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とある貴族屋敷の一室に

 とある貴族屋敷の一室に、全身をマントで覆い隠し、怪しげなマスクをつけた者たちが集まっていた。皆正体を隠し、どのような人物であるか伺い知ることはできない。

 その中で、姿を露わにしている者も数人見受けられる。

 煌びやかな衣装を身に纏い上座の椅子に座るのは、まだ10代と思わしき黒髪の美少女だ。その美貌は、部屋に居るものたちの視線を無意識に惹きつける。

 そんな彼女の両脇には、赤い髪と桃色髪の少女たちが控えていた。

 どうやら、この2人は双子らしく、可愛らしい容姿がよく似ている。

 

「「リサお姉さま、全員揃ったみたい」」


「ごくろう。ではレミ、お父様の事は頼みましたよ」


「はい、お任せください」


 黒髪の女性はリサといい、赤い髪の少女はレミと呼ばれていた。3人は姉妹らしく、レミは姉の前でお辞儀をすると、そのまま部屋を出ていった。


 残った桃色髪の少女はリサのやや左斜め前方に立ち、この部屋に集まる者たちに声をかける。


「みなさんお静かに! ただいまより会議を始めます。司会は私、マナが務めさせていただきます」


 まだ10代前半くらいの少女と思われるが、慣れたものだ。明らかに年上と思われる者たちの中で、堂々と司会を務めていた。


「では、みなさん近況報告をお願いします」


「まずは俺からだな! 目ぼしい冒険者はだいたい始末したぜ! 残ったのは我々に挑んでこなかった臆病もんだ。 問題ないだろうぜ!」


「我が軍も同様です。今は静観といった様子でしょうね。特に問題は無いと思われます」


「私の所は張り合いがなさ過ぎて、退屈でしたわ。冒険者ってあんなものですの? 相手になりませんわ」


 マスクにマントという(いで)で立ちのため顔こそ分からないが、シルエットから背の高い筋骨隆々の男性。続いてやや細身ながらもスラリと伸びた背、返事の仕方からみて身分の高いであろう男性。最後の女性は口ぶりから貴族のご令嬢だと思われる。


「領軍が出てきているタンジェ方面はどうですか?」


「ガアハハハッ! 領軍などゴミだな! 冒険者の方がよほど手ごわいわ!」


 質問に答えた大柄な男は、豪快に笑う。

 会話の内容から魔王軍幹部の集まりだと推測できるが、姿を隠しているとはいえ、よくある怪物のようなシルエットはただ1人としておらず、全員が人の姿をしていた。


「では、他の皆さんも同様ということでよろしいですか?」


「「「はい!」」」


 どうやら、残りのメンバーも問題はないらしい。


 マナは姉に視線を移し、ニッコリとほほ笑んだ。


「お姉さま、特に問題ないようです」


 いつもと変わらぬ報告会に、ホッと一安心といったところなのであろう。


 話を聞いていたリサも、少し考える素振りをみせたあと、皆にこう伝える。


「みなのもの、ご苦労であった。話を聞く限り順調なようだ。そろそろ次の段階に進もうと思う。異論はないな。 

 では、これから第2段階に移る。みな心してかかるように!」


「「「「「「「「ハハ―――――――ッ!」」」」」」」」


 深々と頭を下げ、それぞれが部屋をあとにする。


 幹部たち全員が退出し、残るはリサとマナ、2人だけとなった。


「お姉さま、どうかなさいましたか?」


 不安げな顔をのぞかせる姉を心配し、マナは甘えたように彼女の背に抱き着いた。


「フフフ、心配いらないよ。ただ、王軍がどう動くかと思ってね」


「お姉さま、王軍なんて敵ではありませんわ。私にお任せください。蹴散らしてやりますわ」


 マナの威勢のいい返事に困惑したリサは、そんな必要はないと諭す。そして……。


「マナはレミと一緒にお父様の話相手になっておやり。まだ、壊れてもらっては困るからね」


 タニガワ伯爵領の当主、ノブヤス・タニガワ伯爵は身体を壊し、臥せっていった。そのため、リサが当主代行として政務を行う一方、マナとレミが父のそばに付いていたのである。


