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つかまってはなりませんっ!  作者: たやまようき
鼻歌とミルク飴
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ミルク飴⑳と②


 ――うん、普通に美味しい。パフェは他のお菓子と違って、店によってそこまでの差が出るわけじゃないものね。もう少し食べたい、そう思わせる程度の量をそのお店の客層によって見極めるくらいしか、違いがないから仕方がない。なんて、パフェの食べ比べをしたこともないのに出まかせのうんちくを脳内で垂れ流してみる。

 あながち間違っている気がしないのは、このパフェが何だかとても無個性の味だからだろう。以前に食べたチョコレートケーキに比べれば、普通に美味しいのだけれどね。


「このチョコレートケーキ、とっても美味しいですにゃー」


 ……どうしよう、あたしは青乃ちゃんと気が合わないのかもしれない。フォークを持ったままうっとりしている彼女の様子に、あたしは戦慄した。

 しかも彼女はあろうことか、にゃーさんにもあげますにゃー、なんて言ってフォークでケーキを切り取って、あたしが口を開けるのを待っている。えー、あたし、それを食べなきゃいけないの? やだー。


「ありがとう、いただくわ」


 とは言え、さすがに潔子も屋良もいる前で断れるほど、あたしは度胸がない。女は度胸だ、と矛盾を自分に言い聞かせ、意を決して青乃ちゃんに食べさせてもらう。うう、まぁ、この一口だけなら、美味しいのかも……。

 前回食べた時のあまりの濃厚さとその量に影響されて、より苦手になっていたのか、いつにも増して美味しくない。けれど美味しい、美味しいのだと自分に言い聞かせる。


「それじゃ青乃ちゃんも。はい、あーん」


 感想を聞かれる前にと、こっちも負けずとパフェをあげる。たっぷり食べてちょうだい、主にあたしのために。勿体ないから残したくはないけれど、絶対一人じゃ食べきれないもの。

 苺がおいしいですにゃー、と目を細める青乃ちゃんに笑顔でそうねと適当に頷き、潔子にも食べてもらう。お返しに一口貰ったバナナケーキは、さりげない甘さで、男女ともに受けの良さそうな味だった。……あたしもこれを頼めばよかった。


「……つくづく、女って不思議だよな」

 

 仲が良くてもさすがに男女であーんはしないし、スイーツとサンドイッチということで系統が分かれていたのもあって、自動的に無意識に思考から弾いていたけれど、サンドイッチを口に運んでいた屋良があたしたちの様子を見てか、しみじみとそう呟く。何のことかしら。視線でそう促せば、


「いや、女って今みたいなのを普通にするだろ。そういうのを同性同士でやりたくない男の俺からしてみたら、中々不思議なんだよ。彼女相手ならできるけどさ。お前らはそうやって、友達同士でしちゃうだろ?」


 ……まぁ、男同士であーんっていうのは見たくないものね。その光景をうっかり屋良と根間で想像してしまったあたしは、うげっと出そうになった呻き声を口の中に閉じ込めつつ、深々と頷く。確かにこれは、女の子同士の特権なのかもしれないわね。いや、何が特権なのかはよくわからないけれど。


「女子と男子じゃ、女子の方が結束っちゅーもんを気にしとるからな。同じ釜の飯を食う、やないけど、食べ物を共有するんが一つの絆の確認の仕方として認識されとるかどうかっちゅーことなんとちゃうか」


 潔子がバナナケーキを口に運びながら、そう分析する。絆の確認の仕方、か。言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。彼女の論に頷いて同意を示しながら、青乃ちゃんはどうなのかと隣を見やる。

 あたしの視線に気づいたのか、青乃ちゃんと目が合う。彼女はじっとあたしの目を見て、青乃ちゃんもそう思いますにゃー、なんて笑う。そうね、あたしたちは、仲良しなのよねー、なんて笑い返す。


 と、そこに、カランコロン、とすっかりおなじんだドアの開閉音が聞こえた。ばたばたと店内に駆け込んできたのは根間だったので、辺りを見回す彼に手を振って居場所を知らせた。


「悪い、遅れた!」


 息を切らせながらあたしたちの前に立ち、そう彼は謝って手を合わせる。思いのほか、早かったわね。講師のアルバイトって忙しいイメージだったから、ちょっと、なんて言葉はまったく信じていなくて、もっと遅れるのかと思っていた。それを考えれば、全然待ったうちに入らない。

 皆で気にしない気にしない、と手を振りながら、潔子と屋良が席を詰める。空いたスペースに根間が座り、店員さんが持ってきてくれたお水を一気に飲み干した。注ぎ直した後立ち去りかけた彼女を引き止め、彼は前回と同じ注文をする。どうやらあのハムとチーズのサンドイッチが気に入ったらしい。随分注文が早いなと言った屋良に、そう返していた。


 根間は青乃ちゃんの前にあるチョコレートケーキを見た後、器用に片方の眉のみを上げて、あたしに目線を送ってきた。そんな顔でこっち見んな、あたしがそれを苦手だとしていることがバレるでしょうが。口をへの字に曲げて、無言で意思を表示する。

 そう、青乃ちゃんはチョコレートが好きだから、あたしも気を遣って彼女の前でそのケーキが嫌いだと言ったことがなかった。チョコレート自体は嫌いじゃないから、わざわざ言うほどの事でもないと思っていたしね。食べ合わせっこをしたって、たかが一口だから、我慢できると思っていたし。……さっきまでは。


 皆で彼がいない間に決まったことを話し、確認を取る。運よく何も問題がなかったようで、報告はつつがなく終了した。日程は、皆がシフトを入れる前で一番近い土日ということになった。

 学校もまだ試験が終わっていないから、教職に必要な科目を取らなければいけない根間は大変そうだ。三年生ともなれば、資格に関する科目を取っていなければ、時間を持て余すくらいなのだけれどね。どっちが良いのかは、今は判断がつきかねるけれど。人による、ってやつかしら。


 決めようと思っていたことは大体決まり、その後は大学の教授や同級生たちとの人間関係についての愚痴が多くなる。いつどこに居たって、他人と関わる以上悩みは尽きないようだ。

 説明に色々と嘘を混ぜないといけなくて面倒だから、鼻歌君たちの愚痴を皆に言うわけにもいかないけれど。あたしの嫌だという負の感情は、皆の話を聞く限り、ありふれたものだなと感じる。だからと言って我慢できるか、と言われれば答えはもちろんノー、なんだけれどね。


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