視界が霞む。
怖くなる描写の仕方があまり知らなくて怖さ激減してますが皆さんの想像力でカバーして頂けたらなって思います。
深夜2時47分、ソファーにもたれかかって眠気と戦いながら参考書を見ている。いつも11時には寝ているので、少し夜更かしし過ぎたせいか視界が霞んできた気がする。しかしこのまま寝てしまうわけにもいかない。室内は若干寒くなってきた。ひとりなのもあり、暖房をつけるまではしたくない。
そろそろ眠気に負けそうになっている頃、視界の端の戸が音もなく開いた。誰もいないはずなのに。背中に寒気が走り鼓動はどんどん早くなってゆく。頭に直接響く悪魔の奇声のような笑い声をたてながら何かが顔だけを覗かせている。
声も出ず、ソファーから動けなかった。これは恐怖のせいではない。身体中の筋肉が脳からの命令を無視するかのように、全く動かないのだ。
ついに何かはゆっくり部屋の中へ入ってきて、こちらに奇妙な微笑みを向けている。どうにかしてこの何かを追い払わねばならない。だが身体は力がまるで入らない。何かは台所の方へと向かってゆく。視界が霞む。きつく瞬きをすると、何かは見えなくなっていた。手元には参考書がある。背中には嫌な汗でシャツが張り付いている。変な姿勢で眠ってしまったせいなのだろうか。夢の中で自分が襲われる時動けなくなるのはよくあることである。
気を取り直して参考書を眺める。
遠くから一度包丁を研ぐような音が聞こえた気がした。心臓が大きく跳ね顔を上げると、台所から何かが包丁を持ってこちらへゆっくりと近づいてくる。また身体が動かなくなった。夢からは覚めたはずだ。それとも夢の中でまた夢を見ているのだろうか。
ずっと昔、夢を繰り返すという夢を見た。目が覚め、1日を過ごしているうちにこれは夢だと気づき、起きようとする。必死で目を開けようとすると、布団の中で目覚め、1日を始める。だがこれも夢の中だと気づき、また起きるがそれも夢であり何回も何回も繰り返して、本当に目覚めた後しばらくこれも夢なのだろうと思っていた。
何かはなお近づいてくる。これは夢だ。夢の中だとわかっていたら何が起こっても全く怖くない。澄ました顔で何かと対峙した。何かは顔をこちらに近づけ注意深く観察している。黙っていた。すると興味を無くしたのか、何かは包丁をこちらの首へ当て、大動脈を切った。生暖かい血が吹き出し、服が赤く染まり重たくなって、ソファーも血で汚れてゆく。何かはまたあの頭に響く奇声のような笑い声をたてている。視界が霞む。
目を覚ました。時刻は3時32分を指していた。首に手を当てた。汗でシャツと靴下が濡れている。時計の針の音だけがよく聞こえる。また参考書を読み始める。視界が霞む。
部屋の外から小さな物音がした。
どこかのドアが低い音をたてた。
ベランダの外のゴミ袋が揺れる音がした。
何かは視界の隅で機会を伺っていた。
この主人公は誰なんでしょうね。
何かはいつも見てますよ。