part1 追跡(前編)
近鉄上本町駅に到着。バイクがあったのですぐにエンジンをかけて出発する。運転は自分がして、その後ろに有山が座る。あの後コード3は黒のCLクラスのベンツに乗って追跡する。加速はMAXにして精いっぱいハンドルを回しこむ。一気にスピードを上げて府道702号線に乗って爆走する。
後や前にもコード3を追う車がらしき車が走る。なんだなんだと周りの者がこちらを見るが、そんなことは一切気にしていられない。すると何か重力が上にはたらいた様な感覚に襲われた直後、下を見る。宙に浮いている。後ろの車に飛ばされたのだ。
地面に押し付けられ、ハンドルがぐらぐらと揺れたが持ち直す。次は右に大旋回したと思うと倒れこみ、くるんと一回転する。また後ろの車にぶつけられたのだ。右足に激痛が走り、車のフロントガラスに目をやると、コード3の仲間らしき人物が見えた。こいつか。するとこの車が加速しだした。「有山ぁ!避けろ!」そう叫ぶと有山はとっさに避ける。危機一髪何とかなった。その車の中にコード3がいたのを俺は見逃さなかった。車のセンターに乗っかり、キックでフロントガラスを割ろうとする。もちろんなかなか割れない。すると体がぐらっと傾いた。
加速しだしたのだ。「くそったれ!」それでも加速を続ける。カーブに差し掛かった時キキィイイと音がしたと思うと車体が旋回した。ドリフトか。つまり、俺を振り落そうとしているのだ。バックミラーにつかまってバランスを保つ。周りを見ると悲鳴を上げるもの、茫然と見ているものがいた。まったくもうさぁ?
そう思うのも束の間、スピードの高さに気付いて戦慄を覚え、とっさにフロントガラスをたたく。フロントガラスなんてなかなか割れないし、そう簡単に割れたらヤバイのは承知なのだが、いくら何でも強度が高すぎる。まぁ、CSクラスのベンツなんだから、その程度は普通なのかもしれない。もし防弾性があったりしたら、もうお手上げだ。だが手を上げられない。手を上げたら車から振り落とされるし、降参するという意味でも手を上げられない。——まったく面白くないんだが?マジで。
エアガンを手に取り、運転手のほうへ銃口を向け、セーフティを解除する。本物の銃だと思った運転手は慌ててブレーキをかけてハンドルを思いっきり切り、それと同時に体を左方向に預ける——弾をよけようと必死なのか、テクニックなのか、両方なのか……。——そのままギアをローにして、アクセルを吹かす。——体に遠心力がかかる。そう、ドリフトである。
別に運転手を撃とうとしたのではなく、エアガンでフロントガラスを割ろうとしただけなのになんでドリフトなんてかっこつけた技をするのか。でもあきらかに慌てていたから、それでもドリフトができるということはつまりこの運転手も相当な車の運転のプロなのだろう。——ご苦労さん、ほんとに。
エアガンを放つ。もちろんフルオートなのでパシュッパシュッと撃つ。一発だけフロントガラスにはまり込んだ。すると運転手はこの銃がエアガンであることに気付き、冷酷とも言えないような笑みを浮かべてからさらにアクセルを踏み込んだ。そうなることも少々承知していた。そしてリズムを刻んでブレーキをかける。半秒ごとにだ。そうすると激しく前後に揺さぶられることになり、この態勢ではかなり危険な状態である。すると高さ制限2.5mのところに差し掛かる。まだ明かしていなかったが俺の身長は180cm越え。ベンツは車高が低い。するとその上をしゃがんでいる俺は、自分の頭がほかのところよりぐんと高いわけで、高さ制限2.5mのところに差し掛かれば頭ごっつんで間違いなく即死だろう。
今の状況が把握できたところで俺はバックミラーに両手を預け、車のセンターに足をかけて一気に頭を下げる。勢いあまって顎をぶつけたが時速80㎞で頭をぶつけるよりは断然ましだ。
通り過ぎたところでフロントガラスはだめだと思い、サイドガラスへ回る。左に座る運転手のところへだ。ここなら体勢が保てるのでハンマーを取り出して力いっぱいぶつける。
「オルァ!」今の状況を客観的に見てみるとまず時速80㎞で走るベンツのセンターにまたがる身長180㎝弱の男がハンマーでサイドガラスを割っているといったところ。実にシュール。実にbeautiful!
