アンブレイカブル的な話
第三章・・・アンブレイカブル
最近のユウサクはもっぱら外で遊ぶ事が多かった。自転車の存在はさびしさを埋めてあまりあるもので・・・もう迷子になるような事もなく、真白なボディーに青いラインのキラキラした自転車で商店街を誇らしげにはしり回る。
最初の何日かはよく転んだ。あちこち擦り傷をつくるユウサクを祖母やりつこは心配していたが・・・隠れて泣くような事が無くなって、逆に安心するようになっていた。
ユウサクには二つ年上の親戚が一人いた。従姉弟のゆうこである(大きくなって判った事だが、ゆうこは自分の母よしこの従姉弟だった。)
幼い頃からよく後をついてまわったが、ゆうこが自転車に乗るようになってからは、彼女と遊ぶ事もほとんどなくなっていた。自由に運転できるようになったユウサクは、思いついた。
「ゆう姉に会いにいって驚かそう!」もう夕方になっていたが、思い立つと我慢出来ないのが子供である。祖母につげれば「明日にしなさい」と言われる事が判っている。
ユウサクは黙ってゆうこに会いにいった。
歩けば30分かかる道もひとたび自転車に乗れば、風を切るスピードであっと言う間にゆうこの家(祖母の弟の家)についた。
息を切らして玄関から「ゆう姉!!」叫んでみるが、返事はない。
もう一度大きな声を出そうと思いっきり息を吸い込んだ時に・・・
「誰ぞね?」ぬっと出てきた大きな体躯の白髪交じりが聞き返す。あわてて喋れずむせかえるユウサクをみて、「おお、何じゃ、ユウサクかよ?ゆうこは友達の家におよばれにいっちゅうきおらんぜよ。」祖母の弟である。
「何時に帰ってくるが?」「わからんにゃ〜。おんしゃあもう遅いきね、はよ帰らんと姉さんにわしが叱られるき、おんちゃんが送っていこか?」
「いらん!僕ひとりで帰れる!!おんちゃんバイバイ!」
落胆したユウサクはかっとばしてきた道をとぼとぼと帰って行った。
ユウサクにとってゆうこは幼いころの淡い恋心の対象だったのかもしれない。
家の傍まで帰るとあたりはすっかり暗くなっていた。ユウサクが自転車を押して帰ってくると、家の前でりつこが待っていた。(怒られるかな?)とおもいつつもりつこが待っていた事が嬉しかったユウサクは横断歩道を確認もせずにいちもくさんにかけ出した。
「危ない!!」
振り向くと車のヘッドライトが迫っている。恐怖に押していた自転車を手放し、しかしよける事もできずに固まってしまった。
キキーッ!!!!ドン!
車のボンネットに跳ね飛ばされたユウサクは5〜6メートルほど先の道路に落下。
顔面蒼白の運転手が飛び出してきて「だれか!救急車を!」
ぴくりとも動かないユウサクにりつこが駆け寄る。「ユウサク!大丈夫か?」驚きと恐怖で固まっていたユウサクはやっと声がだせた。
「うわーん!うわーん!いたい、いたい」
そのまま動かす訳にもいかず。まわりがおろおろしているとすくっと立ち上がったユウサクはりつこに自分のひざとひじを見せた。
「血い出た。いたい。」それぞれ擦りむいて少し血がでていた。
「他は、どっかいとうはないか?」
擦りむいた傷が痛い事しかわからないユウサクは「バンドエードはって!」
念のため病院にいき検査してみるも擦り傷以外はまったく以上なし。子供の骨がやわらかい事と綺麗にバンパーに乗り上げた事が幸いしたのだろう・・・と医者はいった。
「暗くなる前に帰る事。」
それから毎日ユウサクは言われ続ける。