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つかまってはなりませんっ!  作者: たやまようき
鼻歌とチョコレート
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チョコレート①

第二章突入です。よろしくお願いします。

 犯罪の被害者やその家族という生き物は、本当に面白い。


『新しい犯罪と金の匂いを感じながら、背もたれに寄りかかって両手を組み合わせ、両腕を前へ伸ばす。金が全てだ、なんて子供みたいで小物臭い世迷言は吐かないけれど、それを否定するのも頭が悪い奴のすることだな、と思う。金を稼ぐことだけを目的として、手段を選ばず働くのは侘しい。けれど、それを目的の一つとして働くのは、人間として何の問題もない行為だ。今しているこの商売だって、決して金だけが目的じゃない。……尤も、』


 この商売は、他人から見れば問題があるだろう、悪辣なものだけどね。


『なんて虚空に呟いて、瞼を閉じる。自分が正しいことをしているなんて言う感覚はない。これは趣味と両立した、ただの小遣い稼ぎだ。自分が正義だとしたら、反対に時々周囲を飛んでいる有象無象が悪になる。それはそれで面白いけれど、いやはや残念ながらそうはならない。なんて、本当は、ちっとも残念じゃない。その証拠に、自分が悪いことをしている、なんていう感覚ならある。常識から外れた、法律を犯した、正しくない行為。誹られるべきそれが、どうしてこんなにも愉しいのだろう。悪は一つの麻薬だ』


 君の人生、復讐に消費してみる?


『チープな誘い文句を呟きながら、つまんだチョコレートでパソコン上の情報に狙いを定める。ばーん、なんてお手製の銃声を上げながら口へ放り投げた。甘くてかったるい味が喉の渇きを誘って、まだまだ誰かに止められるわけにはいかないねと囁く。そうだよ、お楽しみは、これからだ』


***


第二章 鼻歌とチョコレート


 ――……いやぁ、正直、デスティニーランドに行っただけでこうまで体調を崩すとは、自分自身でも予想外だった。顔から湿ったタオルが落ちたことでふと目が覚めて、携帯電話で時間を確認すれば、朝の六時を示していた。


 鼻歌君と共にタクシーに乗った後、事務所に行くのかと思いきや、彼はあたしを自宅まで送ってくれた。代金まで任せてしまって、今後どんな課題を突き付けられるのか、正直頭が痛い。いや結構です、いや遠慮しなさんな、のやりとりは、誰とやっても絶妙に後味が悪いのだけれど、鼻歌君は格別ね。断じて褒め言葉ではないけれど。


 帰宅後、息抜きに蒸しタオルを顔に当ててソファーに横たわっていたら、どうやらそのまま完全に寝入ってしまっていたらしかった。少しリラックスしたら、普通にベッドで寝るつもりだったのだけれど。今は冬だというのにソファーで眠るなんて、風邪をひきたいと言っているも同然である。大学だってまだあるというのに、そんなことで床に伏していなければならないなんて、虚しすぎる。

 ベッド代わりにソファを使ってしまったせいで硬くなっている体を伸ばすと、ばきばきという音が周りが静かなだけによく響いた。あいててて、と呻きながら腰を叩きそうになって、思わず手を止める。あたしはおばあちゃんか。


「朝ごはん、作って……。その前にもう一度シャワーしよう」


 今日は平日で、普通に授業がある。昨日のであたしのか弱い心が随分と痛めつけられたので、今一度気分を入れ換えたい。


 ……それにしても、とシャワーを浴びながら考える。それにしても、どうしてあんなにもデスティニーランドで心がくたびれてしまったのだろう。あの人を殺したことで、それなりにけじめをつけられたと思っていたのだけれど、実はそうではなかったのだろうか。あの時のもう一人を探し出してけじめをつけさせなければ、あたしの脳内のメリーゴーランドは回り続けるのだろうか。嫌だな、と首を横に振る。折角頭痛が治ったばかりなのに、わざわざ自分からあれについて考えなくてもいいだろう。今は、棚上げしておきたい。



 着替えたり、食事をしたり、宿題をしたりしていれば、気づけばあっという間に登校時間が近づいてきた。慌てて鞄に必要なものを詰め込み、家を飛び出す。大学の周りには、最近マスコミが張り付いている。彼女の一件から約一週間が経とうとしているけれど、中々強烈な事件だったため、まだまだ飽きる気配はなさそうだ。あたしも声を掛けられそうになることが何度もあるけれど、待ち伏せに気づかないふりをしてみたり明らかに邪険にしてみたり、色々工夫して取材されることは回避している。

 そのマスコミたちは、今日も門の前にちらほらと見受けられた。イヤホンを耳に装着したまま、知らないふりで駆け抜ける。犯人の幼馴染、なんてつくづく格好の餌だと思うけれど、食べられてあげるつもりは毛頭ない。いつもの授業に行き、いつも座っている席に座る。以前は彼女と二人隣同士で座っていたけれど、今は一人で座っている。――別に、だからどうっていうわけでもないけれど。


 授業が始まるのをぼんやり待っていれば、ふと携帯電話が揺れる。画面を見れば、潔子からの幼馴染のグループへ、一括送信されたメッセージだった。――スキー旅行について、の件らしい。前回集まった時は、ほとんど何も話せなかったから、行くか行かないかだけでもそろそろ決めないといけないわよね。彼女も、もう少しタイミングを読んでくれればよかったのに。と、最早言うことができるような縁もないであろう文句を、頭の中で垂れ流した。


最近読み直していて、どう考えてもやっぱりジャンル枠間違えたな、と頭を抱えています……。

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