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女神リナーテ

 神託の間に降臨した女神リナーテは、幸生にチラッと視線を向けるも、動じることなくサレイアと話を続ける。


「お久しぶりね、サレイア」


「は、はい。 リナーテ様」


 リナーテからの言葉に、サレイアはビクッと身体を震わせる。すでに先ほどまでの悪戯っぽさはなく、生真面目そうな雰囲気で畏まった様子だ。


 リナーテの本来の姿は、身長が160センチ、肩までかかる黒髪に、やや丸みを帯びた輪郭と黒い瞳の大きな目が特徴的な、16歳の可愛らしい少女だった。

 しかし、女神となったことで髪は銀色に、瞳の色も青に変わっている。そして白い衣を纏い、神々しい光を放っていた。


 後光を放ちニッコリと微笑む彼女の姿は正しく女神であるが、今のサレイアには恐怖しかない。


「あのう、ラルム様が来られると聞いていましたが、どうかなされたのでしょうか?」


 不安げに尋ねる彼女の様子に、リナーテは優しく答える。


「ラルム様は王都ラルネルムにおります。ですから、こちらは(ワタクシ)が任されましたわ」


 そう話す彼女は嬉しそうだ。そのおかげで幸生と会えるのである。


 しかし、女神ラルムが王都にいるという意味に気づいたサレイアは、驚愕の表情を浮かべる。


「ま、まさか、神託⁉ ……なのですか?」


「あら、よくわかりましたね、その通りよ。 これから忙しくなるから、あなたには頑張ってもらわないとね」


 リナーテは悪戯っぽく告げるが、神託が降りたと気づいたサレイアは、すでに落ち着きを取り戻していた。真剣な顔になり、まっすぐリナーテを見つめている。

 彼女の心の変化に気づき、リナーテはニッコリと笑った。


「焦らなくてもいいのですよ。厄災の時を迎えるまでに色々と準備があります。私の指示に従ってくださいね」


 そう優しく告げるリナーテの言葉に、恐縮しきっていたサレイアの本性が現れる。

 頬を赤く染め、うっとり微笑む彼女から漏れる言葉は、危険な香りがした。


「リ、リナーテ様と2人で……」


 決して2人きりとは言ってないのだが、すでに彼女の頭の中で脳内変換され、都合のいい解釈をされている。もはや、幸生たちのことなど頭にないようだ。

 勝手な妄想をし、もじもじと「あのう、そのう」と繰り返すサレイアの姿は、少し可愛い。


 そんな彼女の様子に、幸生はポンとこぶしを叩く。


「あ、サレイア様はリナーテが好きなんだ」


 いくらニブイ幸生でも、さすがにここまで露骨だとわかるようだ。

 しかし、そんな彼とは違い、恍惚の表情を浮かべ如何わしい妄想を始めたと思われるサレイアに、翔と夢愛は呆れていた。


「変態さんです」


「そうだな。間違いなく変態だ!」


 二人の中で、残念さん認定された瞬間であった。


 とはいえ、面倒な相手を排除できたリナーテは、チャンスとばかりに幸生たちへ視線を向ける。彼女の面倒さを十分理解したうえでの、作戦だったのだろう。

 

「今のうちですね。幸生、翔、夢愛、あなたたちの能力を開放します。まずは場所を変えましょう」


 そう言うと、幸生たちの視界が一瞬で真っ白になった。軽い浮遊感のあと、視界が回復する。


「「「ここは⁉」」」


 昨日と同じ真っ白な世界。もちろんこの場所に、サレイアの姿はない。


「ここは私の作り出した隔離空間よ。ここなら誰にも邪魔されないわ。

 お久ぶりです、幸生様! 会いたかったわ!」


 先ほどまで放っていた神々しい光を消し、艶やかな黒髪と黒い瞳に戻ったリナーテが幸生の背中に飛び乗る。


「リナーテ、何を……」


「幸生様成分の補充よ! 全然足りないの」

 

