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異世界オリンピックを開くまで とあるスポーツオタの大出世街道  作者: 悠聡
最終章 第一回異世界オリンピック
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最終章 開会宣言

 コウジがこの世界に来てから10年の月日が流れた。


 肌の白い人に黒い人。獅子の獣人に鬼族の青年。老齢の魔術師に屈強な巨人族。


 ニケ王国王都には大陸中あらゆる地域からの人々が集まり、建国以来の活気に溢れていた。


 そんな郊外に建てられた総合競技場。すべての席に観客が埋まり、フィールドに入場する選手たちを大喝采で迎え入れていた。


 クベル大陸五か国から合計1000人あまりの選手がこの王都に集まり、それぞれの技を競う。有史以来の大イベントに、国だけでなく世界が興奮していた。


 この様子は魔術師たちの通信魔法で世界中に中継され、それなりに大きな町ではどこでも広場でのパブリックビューイングを楽しみに民衆が集まっていた。


「それでは大会の開催に尽力してくださいました、ニケ王国スポーツ振興官、コウジ・カトウ男爵よりお言葉をいただきます」


 選手全員が入場し、舞台の上にコウジは上がる。


「皆様、本日はご来場くださりありがとうございます」


 コウジは一礼した。三十路になって口ひげを生やし、眼鏡もかけているが、顔つきは昔の気弱でちょっと頼りないままだった。


「私がマレビトとしてこの世界にやって来てから早10年。思い返せばこれは、スポーツを広めるため、ただひたすらに走り続けた10年だったと言えます」


 話しながらコウジは今まで出会った人々を思い出していた。この10年、自分は多くの人々に支えられてここまでたどり着いたのだと感慨にひたりながら。


「このクベル大陸五か国のある世界が私は大好きです。大きな争いを生まずに、様々な種族が手を取り合って暮らしている。ですがいくら平和であれどうしても軋轢は生まれます。それは歴史の証明する通りで仕方ありません」


 大人になったアレクサンドルはクリミールにも負けないほど大きく成長し、あの可愛かった面影はすっかりなくなってしまった。未来の領主としてさらには強靭な戦士として文武の鍛錬に励み続け、今日この選手の仲にもニケ王国レスリング代表として出場している。


 だが頻繁に見せる笑顔だけは昔から変わらない。


「ですが問題はそのいさかいをいつまでも引きずる事でなく、相互の理解で解決していくことでしょう。スポーツにはそれを実現できるだけの力があると、私は考えています」


 10年近くプロリーグで活躍し続けるマトカは国民はおろか世界のスターになっていた。20代後半を迎えた現在では特に女子スポーツの振興のために世界中を走り回っているという。最近ではブッカーら実業家たちとともに女子プロサッカーリーグの創設に当たっているようだ。


「さて、この大会を開催するまでには多くの困難がありました。中には複数の国家の関わる問題もあり、解決策が見つからず奔走したこともこれまた事実です」


 メイドのナコマはまだコウジに仕えている。だがこの大会には体操選手としても出場しており、数年前からそのスタイルの良さでファッションモデルとしての仕事の依頼まで舞い込んできていた。彼女もマトカと同じく、ニケ王国を代表する女性アスリートとして名をとどろかせていた。


「ですがそんな時、私たちを支えてくれたのは世界各国様々な身分の方々でした。貴族や王族もいれば、職人や労働者もいました。実際にこの音響魔法も、多くの魔術師が編み出した技術を私は使わせていただいているにすぎません」


 魔女カイエは相変わらず魔術師らを率いて競技会の演出に打ち込んでいた。聞いたところではベイソン師匠がついに家から出て社会生活を送れるようになるまで回復したというので、その知恵を借りてさらなる魔術の研究にも没頭しているらしい。今なおプロリーグのスターに君臨し続けるベイルとユキは種族が違うものの、同居して仲睦まじく生活しているという。


「この競技会の実現には多くの人々が関わっています。開催というひとつの目標のために多くが団結する。これは世界平和を理念とする大会の趣旨に、実は最も合致しているのではないかと、我々は思うのです」


 デイリーは隠居した父の後を継ぎ、公爵の地位を授かった。今では敏腕領主として様々な事業を成功させ、さらに最近は妻サタリーナの愛する冬季スポーツ振興のためヘスティ王国にも頻繁に行き来しているらしい。幼い息子にも将来の領主としての心得を叩き込んでいるようだ。


 そう、コウジは様々な人々の想いを受け、この大会を実現させているのだ。


 ニケ王国ビキラ国王とヘデル王妃はタクティ皇帝ら五か国の王とともにスタジアムの一角に並んでいる。


 ヘスティ王国のブローテン外交官一家も遠方から来ている。


 帝国のゼフィラさんはあの後結婚して、子供といっしょに見に来ているらしい。


 ラウルとエルゴンザも選手としてフィールドから見てくれているはずだ。


「話が長くなってしまいました。では最後に」


 コウジは深く息を吸いながら、ちらりと競技場の一角に目を移した。


 そこにはさらに美しくなったバレンティナが座っていた。その傍らには、小さな子供が2人、男の子と女の子がコウジを尊敬のまなざしで見つめていた。


 何物にも代えられない、愛する家族だ。


「これより第一回クベル大陸五国競技会の開会を宣言します!」


 空に大量の花火が打ち上げられ、大地が割れんばかりの大歓声が起こった。


 これからおよそ2週間、この熱狂は止むこと無く続くだろう。

 ここまで読んでくださった皆様、最後までお付き合いくださり本当にありがとうございます。


 テーマがスポーツ全般ということで正直しっかりと描写できるか不安だったのですが、感想を送ってくださった皆様はじめ多くの方の意見のおかげで、完結まで書き上げることができました。これには感謝してもし切れるものではありません。


 この作品を思いついたきっかけはやはり2016年のリオデジャネイロ五輪における日本代表選手の活躍です。日本をあそこまで盛り上げた選手たち、そして応援する人々の姿を見て、この面白さを小説で表現できないかと試行錯誤した結果、コウジというスポーツオタの異世界生活が始まりました。


 執筆のためにスポーツについてより詳しく調べる必要があり、改めてその奥深さと懐の広さに感心しました。私自身スポーツは好きでもそこまで得意ではないため、選手としての視点よりもファンとしての視点からスポーツものを描こうという結論に至りましたが、しっかりとその点を表現できたかは微妙ですね。


 また、作者として読者様の声を直接聞けるほど嬉しいことはありません。特にどのエピソードが印象に残ったか、このキャラの今後が気になるなど、そういった作品に関する感想・意見はこの上なくありがたいです。


 本当に皆様、御読了ありがとうございました。

 最後に、この作品をスポーツを愛するすべての皆様に捧げます。


    2017年4月11日 悠聡

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