閑話 Cランク冒険者パーティ 時の絆
今回はテストプレイでのお話です。
本編は、次話から再開します。
2月20日、Cランク冒険者パーティ『時の絆』は、ある討伐依頼を受けた。
パーティメンバーは幸生、翔、夢愛の3人である。『パーティ名の由来は?』と聞かれた幸生は照れくさそうに、こう語ったという。
「僕たちは兄弟だからね。パーティが解散しても兄弟の絆はずっとだろ」
時の絆、それは彼ら兄弟の絆を意味していた。
ここはゲームの世界『冒険者になって、Sランクを目指そう!』内の仮想現実空間だ。ゲーム自体は完成に近づき、今は細かなところを詰める作業をしていた。今回の依頼もテストプレイの一環なのである。
依頼内容はタワイ村近郊に現れたスノーウルフの群れの討伐。依頼難易度はCランク。スノーウルフは単体でDランクなのだが、ウルフ系の魔物は集団で行動することが多く、今回も群れで目撃されている。
本来なら竜嶺山脈の雪原地帯に生息している魔物のはずが、何らかの理由で竜嶺山脈の入口、竜尾山の麓にまで降りてきたと考えられた。
タワイ村は竜尾山の麓にある村で山裾を利用した果樹栽培を生業としている。しかし、スノーウルフが現れたため収穫に行けず困っているという話だ。
この依頼を受けることが出来るのはCランク以上の冒険者パーティで、条件を満たしているのは『時の絆』のみ。スタッフの中にもパーティを組んでテストプレイに参加しているものたちはいるが、その中で最も高いパーティでDランク。あくまでも仕事の合間にプレイしているので仕方がない。
さっそく幸生たち『時の絆』はタワイ村まで転移陣で飛ぶ。
この村はオオエ男爵領に属しており、本来なら冒険者ギルドがある街『ラタシア』で依頼を受けるべきだが、まだ機能していないため、直接タワイ村へ飛ぶことになった。
「幸生様、お待ちしておりました。翔さんも、……夢愛さんも、お変わりなくて何よりです」
幸生たちを出迎えたスタッフが、少しほっこりした表情で夢愛を見ている。というのも、今の彼女は翔のふわふわと動く尻尾を捕まえようと、ピョンピョン飛び跳ねていた。
彼のアバターは秋田犬をベースとした犬耳人族の姿で、そのモフモフの尻尾を妹に捕まえられないように、ふわふわと動かして遊んでいたのだ。
相変わらず緊張感のない2人にうんざりとした幸生は、ほっといてスタッフとの話を進める。
「じゃあ、森の中にスノーウルフが5頭で間違いないですね」
「今のところは、そうですね。 アレはもう少し上の岩場で待機しているはずですから」
「ああ、そうだね。 まあ、アレの相手は弟がすることになってるんだけどね……」
幸生はそういって翔を見るが、なんとも気の抜けた様子になっていた。
「いいかげん離せ、夢愛!」
彼がそう叫ぶのも無理はない。
夢愛は翔の尻尾に飛びつき、ぎゅっとしがみついたため地面に引きずられる格好だ。翔は無理に振り払うわけにもいかず、困ったという表情で兄に助けを求めた。
「ハア……」と深いため息を吐いた幸生は、這いつくばる妹を軽々と持ち上げ、そして抱きかかえると、夢愛は嬉しそうにし、翔の尻尾を離したのであった。
まあ、毎度のことなのだが……。
ひとまず要件を確認した3人は、気軽な様子で山に入っていく。
山裾のあたりは開拓され果樹園になっているため、見通しがいい。ゲームとはいえ果樹園で戦うのは気が引けるため、できれば森の中に入ってから戦いたいと思っていたのだが、期待にそぐわずグレイウルフ3頭が姿をみせた。
普通なら格上の幸生たちに襲い掛かってくるようなことはないが、どういうわけか、今日は果敢にも向かってくる。
とはいえ、たいして強いわけでもないため翔に一蹴された。
「キャイ~ン」
「「「…………」」」
「夢愛、そろそろシンノスケを呼び出してくれ」
「うん、シンちゃんおいで~」
