家族
第五章・・・家族
ユウサクには一度に同い年の妹と6才下の弟ができた。この年まで一人っ子、そして祖母に溺愛され甘やかされて育ったユウサクに母は特別厳しかった。連れ子である事からひできに遠慮し、ユウサクにも遠慮を強いた。ひできもしつけには厳しかったが、しかし自分の娘であるちえと分け隔てなくユウサクと接していた。
ひできは大学在籍中に大阪の万博で「土産物」を売る商売を仲間とはじめ、大儲けしてまとまった金を作った。その頃は地元のやくざに筋を通しておけば、大概の商売は勝手にできた。その元手で西宮にスナックを出して商売を始めた。まだ22才の頃である。
もともと三重の田舎の名士の長男で、親の期待を受けて文武両道。屈指の進学校に進むも、もち前の正義感と仲間おもいがあだになり、数度の喧嘩で放校処分になる。なんとか北海道の親戚をたより、小樽の高校を卒業。剣道で大学にすすんだが、伝統を重んじる名門大の剣道部の中ではひできは「異端」であり、卒業まで部に所属する事はかなわなかった。
店を始めてすぐに出入りしていた客であるちよこ(元妻)と交際を始め、妊娠結婚。ちえが産まれる。ユウサクが産まれたちょうど一月後である。
店はお世辞にも儲かっているとは言えなかった。昼にも食事を出し、常連を集めたが、夜はジュークボックス目当てでやってくる貧乏学生や、カミナリ族(暴走族)の若者ばかり。面倒見のいいひできはこの若者たちに飯を食わせ、酒をふるまって可愛がった。その頃、一人でふらっと店に来だした小柄な女性にひできは興味を持つ。近所のOLかと思いきや「人妻」それも子持ちだという。これがよしことの出会いだった。
何度か「妹」と「息子」を連れてランチを食べにきた。ひできも激しい恋愛感情の末の結婚ではなかった。迫られたうえに妊娠したと言われ、流れで結婚していた。お互いが「激しい劣情」に餓えていた。出会うべくして出会った二人だった。
関係を持ちだしてしばらくして、よしこは離婚する。ひできの妻のちえことも懇意だったよしこはそのままひできのスナックに「住みこみ」として上がりこみ、素知らぬ顔でひできと関係を持ち続けた。ひできからすれば二年もの間、自宅に「本妻」「愛人」を住まわせて二重生活を続けていたわけだが・・・ちよこが気がつかぬ筈もなく。当たり前の修羅場をくぐり、本妻であるちよこが娘をおいて出ていった。
それから離婚が成立して、よしこが正式な妻になり、弟のかずやを身ごもった時、ひできが「ユウサクを迎えに行こう」と言いだした。よしこはユウサクについては半ばあきらめていた。というより、別れた夫に瓜二つのユウサクと同じ屋根の下で暮らしていく、育てていく自信がなかったのだ。
ひできはよしこの気持ちをくみ、出産が終わるまで気長に待ち、いたわり、最終的には「自分の子だ」とまでいってよしこを納得させてから高知に連絡をいれて一人で迎えにいった。2人旅をする事によってすこしでも触れ合っておこうと考えていた。
五人家族の生活はつつましやかにスタートした。しかしその頃にはスナックの経営は悪化し、最初の元手も底をつき・・・店をたたむしかないところまできていた。ひできは近くに部屋を借り、自分は道路工事の会社に就職して家族を養った。
ちえとユウサクは同じ幼稚園にかよい、兄弟として過ごしていたが、イニシアチブはいつもちえが持っていた。母親のよしこがそう仕向けていた事もあり、ユウサクは喧嘩になるといつもちえに譲った。
ある日幼稚園から帰る途中で「先に帰っとって!うち、お友達と用事があんねん。」ちえからそう言われ、ユウサクはひとりで家路につく。
よしこからちえの所在を聞かれたが、判るわけもなく叱られた。ちえは帰ってきてもなんの説明もせず、食事もとらずに寝た。よしこに尋ねられると「お友達のところでお呼ばれしてきてん。」というばかり。
次の週にも同じ事があり、さすがに心配になったよしこはひできに相談する。なにか思いついたひできが一本電話をかけ、なにやらどなっていた。そしてちえを連れていき2人ではなしていた。
ちえは実の母であるちよこと会っていた。ひできはちよことちえを交えて何度か話し合いをしたが・・・その月のうちにちえはちよこに引き取られていった。ひできからすればかなり辛い事だったとおもうが、よしことユウサクの手前、至極明るくふるまっていた。
こうして弟のかずやとユウサク、両親の4人の家族構成になった。