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見知らぬ世界

初めまして、かわなおと申します。

よろしくお願いします。

 辺り一面を真っ白な霧に覆われた、何もない世界。ここがどんな所であり、どんなものがあるの

か、それさえ窺い知ることのできないこんな場所に、どこから入ってきたのか三人の子供たちの姿が見える。


 年の近い少年二人と少し年の離れた少女が一人。


 不思議なことに彼らの半径二十メートルほどの範囲は、霧もなくはっきりと見渡すことができた。 

 不安そうに辺りを見回す少女と、呆気にとられる少年たち。

 どうやらこの場所に取り残されてしまったらしく、三人とも困惑した様子であった。


 


「ここ何処だ?」


 そう口にする背の高い少年は、山野幸生(やまのゆきお)十七歳。

 彼のことを分かり易く説明すれば、いわゆる天才である。

 常人離れした記憶力と深い理解力を持ち、七歳になる頃までには一般教養の習得を済ませ、学びは専門分野へと進んでいた。

 そして今では自らを研究者と名乗り、理知的な黒縁眼鏡と真っ白なトレンチコートの白衣が特徴的な、実験大好きな少年となっていた。


 そんな幸生の言葉に反応したのは、もう一人の少年だ。


「……知らねえ、まあ、ジョワラルムじゃないことは確かだな」

 

 そう答える少年は、弟の(かける)十六歳。

 彼は兄とはまた違った天才で、運動神経抜群の天才スポーツ少年であった。

 どんな競技でも簡単に習得し、人並み以上に(こな)してしまうため長く続かないことが欠点で、代わりに様々な競技を経験したことで高い身体能力を身に付けている。

 今では剣道をこよなく愛し高段位を目指しているが、年数制限に阻まれ我慢の状態だ。

 実力は十分なので、高校卒業までには昇段確実とみられている。


 ただ、その弟の発言が気に入らないのか、幸生が「そんなわけがあるか!」と突っ込みを入れると、今度は残った少女が口を開いた。


「じゃあ、もしかして……、てんごく~?」

 

 そんなとぼけたことを言ってのける少女は、二人の妹の夢愛(ゆあ)十二歳である。

 彼女は天才肌の兄たちと比べ、少し成長が遅れていた。

 平均よりも背は低く、かわいらしい容姿とその口調もあって、年齢(とし)のわりに幼く見える。

 もうじき中学へあがるとは到底思えず、まだ小学三、四年生と言われても不思議ではないほど小さかった。




 こんな彼らであるが、実は山野グループ社長・山野武生の子供たちだ。

 山野グループは、いくつかの企業が集まるグループ会社で、四菱やYONY(ヨニー)などと並ぶ、日本の最大手企業の一つである。


 待望のフルダイブ型V R(バーチャルリアリティ)システムが完成したことで世界市場は大きく変化した。

 どの業界でも仮想空間の開発競争が激化し、ゲーム業界でも待ちわびたVRシステムの完成とともに、フルダイブ型 VR MMO RPGというジャンルでいくつものゲームが世に送りだされていたのだ。