「では、お姉さまが行くの?」


「いや、後の事は奴らに任せるよ。私はあの方がお住まいになる屋敷を手配せねばならないからね」


「そうでした。……では、私はレミの所に行ってきます」


 安心しパッと顔を綻ばせたマナは、名残惜しそうに姉の手を放し部屋を出ていった。


 彼女が部屋から退出すると、リサの雰囲気がガラリと変わる。


「フフフ、もう少しですわね。早くお会いしたいものですわ! ユキオ様」


 潤んだ瞳でそう呟くのだった。




____________________________




 王都ラルネルム王城の玉座に座るのはキュリオス・ロア・ラルドネルト現国王だ。40歳の初老を迎えてはいるが、まだまだ衰え知らずで現役さながらの肉体を維持している。

 若い頃は王子の身でありながら騎士団に所属し、数々の武勇を誇ってきた。しかし、前国王が早世したことで、しぶしぶ国王の座についたのである。

 それから15年、彼は立派な王になっていた。


 現在、キュリオスの前には多くの貴族たちが集まり、魔王軍への対応を協議していた。


「では、戦うなと申せられるか」


 彼は王国騎士団を率いるルーフス・ブランコ伯爵だ。伯爵と言っても領地持ちというわけではなく宮中泊のため、それほど身分は高くない。まだ25歳と若く血気盛んな年ごろで、恐れ知らずなタイプである。


「魔王に媚び(ヘツラ)えとおっしゃるのですな」


「そうは言っておらぬ、ビエタ卿。まだ、早いと申しておるのだ。Sランクの勇者も誕生しておらぬしな。神託を無視するわけにもいくまい」


「しかし、しかしですな、シュテル卿。事が起きてからでは遅いのですぞ」


 守備を固め兵を育てるべきと主張するマリク・シュテル侯爵と、何とか状況を打破したいジョルジ・ビエタ伯爵。武闘派で知られるビエタ伯爵は、来たるべき厄災がいつを指すのかわからないため焦っていた。


「奴らは徐々にだが、行動範囲を広げつつある。今叩かねば、いずれ滅ぼされる街もでてこよう」


 そういうのはオーウェン・ロア・ラルドネルト公爵だ。彼は国王キュリオスの弟で、兄とは違い穏健派に属している。現状において多くの民の血が流れることを憂いていた。


「私は戦いませぬぞ! とてもじゃないが、そんな戦力は所持しておらぬゆえ! 守るだけで精一杯なのでな」


「そもそも神託は『この地を守れ』であって、うち滅ぼせとは言ってはおらぬではないか」


 公爵の意見に異を唱えたのはカネダ卿とロベル卿だ。彼らは特に大きな被害を受けているというわけではないが、戦いには批判的だった。


 魔王軍の脅威は日に日に増していた。至る所で高位ランクに属する魔物が発生し、被害を広げているのだ。

 魔物たちは魔王軍に属しているわけではないが、間違いなく影響を受けている。というのも、その発生方法が不自然なのだ。

 高ランクの魔物は自然発生しない。それが、この世界における真実なのである。

 自らなのか、それとも人為的なのか。だが、発生件数の多さを考えれば、人為的と考えて間違いないだろう。

 冒険者の速やかな対応で難を逃れてはいるが、新たな魔物が現れるたびに人々は不安を募らせているのである。



 

 

「カウラス、そなたはどのように考える」


 今まで発言のなかった国王がロブソン伯爵を名前で呼び、親しげに話しかけた。

 カウラス・ロブソン伯爵が治める街ジョワラルム一帯は女神の聖地と言われている土地で、伯爵位という身分にも関わらず、その信頼は厚い。

 しかし、魔王軍から最も大きな被害を受けている地であり、深刻な戦力不足に悩まされていた。そのため、人材の育成が急務となっている。


「おそれながら申し上げます。この度、私の配下とさせていただいたイヌヤマ子爵ですが、近いうちに妹家族がこの地へ来るようです。その時にラルム様から話があるのではと、申しておりました」


「では、それまでは猶予があるというのだな」


「そのように考えております」


「わかった。そなたの意見を採用しよう。

 みなのもの、領地へ戻り、騎士たちの育成に努めるのだ。まずは早急にSランク騎士を誕生させよ」


 国王キュリオスの一言で会議は終了する。

 戦うとなると、被害の大きかったジョワラルムなどの地域は、凌ぎきれないであろう。

 それが分かっているため、もともと戦うという選択肢はないのだ。


 


 ☆☆☆


 会議を終えたあと、廊下の片隅で2人の貴族が密談していた。


「やれやれ、何とか争いを回避できましたな」


「ああ、一時はどうなることかと思ったがな」


「それにしても、リョウイチ・イヌヤマ子爵に妹ですか? そんな話は聞いたことがありませんな」


「なら、そういうことだ。どうやらリサ様に良い報告が出来そうだ!」


「ふふふ、そうですな。ではロベル卿、我々も行きますか」

 

 そういうと、2人の貴族は姿を消した。

 


 

 


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