 そう言いながら幸生の背中に顔を埋め、頬ずりする姿は、まだ幼い少女といった風だ。

 リナーテにしても人の姿で幸生と会うのは、初めてなのである。


 翔と夢愛も、彼女の急な変貌ぶりに驚き、目をパチクリさせるが、すぐに事情を察したのか「しょうがないな」と温かい目で見守っていた。


「レーナばっかりずるいです! 私もこっち側がよかったわ!」


 ちょっと拗ねたように幸生に甘えるリナーテに、女神としての威厳はない。唯々、お兄ちゃんに甘えたいだけの少女なのだ。

 

「そうだ! レーナに女神を譲りましょう。代わりに、私が幸生様と一緒に冒険するわ!」


 いかにも、いいことを思いついたかのように微笑む彼女の姿に、幸生は苦笑する。


「もう……、それが無理だってことは、わかってるくせに」


 幸生にとっても彼女は特別な存在だ。彼が8歳のころからずっと一緒にいたかけがえのない存在、それがリナーテなのだ。

 女神となっているにも拘らず、人の姿をし、以前と変わらぬ軽口を叩き甘えてくる。そんな夢のような出来事に、何とも言えない気分を味わっていた。

 とはいえ、その楽しい時間(とき)にも終わりが近づいていた。


「ああ、スッキリ! ようやく念願が叶いましたわ! たっぷりと幸生様を満喫したから、もう満足です」

 

 自身に言い聞かせるようにそういったリナーテは、幸生の背から降り、大きく背伸びをした。

 もちろん本心では、ずっとこうしていたいはず。しかし、自分は女神なのだからと、心を奮い立たせたのである。


「幸生様、ありがとうございます。もう、私の仕事に戻りますね」


 満足そうな笑顔を見せ、幸生と見つめ合った後、リナーテは深々とお辞儀をした。


「リナーテ……」


 幸生には、これが最後なんだとハッキリわかる。だが、彼にできることなど何もない。


 彼女が顔を上げた時には、髪は銀色、瞳も青色に戻っていた。

 再び女神の姿となったリナーテはフワリと空中に浮かび、女神リナーテとして彼らに話しかける。


「幸生、翔、夢愛、私の前に立ちなさい」


 急な彼女の変化に幸生は戸惑い、寂しげな表情を浮かべる。さっきまであんな……。そう思いはするが、わかっていたことだ。


(使命を全うする。それが彼女のためだ)


 厳しい顔をする兄の横に弟と妹が並ぶ。2人とも真剣な表情でリナーテを見つめていた。

 その様子を見届けたリナーテは優しく微笑むと、左手を彼らの頭上にかざした。

 彼女の左手から淡い光が発せられ幸生たちの体を包み込む。そしてその光が赤、青、緑、黄色、白、桃色と変化し、最後には混ざり合って大きく弾けた。

 リナーテは軽くフウと息を吐くと、説明を始めた。


「あなたたちの能力は解放されました。これで『Sラン』の時と同じような力が発揮できるでしょう。ただし、いくつか変更があります。

 まずこの世界にはレベルというものがありません。個人の力は日々の努力によって上昇するべきだと思います。ただその代わりに、ランク制を設けました。Fランクから始まりE、D、C、B、A、Sと1つ上がるごとに、何かしら恩恵を受けることが出来ます。内容を教えることはできませんので、ランクを上げ確認してください。

 次に魔法とスキルです。レベルがなくなったことで自動で覚える強力な魔法やスキルはありません。ですが、これらはイメージで好きなように作り出すことが出来ます。他にもランクアップで魔法やスキルを覚えることはあります。