 もともとVRシステムはゲーム業界から生まれた発想であるだけに、その技術開発は一歩抜けており、革新的な技術力を求め多くの企業がゲーム業界に乱入。

 そのため山野グループでもその事業に参入すべく開発部にゲーム開発課を新設し、その課長職に柔軟な発想ができる幸生が抜擢されたのであった。



 そして現在。

 本日は三月二十日、春休み初日。彼らは、いつものように開発中のゲーム


『冒険者になって、Sランクを目指そう!』


 通称S()()()のテストプレイをするためログインしたのだったが、どういうわけかこのような場所へと隔離されたのであった。



☆ ☆ ☆



 見知らぬ場所へ隔離されたことで、幸生たち三兄弟に不安が過る。


 もちろんふざけていたわけではないが、そうでもしないと落ち着かないのだ。


「なあ、兄貴。夢愛の天国ってのは置いておくとして、いったいここはどこなんだ? 別に死んだってわけじゃないんだろう」


 翔は辺りを見渡しながら、兄にそう尋ねる。

 幸生も同じように周りを見ながら、自分の考えを弟妹たちに伝えた。


「……そうだなぁ、バグ……かもしれないな。全部真っ白って、バグっぽくないか?」


 そう、ゲームにおいてバグは付き物であり、珍しいことではない。辺りの様子からも可能性は高く、そう説明したのだが、今度は夢愛から疑問の声があがる。


「ねぇ、幸生おにいちゃん。ログアウトはできないの?」


 彼女の言うログアウトとは、今いるゲーム内から現実の世界へ戻ることだ。

 ここがバグの中ってことなら、ログアウトすればいいと考えているようだが、幸生は困った様子


「ああ、そう思って、さっきからスマホを開いているんだけど、電源が入らなくてね。画面が出せないんだよ」


 と、言いながらスマホの電源ボタンを何度も押し、全く動作しない画面を二人に見せた。


「ほんとだ、起動しないね」


「ああ、俺のもだ」


 自分のスマホを取り出した夢愛と翔も、その場で確認して納得。


 このゲームの特徴としては、ステータスパネルのような空中に浮かぶ画面を操作するのではなく、全てをゲーム内限定のスマホで行っていた。

 

 幸生であれば制作者権限で外部との連絡も取れたが、そもそもの話、電源が入らないのではどうしようもない。


 だが、それを知ったところで翔は落ち着いたものだ。


「まあ、それなら運営の奴らがなんとかするだろう。俺たちはしばらく待ってようぜ」


 と、どうやら彼はトラブル慣れしているらしく、あまり動揺していないようだが、夢愛は違うらしい。


「ええーーっ、そんなのつまんない。思いっきり魔法を放ったら、ここから抜け出せないかなぁ」


 と、けっこうぶっ飛んだ発想をする。


 それに慌てた幸生は妹を宥め、その危険性を説く。


「ちょっ、今バグじゃないかって話してただろう。もう少し経てば戻れると思うから、一先ず落ち着こう。開発課のスタッフたちも大慌てで復旧作業をしているはずだから、無理に危険なログアウトは避けて待っていような」


「……うん。じゃあ、待ってる」


 ただ、口ではそう言っていても、どこか納得していない様子の夢愛である。

 それがわかる幸生は、また何か言い出さないうちに戻って欲しいと願った。


 けれど、それから1時間ほど経過しても、全く現実世界へ戻る気配はない。

 おまけに翔の姿が、普段と違っていた。


「もう、翔お兄ちゃんがいつもと同じ姿だったら、モフって遊べたのに……」


 そう呟いた夢愛の言葉が、決定的だった。

 

 というのも、翔はゲーム内に置いて、犬耳人族と呼ばれる亜人種のアバターを使用していた。

 これは彼がスピード至上主義という理由から身体能力に優れた亜人種のアバターを選んだからで、幸生と夢愛は運営の用意した普段通りの自分の姿のアバターでプレーしているが……。


「いや、まさかな」


 そう呟いた幸生の予感は的中。


 翔もようやく気づいたのか、「えっ? えっ?」と自分の姿を確認していたが、今更である。


 もし本当にここがゲーム内であったなら、翔はアバターの姿をしていなければならず、それが違うということは、ここが現実の世界であるということを意味していた。


 と、そのタイミングで、彼らの頭に声が響く。


『いやぁ、遅れてすまんかったのう。ちと野暮用があってな』


 それは明らかに聞いたことのない声だ。

 幸生であれば運営に関わる全てのスタッフを覚えているので、聞き間違えることは無いのであるが……。


「えっと、すみません。どちら様ですか?」


 そう尋ねる幸生に、謎の声の女性は驚いた様子。


『おお、そうか。まだ名乗っておらんかったな。わらわは女神ラルム。異世界の女神じゃよ』


「「「えっ!?」」」


 と、それを聞いた彼らも絶句。


 

 どうやら幸生たち三兄弟は、異世界転移を果たしているらしかった。


 





お読みいただき、ありがとうございます。


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執筆の励みとなりますので、よろしくお願いします。

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