの両方が記入されていたのだ。今まで2つのギルドへ登録できたという例はなく、登録できるギルドは1か所のみだと思われていた。


「不思議ねえ……」


 うっかり我を忘れて、頷くホルン。彼女にとってもこれは初めての出来事なのである。


 とはいえ、それは幸生の想像通りであった。

 昨日、唯に所有スキルの確認をしたところ、祝福(ギフト)を授かっていることがわかったのだ。そのギフト名は【ダブルワーク】といい、Cランク特典として与えられたらしい。内容は2つの職業を同時に選択できるというもので、レアなのは間違いない。

 ただ、ギフトでその名はどうなのかと、思わなくもないが……。


 幸生はこの話を先にするべきか悩んでいたのだが、まだこの世界にきて間もないため、このギフトがどれだけ特別なものなのか図りかねていたのである。

 だが、当事者である唯は、この騒ぎに余り関心がないようで、周りをキョロキョロと見回している。

 時折、なにか考えるように顎に手を当てると、また周りを見るのだった。



 

 メイベルの声が大きいため、周りの冒険者達にも事情は筒抜けだ。


「おい、ギルドの登録って、掛け持ちできるのか?」


「いや、そんな話は聞いたことないぞ」


「1つのギルドだけのはずだ!」


 彼らの話声を聞いたホルンは『これはまずい!』と、焦っていた。 

 ギルドでは他人の能力を詮索することが禁止されている。当然、特殊な能力などが知られてしまえば、狙われる危険性もあり、結果的にそれが死につながるかもしれない。

 メイベルの行為は謝って済むような問題ではなく、また、幸生たちが貴族である以上、犯罪者にされても文句は言えないのだ。

 まあ、彼がそんなことをするはずがないのだが……。




「ご迷惑をおかけしてすみません。ギルドマスターに話を伺ってきますので、少々お待ちくださいませ」


 申し訳なさそうにホルンは頭を下げ、メイベルの手を取り半ば引きずるようにして奥に入っていった。

 彼女たちの姿が見えなくなったので、唯はそっと幸生に近づき小声で話しかける。


「幸生様、少しお話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 幸生は彼女の様子がおかしいことに気づいていたが、今は取り込んでいるため後にしてもらう。

 

 そうしてホルンだけが、戻ってきた。


「ギルドマスターがお会いになるそうです。皆さん、こちらからどうぞ」


 想像通りの展開に、幸生は参ったなという表情を浮かべていた。できることなら彼女の祝福(ギフト)については、話したくなかったのだ。


 しかし、翔と夢愛はというと、相変わらずである。


「まあ、鉄板だな」


「だよねぇ」


 と、特に気にすることもなく、楽しそうにしていた。


 


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