prologue 失態
「三……突撃っ!」目標が見えた。それと同時に右端の奴に背中にけりを入れて顔面をいち、に、さんと三発殴る。アクション映画でよくあるどすっ、どごっといった音が鳴る。うぅ……とうめき声をあげるが、容赦なく腹にぶち込む。腹を殴られたら相当痛くそれだけでもなくその痛みは相当続くため、かなり困る。内臓が痛がってるのか知らないが、呼吸が急にできなくなりほぼ動けなくなる。
もちろんその敵は倒れこみ、鼻は曲がり、血が流れる。きったねぇと思いつつ上を見上げると目標dを持った人物らしきものと目が合った。
それも結構長い時間、相手は茫然としている。しかしそのサングラスの奥にある目は、まるでこの事態を予想していたかのように笑っているような気がした。まさか、と思い我に返ったとたん顔面を殴られた。舌打ちをしつつ——と言いうが舌打ちにはなっていたかどうかは分らないが——蹴りをいれる。
胸蔵をつかまれて二発ぐらい殴られると意識が朦朧としたが、首を振って俺の胸蔵様をつかむこいつの右腕をつかんで、もう片方の手で襟首をつかむ。そして肩を支点にして一気に持ちあげくるんと一回転させる。そう、背負い投げ。しかしこいつの体は重くてこちらもよろめき、お互い同時に立ち上がる。まったく固いやつ。さっさと倒れろっての。目標dはおそらくバッグの中だろうが、渡そうとはしない。しょうがなく足元にあった花瓶をこいつの頭にぶつけて、土で視界を遮る。アッパーをしようと思ったらこいつの手がこちらへ伸びてきて、ネクタイをがしっとつかんだ。そのまま引っ張られ、ネクタイで首を縛り上げる。ネクタイのぎゅぎゅぎゅという音がとても不快だ。やばい。とっさにいつのサングラスをつかみ上げてこめかみにぶつける。さぞ痛かったろうに、手の力が緩んだ。その瞬間にもう一回背負い投げをして次は逆にこいつのネクタイを締め上げて顔面を一発渾身の力を込めてぶん殴る。アッパーであごを殴り上げ(?)てやる。それでもネクタイに込める力は変わらない。するとこの野郎、両足でけり始めて俺の腹、股間を蹴られる。いってぇ。すると後ろから羽交い絞めされ誰かと思って後ろを向こうと思ったとたんに顔面を殴られる。鼻血を流している、まさか、さっき俺が秒で倒したやつか…。
「死ねぇっ!」叫んで右足をあげて回転する。二人とも吹っ飛ばされてまた立ち上がって襲ってきた。鼻血のやつの腹にけりを入れ、前に向き直って相手のパンチをよけてジャンプ、そして頭の頂点から殴り下ろす。こいつはやっとよろめいて倒れた。また後ろに向き直る。顔面を殴られて後ろに倒れこみ、顎を蹴られた。何とか立ち上がってネクタイ野郎をいとも簡単に持ちあげて鼻血のやつに投げる。そのまま倒れこんだ相手に飛び蹴りをしてK.O.ってなわけで任務完了。
有山のほうに向き直ると、やばい。有山は拳、相手はナイフだ。もうすでに有山は何か所も切られていて、叫ぶこともできなかったようだ。後ろから手を首に回してぐっと後ろに引き倒す。そして顔面一発。「倒したか?」有山の声が聞こえる。俺は慌てて有山のほうへ駆け寄る。「刺されてはいない。切られただけらしいから大丈夫だ」声も元気は残っているので俺は安堵の溜息を吐く。
無線を取り出して任務完了の報告をする。するとカチャリという音が鳴る。「伏せろっ」有山の声が聞こえた途端銃の音だと察した。ガウンッと音が響くと右腕に鉄の弾が当たったような感覚が襲う。その感覚は全身に広がってゆき、脳に達した途端それは”恐怖”の信号に変わった。撃たれた。そのまま倒れてしまう。
「ふふふ……馬鹿ども」上を見上げる。こいつか。こいつはしゃがみこんで俺の脳天に銃口を突き付ける。鉄の冷たさが冷や汗に変化した。「俺の名はゴード3と名乗っておく。お前らが頑張って倒した三人は俺の手下、我らの会社の取締役だ。お前らは俺らに翻弄されていたと気づいていたか?ハックされる無線なんて使うわけないだろう」あぁ確かにそうだ。それは疑わしかったが、任務は任務で与えられた使命は果たさなければならない。だからやった。それだけの話だ。それを俺たちが翻弄されたというのはどうなんだろうか。結局は翻弄されているのは本部のほうで、うろたえて指令を出したのではないか。「これは囮だ。といってもテトロドトキシンを持っていないわけではない。ちゃんとこのバッグの中に眠っている。こいつが目覚めたころにはお前は眠る」この続きは分る。永遠にな、だろう。そう思ってよけようとした途端に銃声が鳴る。もうだめだ。
すると血をかぶる。こいつにしっかり脳天を撃たれたのだと思って目を閉じようとしたら。「海保ぉっ!」と声が聞こえる。ん?あれ?意識がある。動ける。生きてる!?そう思って立ち上がる。そうか。有山がこいつを打ったのか。この血の量はかすっただけだからなのか?「有山!なんで銃持ってる?」最初によぎった質問だ。「それはいい!逃げろ!」と叫ばれる。次は銃の連射音が響く。勘弁してくれ。曲がり角に隠れる。すると一人人間の影がよぎり、バックを取り上げて走り去ってゆく。やばい!テトロドトキシンをとられた!行こうと思うと激しく撃たれる。くそ、追いかけられない。すると有山が銃を撃つが一発も当たらない、そして有山は首を振る。——弾切れか…。無線をかける。「別の人物に目標dを奪われた!コード3と名乗る取り締まり社長とみられ、只今フルオートの銃で撃たれている!大至急要請を頼む!上本町駅へ向かってバイクで追跡する!」
やっちまった……大失態だ。