夢愛はそう言うと、手のひらを地面に向ける。地表に魔法陣が浮かび上がり輝きだすと、その中に1匹の猫?が召喚された。
「お呼びでござるか、姫様」
「うん、いつものお願い!」
「索敵でござるな。承知したでござるよ」
シンノスケというのは夢愛の召喚により呼び出されたケットシーだ。
夢愛は召喚魔法使いで、火と地の属性魔法に召喚魔法の適性がある。そして翔は魔法剣士で風魔法に、幸生は火、水、光、治癒魔法と4属性の魔法に適性があり賢者を名乗っていた。
ただ、『時の絆』には索敵魔法を使えるものがいないため、索敵能力のあるシンノスケに頼りっぱなしだ。
「シンノスケ、今日も頼むよ」
「まかせたぞ!」
「おお、これは幸生殿に翔殿。拙者に任せるでござるよ」
胸を張り、そう返事をするシンノスケだが、どこかおかしい。
ケットシーと言えば三銃士や長靴をはいた猫でおなじみ猫の精霊なのだが、なぜかこのケットシーは武士の姿をしているのだ。
まあ、本人が納得しているようなので、問題はないのだが……。
時の絆のメンバーは翔を先頭に夢愛、シンノスケ、幸生の順で山を登っていく。
果樹園を抜けると暫くは緑豊かな森林地帯となっているが、それほど広くはなく、新たに現れたグレイウルフ5頭を狩り、森を抜けた。
スタッフの話では、スノーウルフは森に潜んでいると聞いていた。しかし、どういうわけかまだ接触していない。
この先は頂上までひたすら岩場が続くだけで戦いやすくはあるが、かなり大きめの岩がゴロゴロしていて、スピードの速い奴らの相手をするには不利であろう。
とはいえ、そうも言ってはいられない。
「来たでござるよ。2時の方角、スノーウルフ5頭でござる」
幸生たちの目にもスノーウルフが前に3頭、後ろに2頭と隊列を組み走ってくる姿が見えた。
かなりのスピードだ。シンノスケの索敵範囲は半径500メートルと広めだが、魔物たちはその距離を瞬く間に詰めてきた。
「夢愛、準備はいいか?」
「いいよ~」
「翔は夢愛が魔法を放った後、手前3頭を頼む。後ろは僕が倒す」
「「了解!」」
スノーウルフの攻撃で警戒すべきは【氷の息】だ。
今のところ使う気配をみせていないが、用心するに越したことはない。
「よし、今だ!」
「小石ちゃんたち、お願いね。【石礫】」
夢愛が魔法を放つ。ゴルフボールほどの大きさの石が地面から浮かび上がり、前衛のスノーウルフめがけ飛んでいき命中した。
スノーウルフたちはキャインと鳴き声をあげるが、大したダメージではない。だが、石礫を受けたことで飛来した石に怯み、スピードを落としていた。
そこへ石礫の後を追うように飛び出した翔が、斬り込んでいく。それに合わせるように幸生も魔法を放つ。
「大気中の水よ! 集まり凝固し降りそそげ!【氷塊】」
後ろを走っていた2頭のスノーウルフめがけ、バスケットボールほどの大きさになった氷の塊がいくつか落ちていく。
「「キャフ~ン」」
スノーウルフは2頭とも変な鳴き声をあげ倒れ、魔核石に変わった。
一方、翔は遊んでいるらしく、まだ倒しきれてない。3頭のスノーウルフの攻撃を軽く躱しながら、タイミングを計っているようだ。
「遅いぜ!疾風刃迅連斬 !」
3頭の攻撃がやんだ一瞬のスキをついて、翔がスキルを発動させる。疾風剣に風をまとわせ、一気にスノーウルフを斬り刻んでいく。次の瞬間、一瞬の光とともに魔核石に変わった。
それを見ていたシンノスケが魔核石を集めて回る。
「大量でござる、大量でござる」
そんなシンノスケだが、こんな恰好をしていても戦いは得意でない。そのため、魔核石を集めるのが専ら自分の仕事だと思っているのだ。
「思ったより弱いなあ……」
幸生はスノーウルフを岩場で迎え撃つなど、不利ではないかと考えていた。
しかし、終わってみれば楽勝だ。
(僕たちが強くなり過ぎているのか、それとも……)
