ミルク飴㉞
「それで結局、一体何の報告だったんですか」
あたしから離れたということは、あたしに聞かれたくなかったことかしら。そう考えながらも質問してみると、
「ふっふー、ひ・み・つ!」
と立てた人差し指を唇に当て、ウインクしてくる。
……教えてくれないこと自体はそこまで怒るようなことではないのだけれど、蛇足のポーズが殺したくなるほどに腹立たしいわね。まぁ、若さで割と何でも許される高校生でもさすがに恥ずかしいポーズをしてまで誤魔化そうとするほど喋りたくないというなら、これ以上は聞くまいと気を遣うことにして、じゃあいいですよ、と返事をする。
怒った? なんて顔を覗き込まれて訊かれるから、怒っていません、と返した。……言ってから何だけど、すごく拗ねているみたいに聞こえるわね。あの、本当に怒っていないんですよ。別に興味があったわけじゃないんですから。
「ツンデレみたいな言い訳だねー」
言葉を重ねてみれば、そう評された。ものすごく、不服だ。好意なんて裏にも表にもないですから、期待しないでくださいね。……言えば言うほど、ツンデレみたいになってしまっている。ええい、もう何も考えまい。
「……それで。そろそろ、帰りませんか」
あまり余計なことは言うまいと、魔王くん特製トリュフを口に運びながら、帰ることを提案する。きゃっきゃうふふしようか、なんてことを鼻歌君はさっき言っていたけれど、それは別に彼の真の目的ではないだろう。そんなこと、本当は心底どうだっていいはずだ。
あたしは多少ではあるけれど、それでも多少なら鼻歌君のことは分かるつもりだ。あたしたちは、同類なんだから。こんな賑やかなところにずっと居ると、気が滅入ってきてしまう。本当に、目を開けて耳に音が入ってくるだけでも、ここにいるのが億劫に感じてしまうほどなのだ。
一体何が目的だったのかは知らないけれど、お土産になる限定お菓子も沢山買っているわけだし、越内刑事とも会った訳だし、もう良いだろう。ここはあたしたちが楽しめるような場所ではないのだ。そう無言で、目で、問いかける。
「……そうだねー、じゃ、帰ろうかー」
鼻歌君はそんなあたしの目をじっと見た後に目をそらし、肩を竦めてそう決定する。ほっ、と思わず安堵の息が漏れる。デスティニーランドを様々な色で照らすライトを見ていると、正直に言って、頭痛が止まなかったのだ。ぐるぐると脳内でメリーゴーランドが回る感覚は、吐き気を催すほど、気持ちが悪いものだ。けれどしがない雇われの身が、雇用主に誘われた場所から本人を置いてさっさと帰る訳にもいかなかった。
鼻歌君がここから去ることを決めた後は、行動が早かった。すぐさまランドから退場し、タクシーを拾って事務所へ向かう。様々な遊具がそれぞれかなりのスピードで動いていたのを見慣れた後だと、遅く感じる車内で、あたしはふと何かに呼ばれた気がして、振り返った。段々と遠ざかっていくデスティニーランドを見つめる。
脳内で、あたしを抱き寄せようとする時にする、あの密やかな懐かしい笑い声が蘇ってくる。あの時の夜景が鮮明な色を持とうとする。思い――、出したくない。あたしはそっと目を伏せ、姿勢を戻した。ああ、頭が痛い。
短めが続いてすみません。