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ロマンチックSF/ノスタルジックSF

ラグランジュポイント

 ラグランジュポイント。


 地球からも月からも離れた、重力や引力に斥力等が安定した場所。ここならばどこかに位置が移動し続ける事なく、滞留していられる。

 ここへ理論だけは数世紀前に既に完成していた、シリンダー型コロニーの建設に着手すると発表がなされた。


 惑星にへばりつく様に住む訳でなく、隕石の様な小惑星に小さく集落を作るのでもなく、宇宙に人工の土地を作って浮かべて住む。その宇宙に立ち向かう様な事業に私は心が震えた。

 私が出来るのは事務仕事。大まかには決められている建設計画も、細かな部分はまだまだ未定。だからこそ細かく詰めていく統括や事務が不可欠。宇宙規模のデスクワーカーともいえる。


 地球で数世紀かけて完成したというサグラダファミリアの様に、長い時間をかけて行われる宇宙への(くさび)。人類の新たな功績。


――だと思ったんだけど、作るのはどうせ人だしね……。いざこざも昔から変わらない。時代が進んでも変わらないのだ。


 私は一人。投げ出された宇宙空間で回転しながら、まだ骨組みだけのコロニーを見詰めて溜め息をついた。




   **********




 まずラグランジュポイントは地球からも、月面都市からも離れている地点だけに、人員が向かうのも輸送もまず大変。大型の宇宙船で物資を運び、後は近くの浮いている小惑星から資源を調達。月近辺から、射出してきた物資を大きな網みたいなのでキャッチして使ったりもして、基礎作りが急がれた。


 まずシリンダー(円筒)の根元になる部分が完成し、そこに人員が住める様に簡易的な宿泊施設が作られた。


 でも、それまでは各々(おのおの)の所属の宇宙船中心に作業していた人たちが集まる訳で、もちろん一筋縄ではいかない。今日もまた揉め事が起きる。


『現場のやつらは分かっていない。美意識に欠けている』


 と、設計やデザインの部門が不満をぶつければ、現場からは


『美意識だけで仕事が出来るか。人の営みに美意識だけで形を作るんじゃねぇ』


 と、まっとうながらも喧嘩ごしで返事があって、毎回指示一つが通す度に喧嘩になりかける。


 無理もない。これでも各種のエリートが来ているのだ。ぶつからないはずが無い。皆が皆、自分の仕事に誇りを持って来ているのだから。


 私はそれらを聞いて、相槌を打ちつつ、同意しつつも、時に反論し、時に発破をかけて業務を進めさせてきた。正直ストレスで髪の毛にクレーターが出来そうだった。




 そんな日々の中で、ある時現場を見て回っていたら爆発事故が発生。宇宙服に穴も、私に怪我も無いけれど、私はコロニー全体が見られる程の位置まで吹き飛ばされてしまっていた。


 私という浮遊物の回転がエネルギーを失って次第に収まり、視界に見えるは宇宙の中で静かに回る一つの骨組み。それは宇宙に建てた人類の叡智。だというのに、やっている事が口喧嘩ではニール・アームストロングにも笑われる。


 骨組みの中で幾つか光が見え、今もまた骨組みに肉がついていく。


 受肉していくそれは、幼子にも見えて私は優しく笑ってしまう。お母さんお父さんは随分と喧嘩してるけど、子供は育っていく。


 私は重力の(くびき)から解放された空間を泳いでゆっくりとそこに向かう。愛しい我が子の元へと。


「大丈夫」


 根拠は無いながらも、口から出ていく言葉。


「きっと人が住まう土地になれる」


 そこでどんな人生が生まれ育っていくかは、私はきっと最後まで見る事は叶わない。だから、先に祝福を。人と宇宙と太陽とのラグランジュポイントのそのコロニーが、末永くありますようにと。


 ただ、アーメン(そうでありますように)と祈りを捧げるのであった。

重力からの解放

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― 新着の感想 ―
[良い点]  科学がどんなに発達しても、人間の心のどこかはさして進歩してないものなのねぇ、とクスクスしておりました。  ゆっくりと泳いで、成長した我が子の許へ帰る時を。人工物のコロニーに骨を埋める日が…
[良い点] >受肉していくそれは、幼子にも見えて私は優しく笑ってしまう。 ここの受肉というのが生々しく、実際そうなのだろうなと思いました。すごく的確で印象的な表現だと思います。 短編ですが、何かの始ま…
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