そんなことを考えていると、魔核石5個を小さな両手いっぱいに抱えていたシンノスケが不意に立ち止まり、耳をピクピクさせた。
「幸生殿、来たでござる。今度は大物でござるよ」
「おっ、もう来のたか。早いな」
シンノスケの報告に、幸生は少し難しい顔をする。魔物の出現場所が微妙にずれているのだ。
(これはちょっと修正が必要かな)
スノーウルフと同じ場所に、もう一体の大型魔獣。連戦であればまだいいが、同時に現れたら終わりである。
「ふう」とため息を吐いた幸生が前を向くと、大きな岩場の陰からスノータイガーが姿を現した。動物園のホワイトタイガーそっくりの見た目をしているが、大きさは別物だ。
「おお、でけえな。確か体高が2メートル50だっけ?」
「ああ、立ち上がると4メートル近いバケモノだ」
幸生たちが落ち着いていられるのは、設定上すぐには襲ってこないということを知っているからだ。
これはボス戦のため逃げることも可能となっている。すでに依頼を受けたスノーウルフの討伐は完了しているため、ここで戻っても依頼が失敗になることはない。それよりも、新たにスノータイガーが現れたことをギルドに報告するというのも冒険者にとって大事な責務なのだ。
ただし、幸生たちはこのスノータイガーの戦闘能力を測ることを目的としているため、戻る選択肢はない。
「シンノスケ、ご苦労さま。またよろしく頼むよ」
「拙者の出番は終わりでござるか? 残念でござる」
その一言を残しシンノスケは送還された。
「夢愛、まだ魔力は大丈夫そうか?」
「うん、全然平気~」
「なら、エンテイを召喚してくれ」
「じゃあ、呼ぶね。エンちゃ~ん出番だよ~」
夢愛の呼び出しに応え、今度は1頭のサル?が現れた。この猿は猿聖鬼と呼ばれる猿の精霊である。
「お呼びか、姫」
「うん、お兄ちゃんがね」
シンノスケはいかにも武士という姿だったが、エンテイは忍び装束を身に纏っていた。忍者ということだろう。
「やあ、エンテイ。夢愛を守っていてくれるかい?」
「姫の守護か。御意に」
「頼んだよ!」
夢愛の装備は魔法攻撃無効にプロテクションリングと、鉄壁に近い。わざわざ守らなくても被害はないのだが、これはあくまでも演習だ。いろいろなパターンを想定しおこなう必要がある。
「夢愛はエンテイの後ろで、魔法を待機状態にして待っていてくれ」
「オッケー、まかせて」
「兄貴! 俺に任せてくれるんだろ!」
「ああ、最初だけ援護するが後は任せるよ」
兄の出した指示に、ちょっと不安を感じていた翔は、その返事で納得し剣を抜いた。
「よっしゃ‼ いくぜ‼」
「グウオオオォォォオオオ」
スノータイガーは、まるで彼らの準備が整うのを待っていたかのようなタイミングで大きな叫び声をあげる。
次の瞬間、大きな巨体を揺らしながら翔めがけて突撃してきた。
「光よ収束し貫け! 【光の矢】」
まず幸生が先制の光の矢を放つ。スノータイガーはよけもせず、攻撃を喰らうが、効いている様子はない。そこへ翔が飛び込んで斬りつける。
スノータイガーは翔の剣を右手で打ち払い、そのまま右肩を突き出しショルダータックルの形だ。剣を打ち据えられバランスを崩した翔の反応が一瞬遅れるが、横に転がることでタックルを躱す。
すぐさま起き上がり、背を見せるスノータイガーの足元を狙うが、まるで見えていたかにようにジャンプで躱された。
「なんだこいつ。デカいのに、速いじゃねぇか」
「翔、落ち着け! まずは撹乱してみてくれ!」
翔は幸生に軽く手を上げ、またスノータイガーに向かっていく。
「風よ切り裂け!【空刃】」
疾風剣を横に薙ぎ払い空刃を飛ばすと、そのままスノータイガーにめがけて走り出す。
「瞬速! 瞬速! 瞬速!」
スキルを連発し飛び込みながら斬りつけ、離れるを繰り返し、相手の混乱を誘う。