 最後に、蘇生魔法は存在しません。使命とは言え、決して無理はなさらぬようにお願いします。この世界はゲームではありません。命は大事にしてください。

 以上です。ここまでで、何か質問などありますか?」


 このような時、翔と夢愛はすべてを兄に任せ、何も言うつもりはない。特に今回は相手がリナーテということもあり、空気を読んでいた。


 そして幸生は、すでに頭の切り替えが済んだようで、真剣に考える。


「魔法がイメージで作られるのなら、Fランクでも『氷塊(アイスメテオ)』などの強力な魔法が放てるってことですよね」


「その通りです。ただし、ランクによって威力に差が出ます。AランクとFランクでは全く違ったものになるでしょう」


「では、呪文の詠唱なんかは関係ないのでしょうか?」


「そうですね、同系統の魔法でも詠唱の種類によって、威力は異なります。そのあたりは色々試してみてください」


 幸生は何となくわかったという感じで頷いた。彼は以前にリナーテとそのような会話をしたことがあったのだ。

 メインコンピュータだった彼女は、ネット上から様々な情報を調べることが出来る。そのため、ゲームシステムを考える際、色々意見を出し合っていたのだ。

 彼女が何も言わないということは、その時の会話を参考にしたのだろう。


 これ以上質問がないと判断したリナーテは、彼らを助けるために用意したものを渡すことにした。


「では、皆さんに私からプレゼントです。喜んでもらえたらいいのですが……」


 勿体ぶったその言葉に、翔と夢愛は「「ええー、くれるの?」」と反応し、嬉しそうな笑顔を見せる。

 幸生もまだちょっと厳しいかもと思っていたので、期待を込めて彼女を見つめた。


「幸生、あなたには魔法付与スキルと魔力回路作成スキルを授けました。まだランクFですが、あなたの能力に期待します」


 魔法付与は、魔法付与師ギルドのDランクになって覚えることが出来るスキルだ。

 普通であれば、それだけで数年かかることもあるため、かなりお得と言える。

 とはいえ、色々と制約があるため、使いこなすには難しいスキルともいえるだろう。まあ、幸生であれば問題ないが……。

 早速、魔法付与に関して頭を巡らせ、イメージを膨らませていた。


「次に翔」


「はひ⁉」


 期待のあまり緊張したのか、うわずった声をあげる翔。兄の様子から、期待が先走っている感じだ。

 そんな彼をみてクスッと笑ったリナーテは、何処からともなく大剣を取り出した。


「翔にはこの剣、聖剣ジョワグラムを与えましょう。使いこなすには技術が必要ですが、あなたなら大丈夫でしょう」


 聖剣というだけあって、かなり大きな剣なのだが、彼女は軽々と持ち上げ翔の前に差し出した。


「聖剣……、マジでオレに……」


 そう、聖剣授与と言えば、神話で聞くような出来事だ。それを自分が与えられた。その事実に驚嘆する。

 だが、すぐに冷静さを取り戻すと、恭しく頭を下げた。


「謹んでお受けします」


 儀礼に則り、恭しく頭を下げた翔は、丁重に聖剣ジョワグラムを受け取った。

 しかし、手に持ったその剣の軽さに、目を見張る。


「なんだこれ、めちゃくちゃ軽い。大剣なのに片手で扱えそうだ!」


 見た目の重量感に対し、剣自体は羽が生えたかのように軽い。そのギャップに驚く翔であるが、リナーテは彼が落ち着くのを待って、詳細を説明した。


「その聖剣の属性は風です。あなたとは相性がよいはずですよ。それと麗紅を麗光へと進化させておきました。以前より使いやすくなっていることでしょう」


 2本の強力な武器を手に入れた翔はホクホク顔だ。戻ったら、さっそく聖剣を調べなければと息巻いている。


 そして、次は夢愛の番。緊張していた兄と違い、彼女は落ち着いた様子だ。女神となった彼女を見て驚きはしたが、常に夢愛は平常運転なのである。

 しかし、次のリナーテの言葉が彼女を不安にさせる。


「夢愛、あなたには伝えなければならないことがあります」


 そう伝えるリナーテの表情は、やや苦悶に満ちていた。


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