コウチャン
そろそろ「少年」編は終盤にさしかかってきました。
第十章・・・コウチャン
ユウサク中学一年生。13才になっていた。
関西弁もほぼとれていっぱしに博多弁を使う生意気な少年になっていた。
ユウサクの生まれた昭和42年は、前年が「丙午」という事もあり、かなりの出産ブームであった。中学生になった時、ひとつ上の学年は9クラスだったが、ユウサクの学年は10クラス(しかもひとクラスの数も違っていた。)ユウサク達の世代の為に3年前に近隣にひとつ中学が増設された程である。
中学に進むと、同じ小学校だけではなく近隣の3つの小学校から子供たちが集う。クラスメイトの3分の2は初めてみる顔であった。
ユウサク自体は小学校で別段人気があった訳でも嫌われていた訳でもなく、平平凡凡と生活していたが、この「中学入学」というイベントは慎重に過ごさねば「痛い目」をみる.という事をユウサクは知らなかった。
クラス分けがなされ、指定された席につく。見渡す限り知らない顔である。(うわー・・・参ったな。)同じ小学校の出身者は何となくわかるが、口を聞いた事もない顔ばかり。観察を続けると・・・斜め前の席の男子がやはり全員を観察していた。ユウサクはその男の髪型に目がいった。(なんだあれ?)全体的に後ろに流した髪は前髪だけが前に飛び出ていて真ん中がうねっている。(いわゆるリーゼント)同年代の人間にこんな髪型(セットする概念すらなかった頃)をしてる人間を初めてみたユウサクはおかしくて・・・つい笑ってしまった。
「おい!きさんこらぁっ!なんが可笑しいとや?今わらったろーが?」
突然その男が立ちあがりユウサクの前にやってきて怒鳴りつける。
体格はユウサクよりもかなり多柄である(ユウサクは13才のとき148センチしかなかった。)とりあえずたちあがってにらみ返すも、なんで相手がおこっているのかわからず、返す言葉が見つからない。
「だまっとかんで何かいわんや!おおっ!なんでわらったとか?」
「髪型が変やけん・・・へんな髪やなあって思って。」
「なんてか?」男はユウサクの襟首をもち顔の傍で大声をはりあげる。
(なんでこげんなるとかいな・・・でもなんかいいかえさんと気分悪い)そう思ったユウサクだったが、やっと覚えた博多弁も喧嘩という応用編までは使いこなせない。(しゃーないな)頭の中のスイッチを切り替え!大阪の人間に戻って応戦した。
「なんてか?ってなんや!おのれだいたい誰に向って口聞いとんねん!」「けったいな頭してるから笑ろただけじゃ!ぼけぇ!」
一気にまくしたてると相手は意外にもびっくりして止まっていた。
(これをチャンスとみたユウサクは止めておけばいいのに続けた。)
「われ、今度えらそーな口きいたらしなん程度にいてこますぞ!」
・・・しばらくだんまりが続いた後、「いてこます?・・もうよか。」
相手はユウサクの肩をたたいて「すまんかった。ちょっといらついとったごたぁ・・・」と素直に席にもどった。(勝った?)
それから何事もなく担任の挨拶などが終わり。クラスメイトと仲良くなろうとするが・・・何となくみんなよそよそしい。(あれ?・・何?)不思議に思っていると、どやどやと教室になだれ込むように、男達が5〜6人教室に入ってきた。「コウチャン!どげん?もうみんな締めたと?」などといいながら、あの斜め前の男と同じ髪型の男たちがまわりに集まってくる。(なんだかいやな予感がするなぁ・・・)とユウサクが下を向いていると、クラスの女子の一人が「なんかね、あいつがコウチャンにちかっぱいおおちゃくい事いいよったんよ!」その女子の指さす方向に男どもの視線が集まる。(やっぱりこういう展開か・・・)
そう・・・みんなユウサクのまわりに集まりだした。間違いなく全員自分とは違う小学校出身者のようである。
「なんやぁ?なんばゆうたとやきさん!!」「お前コウチャンに生意気ゆーたとか!こらぁ!」「くらっっそ!」(やっつけるぞ)
まわりから雨のように罵声やののしりが響くが、ユウサクはなにもいいかえせなかった。
「やめとけ!そいつは別になんも悪ーない!」そうコウチャンが一括してその場はおさまった。しかし・・・初日でユウサクは1年を棒にふってしまったのである。
コウチャンはとなりの小学校からきていた。3人兄弟の三男で、兄2人はこの中学でも有名な「不良」だった。したがって「コウチャン」は同世代の中心人物になるべくしてなった「つっぱり王子」なのである。
だから、初日に自分たちの「コウチャン」に食って掛かったユウサクの事をまわりは決して許さなかった。関係ない筈のユウサクと同じ小学校の者も、もともとユウサクと交流があった訳でもなく、「われ関せず」すなわち「シカト」したのである。ユウサクは完全に孤立した。不思議な事に当のコウチャンだけはたんたんと普通にユウサクに接していたが、「お前コウチャンと喋るとか生意気たい!」とまわりからは言われ、火種が増えただけだったが・・・
別に孤独に耐えられないわけでもなく、ユウサクは「村八分」となっても平気で登校し続けた。直接暴力を受ける場合もあったが、計算高くたちまわり、相手が一人の時は応戦したし、複数の場合には走って逃げた。特別「悲観」もしなかった。話相手がいない事もあり、毎日図書館にいき読書に没頭するようになった。毎日2冊は読んでいた。
入学から半年もすると、学年の中で「誰が強いか?」という評価がだいたい決まってくる。学年350人の中で半数が男子、そのベスト10にユウサクの知っている名前が昇るようになる。「山口、田村、穂波」
そう、あの3人である。中学に入ると、各自に新しい付き合いが増え、(ユウサクは増えてないのだが・・・)めったに会う事もなかったのだが・・・(へぇ〜不良になったんだ)ユウサクの感想はただそれだけだった。
ある日、ほしいレコードがあり自転車でレコード店に出かけた。
「ユウサク!」声をかけられ、振り向くとコウチャンがいた。
「なんか買うとや?」「えッ・・・うん」
「これがいいぜ!」みると横浜銀蝿のアルバム・・・全然興味はなかったが「ふーん・・・じゃあこれ買おうかな」勢いで買ってしまう。
帰りは二人で話しながら帰った。
「なんかすまんかったな。」改まってコウチャンが語り出す。
「なにが?」
「おれと揉めたけんお前、なんか嫌われてしまってから・・・」
「でもコウチャンは普通に喋ってくれようやん」
「だってお前を嫌う理由ないし、みんなにもたいがいしとけっていいよちゃばってんが・・・」
「いいよ、別に困ってないし」
「ところでお前2組の山口達と仲のよかっちゃろ?」
「うん、最近あそんでないけど」
「なら2年になったらおんなじクラスになったらよかね!」
コウチャンはなかなかの人物だった。(みんなに好かれるだけの事はあるよね)ユウサクはコウチャンの事が少し好きになった。
はたして2年生のクラス替えにて、ユウサクは山口達と同じクラスになり、またよく遊ぶようになる。一年のクラスから一緒にあがった者たちは変わらずユウサクをのけものにしようとするが、実力者の友達!という肩書きが知れ渡ったユウサクに対する扱いは・・・あっという間に変わってしまう。(なんやこいつら?手のひら返したみたいに)
ひとつの「社会」で円満に生活していくのに「コネクション」と「立ち回り」がいかに大切か!という事を若干14才で知ってしまったユウサクであった。
つづく
引き続きがんばります。どうぞ応援お願いします。