読書少年
第六章・・・読書少年
ユウサクが小学校に上がる前に、ひできの転職に伴い、一家は神戸に移り住んでいた。高知にいる頃に祖母の都合で何度か神戸の叔母はるこの家に預けられた事がある。2才上の従姉弟のよしはるはよくユウサクと遊んでくれた。だから、久し振りに会うユウサクの「感じ」が変わった事を誰よりも早くきづいた。
「ユウサク、なんやおとなしなったなぁ・・・おもんないわ」
よしはるのこの一言で叔母のはるこもなにかを感じていた。
ひできの家にきてからのユウサクは、ひできを気遣うよしこの顔色ばかりを伺い、自己主張もない無口な大人しい子に変貌していた。それをはるこから聞かされた祖母は、その年から毎年夏休み、冬休み、春休みには前もって飛行機の切符を手配してよしこに送りつけ、ユウサクを高知で過ごさせた。高知にいる時だけがユウサクがユウサクらしく過ごせる時間になっていた。
ユウサクは小学校に入学した。家が近い事もあり従姉弟のよしはるが最初は一緒に登校してくれた。そしてユウサクは学校が終わっても自宅に帰らず、はるこの家でよしはるの帰りを待つ。よしはるが帰宅して一緒にキャッチボールをしたり、よしはるの友達と一緒に遊んだりして過ごした。
よしはるはかなり活発な子供で、学校から帰るとランドセルを玄関で放り投げそのまま遊びにいくような子だった。長男と言う事で期待をした両親は、たくさんの書籍を購入していたが、よしはるが目を通す事はなく、子供部屋の本棚はまっさらなままの名作全集、伝記、百科事典がところせましと並んでいた。ユウサクからすれば「宝の山」であり、よしはるを待つ間、必ず読書するようになった。しまいには読書を止めるのが嫌で、よしはるの誘いを断る程熱中して読書にふけった。
「ユウサクが読んでくれるんやったらおばちゃん、がんばって本ぎょうさんこうてきてたんも無駄になれへんわ。いっぱい読んでかしこうなり!」あては外れたものの、可愛い甥が読んでくれるのだからと、はるこはさらに書籍を増やしてもくれた。ユウサクの一番のお気に入りは「シートン動物記」なかでも狼の「ロボ」が主人公の話は何度も何度も読み返した。
よしこが生んだ弟のかずきは、愛らしく利発な子供で、ユウサクも可愛がっていた。しかしなにかのはずみで自分の孤独を弟にあたりちらし、いじめる事もあり、ユウサクはよしこにいつも叱られていた。ひできはといえば、ユウサクを自分の子!として可愛がり、分け隔てなく接していた。(つもりだろうと作者は考えます。)しかし人間というものは何かのはずみで本音がでたり、態度にでたりしてしまう。もちろん実の息子のかずきのほうが可愛いに決まっているのだが・・・黙って顔色を見るばかりのユウサクは、過敏に反応し、ひできと言葉を交わす事もほとんどなくなっていった。
ユウサクが3年生になった時、ひできの転勤で神戸から大阪の八尾に引っ越した。「転校」といえば、普通は友達がかけより、「がんばれ」とか「忘れないで」とかがあってもよさそうだが、友達付き合いが極端になかったユウサクには誰も会いにこぬまま静かに引っ越しは終わった。
そして一年がたち、大阪から九州の福岡に転勤がきまり、しぶるよしこの説得にひできは単身赴任して半年かけた。引っ越した冬、福岡は大雪で、生まれて初めて40センチ程積った雪をみて(飛行機まちがったんかなぁ。ここ・・・北海道や)と思うユウサクであった。
つづく