二発目でひびが入り、三発目で割れ、四発目で跡形もなく無残にすべて取れてしまった。運転手は茫然としてこちらを見る。——いや、よそ見しないで安全運転頼みますよ。そのまま窓から足を突っ込みその勢いで運転手を蹴る。五回ほど蹴り飛ばしたところで右手を入れてドアーのロックを解除してドアを開く。これをしようとして相当な時間がかかった。
ドアを開くと同時にコード3が俺の腕をナイフで刺され、とんでもない激痛が走った。慌てて手を引いて手当たり次第にエアガンを打ち込む。やっぱり少しは当たったが全く効くわでもなく、苛立って叫ぶ。「てんめぇブチごろすぞゴルァッ!」もともと商業高校出身の身なので、なかなか効き目はあったらしく、コード3はナイフの手を引いた。そして後ろを見る。ヤバい。
運転手は現在絶賛失神中で、要するにハンドルを切るものがいないわけだ。そして今カーブに差し掛かっているわけだ。激突するっ!ごり押しで運転手を放り投げて車に入り後部座席にいるコード3の攻撃をよけながらハンドルを回す。それもいきなりなものだから、コード3もドアに押し付けられる。そこからはしばらく直進だったので隣の助手席の椅子にあるレバーを引いてドンと背もたれを倒す。そのん真後ろにいるコード3はいきなり倒れてきた背もたれの下敷きになり、少しのあいだ身動きが取れなくなった。その間にコード3のナイフをひったくり、窓の外へ投げた。首をつかんでこちらに引き上げてナイフの先を突き付ける。ナイフの先が首にあたり、そこから一滴血があふれ出す。
「一回しか聞かない。カーブに差し掛かるまでに答えろ。お前の会社の本部をの場所を教えろ」
できるだけ低い声で怒鳴りつけるように言い、ナイフを持つ手に入れる力を加えた。
「そう簡単に言うと思うか?」
コード3はさっき会った時と違ってひどくしゃがれた声だった。そして少し笑っている。どこからそんなに笑う余裕が生まれるのかわからない。まったくこいつにはつくづくイライラさせられる。
「ああ。もし言わなければこのまま俺だけ降りて車を激突させる。お前の事務所は秩序を乱してそのうち自滅するだろうさ」
「俺にそれだけ権力があると信じているのか?」
「そうじゃないとおまえのプライドが許さないのは分っている」
そうか、と言いながら口の歪みが大きくなった。「だがな」そう言って俺の手に持つナイフを奪い、刃先を俺の腹に向ける。「もし言わなければ私を殺すなら、車から飛び降りたお前はその瞬間に部下に射殺されるだろうな。私を車から降ろしたとしても、銃撃を食らってガソリン漏れで爆発だ」
そうかもしれない。いや、そうだ。もう俺は最初から任務失敗だったんだ。ナイフを持つ手を俺の脇に挟み込ませて、胸蔵をつかむ。
「バッグをよこせ」
本当の目的はコード3ではなくバッグの中にあるテトロドトキシンだ。どうやらそれにコード3は気づいていなかったらしい。するとおとなしくバックを渡した。
「すまないな」そう言って顔面を殴る。それも正面からストレートで。あっさりと気絶したコード3は後部座席の足元に寝かせておく。するとピーピーと電子音が鳴る。やばい、カーブに差し掛かっている。慌てて運転席に戻ろうとしたが間に合わず、ちょうど飲酒店のガラスに突っ込んだ。車の中で白い砂ぼこりのようなものが立ち上がる。その時頭は伏せたので大丈夫だったが左手を強打した。幸い利き腕じゃなかったので良かったが、頬や首やガラスで切ったのかひどく痛む。
この店は閉まっていたから大丈夫だが、車はもうつかえない。もうじき俺を追うコード3の会社の手下が追い付いてくる。やばい。そう思って右足を引っこ抜こうとしたが駄目だ。挟まってしまって抜け出せない。「海保ぉ!」
後ろから声が聞こえた。あの声は、有山だ。
「頼む!右足が挟まった!」わかったといって有山はそこに落ちていた鉄パイプのようなものを手に取り挟まっているところにさし込む。てこの原理で間を広くした状態で素早く右足を引き抜いた。
「目標dは?」後ろにあるバッグを指さした。有山はそのバックを手に取り、俺と一緒にコード3を持ちあげて有山のバイクに有山が先頭で真ん中にコード3、最後尾に俺が乗る。——自己るのは勘弁してくれよ。三人乗りになるがしょうがない。3、最後尾に俺が乗る。——自己るのは勘弁してくれよ。三人乗りになるがしょうがない。
「急げ」それだけ言って細い道からバイクが出発した。これでしばらくはばれないだろう。