スノータイガーは翔の飛び込みにタイミングを合わせ腕を振ってくるが当たらない。スピードは翔の方が速いようだ。しかし、いくら斬りつけても全くダメージが入らない。
「兄貴、どうするよ? アイツ固すぎる」
「ああ、そうだな……。翔、アレ出せ! しまっといてもしょうがないだろ」
「ちぇっ! わかったよ。……だけど、折れたらまた作ってくれよな!」
翔は疾風剣をストレージにしまい、新たに剣を取り出した。それは日本刀、名を麗紅という業物である。西洋剣は叩き斬るのが主目的なのだが、日本刀は鋭い切れ味で文字通り斬ることに特化した武器だ。
「じゃあ、いってみっか!」
戦闘が再開された。先ほど同様幸生が先制の魔法を放ち、翔が飛び込んでいく。
スノータイガーのスピードにも慣れたため、動きを最小限に抑え連続で斬りつける。
翔の剣がスノータイガーの厚い皮膚を切り裂いた。少しずつだがダメージを与えているようだ。
スノータイガーの主な攻撃は猫パンチ、体当たりや頭突きを織り交ぜてくるため厄介だ。大きな体から繰り出される猫パンチは当たれば強力だが、繰り出されるタイミングが分かりやすい。単調な攻撃のため、かわすのは簡単だ。
翔は繰り出された猫パンチを難なくかわし、強力な一撃を与えようと力強く斬りつける。
しかし、それを読んでいたかのようにスノータイガーが大きくバックステップし、そのまま口を大きく開け【氷の息】の体制に入った。
「ブヲオオオオオォォオオ‼」
スノータイガーの口から猛烈な吹雪が吹き出される。どうやら単調な攻撃を繰り返し、翔の油断を誘ったようだ。
「うわっ、やベえぇぇ‼」
誘いこまれ剣を振りきっている翔の反応が、少し遅れた。
「翔‼」
「もう、【土の壁】」
夢愛が待機していた魔法を発動させる。すると、翔の前に大きな土壁が現れ、吹雪から身を守った。
「わりぃ たすかった!」
今度は逆にブレスを放ったスノータイガーが、その反動でフリーズしていた。
「チャンス! 【秘儀、疾風瞬雷】」
「グガヲオオオオオオオオ」
翔の必殺技が炸裂する。剣に雷をまとわせ、高速で斬りつけたのだ。
雷を帯びた刀に斬られたスノータイガーは、断末魔の叫びをあげ倒れた。そして一瞬だけ光ると、大きな魔核石に変わった。
「ふう、やっと終わった」
「もう、お兄ちゃん! ブレスには注意してって言ったのに!」
「いや~ わりぃ。まだ生まれたての魔物だからって油断しちまった。ありがとな!」
「エンテイもご苦労様。出番がなくて悪かったね。スノータイガーが、翔相手にどこまで戦えるか見たくてね。
次はしっかり働いてもらうから。また頼むよ」
「御意に!」
「またね、エンちゃん!」
みんなで労いの言葉をかけた後、夢愛はエンテイを送還する。
このスノータイガーは、まだ実装されたばかりで実戦経験がない。なので、今回は戦闘訓練も兼ねて戦ってみたというのが本音だ。
実際に登場する時はスノーウルフ2頭を一緒に付ける予定で、今後経験を積んでいけば、もっと強くなるだろうと考えていた。
「どうだった翔。こいつはBランクになる予定なんだが」
「う~ん、どうだろ。まだまだ強くなりそうだぞ。Aマイナスくらいあるんじゃないか?」
「そうか、やっぱ強すぎか。僕もそんな気がしたよ」
翔はCランクの冒険者であるにも拘らず、自分でAマイナスと評価しているスノータイガーを、難なく倒している。それというのも、このゲームにはレベルがあり翔は38、夢愛が35、幸生が33と、かなり高めなのだ。
翔はよく依頼で調査をしているため少しレベルが高く、逆に幸生は仕事で行けないことが多いためレベルが低かった。
ギルドのランクは依頼を受けないと上がらない。その特性のため、彼らはレベルだけが上がりすぎてしまっていたのだ。
「さて、目的も達成したことだし、帰ろっか」
「「さんせい!」」
こうして幸生たち『時の絆』は、依頼を達成し帰還するのだった。




