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ビュッフェ
(EITOさんから頂いた単語で)
「たんとお食べ」
別人のように母が言う
海の見えるホテルでの夕食は
初めて体験するイベントで
出てくる料理を待つのではなく
クルクル回してシェアするのでもない
いくつもの料理が並んだ机
「選んで取っておいで」と言われた衝撃
厳しく倹約家な母が
我慢を強いらないなんて
てっきり「これを食べてなさい」とか
勝手に決められると思ってたのに
二度も三度も足を運ぶ
ぶつからないように人波をぬって
テーブルに戻ってきた僕に母は
恥ずかしそうに言ったんだ
「大好きな人ができたの」
喉にチキンを詰まらせそうになった
「たくさんつらい思いさせてきて、ごめんね」
「ねえ、それ、どういう……」
「うちに今度、新しいお父さんが来るから」
ライスを口に運ぶ母の姿
ただ僕は「わかった」と返した
再婚する前の。(本筋にビュッフェあんまり関係ないけど)




