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僕らは護られていた  作者: 齊藤さや
第一章
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新たな街へ

 なんだか眩しい。ランタンの灯は消えたはず、と俺はしぶしぶ()()()()()

 そこでふと気づいて頭に手をやる。しまった、俺は眠ってしまったのか。そして眩しいのは顔を出した太陽の日射しだった。つまり今はちょうど夜明けな訳だ。

 もしや誰かに何か盗まれたりしていないか、と慌てて荷物を確認する。

 ……どうやら無事だったようだ。ロズも相変わらず気持ち良さそうに寝ている。風邪などひいてないといいが。毛布を持ってくるんだったな。


 伸びをするついでに立ち上がって周辺をぐるりと見てみる。遠くの方にポツポツと木が生えているだけだ。この先の道は上り坂になっていたのであまり遠くは見えない。


 少し体を動かしただけで、お腹が情けない音を立てた。ロズが起きるまで朝食は待つけれど、一口だけパンをつまんだ。パンは荷物の底で潰れてしまっていた。そんなことお構いなしに食べ物は美味しい。



 さて、ロズが寝ている間にできることは無いかと辺りをうろうろしていた時、不意に何か音が聞こえてきた。先の道からだ。聞き慣れない音で、カポカポとでも表現しようか、それがだんだんと近付いてくる。


「ロズ、起きて! 何か来る!」


 俺は慌ててロズを起こした。ロズは眠たそうに目を擦りながら俺に尋ねた。


「どうしたの? そんなに焦って」

「変な音がするんだ。しかも近付いてきてる」


 俺は取り合えず右手で短剣を構える。耳をすますとロズにも聞こえてきたようで、顔が一瞬で険しくなった。俺の右手のせいでもあるかもしれないが。二人で息を飲んで固まっていると、次第に坂の上から姿が見えてきた。

 初めに茶色い先端が二つ現れ、足の先まで確認できるようになった時には流石に何なのか分かっていた。


 馬だ、しかも二頭引きの乗り合い馬車だ。存在は知っていたけれど俺達二人とも見るのは初めてだったのだ。ツェベンとベギンス村の間にある唯一の道だったスペックトフォレストは、どうも馬が走るには木が多すぎたらしく、馬車は無かったのだ。村でも酪農はやってなかった。

 気が抜けた俺達は、顔を見合わせて笑った。勿論短剣は鞘に納めた。


 馬車は速度を落として、俺達の前で止まった。日除けのつばの大きな帽子を被った馭者(ぎょしゃ)が話し掛けてきた。


「坊っちゃん達乗ってくかい?」

「いえ、俺達は向こうの街に行きたいんで。歩くとどのくらいで着きます?」


 俺は指を指しながら尋ねる。あるのかどうかも知らないのだけれど。


「あぁ、"チェクマ"へ行きたいんか。それなら馬車で二時間もかからんさ。でも坊っちゃん達気を付けなよ。あんまし大きな声じゃ言えねえけど、ちょいと荒れてるからさ」

「親切にありがとうございます」

「礼は帰りにでも馬車に乗ってくれりゃあいいさ」


 馭者は手綱を引くと、片手を上げながら去っていった。

 街が荒れているなら、尚更身の回りのことやらに気を配らなきゃいけない。目下の()人間(・・)ということか。


 俺達はその後、パンを食べた。ロズも一個をペロリと食べていた。どうでもいいがロズのパンはつぶれていなかった。兎も角、元気そうでなによりだ。

 そして教えてもらったチェクマという街を目指して、また歩き始めた。誰かとすれ違うことは無かったが、先程とは別の馬車が一台、ツェベンの方向へ通っていった。こうなるなら初めから馬車で行けば良かったと思ったし、多分ロズも同感だろうが、お互い口には出さなかった。知り合いと相席になったら気まずいだろうし。うん、そうに違いない。


 昼頃に休憩を取ったが、周りの風景も変わり無いし、特筆すべきことといったらやはり馬車のことしか無い。ツェベンの方からも数台通過した。その度に馭者が声を掛けてきた。もう少しで着くはずだし、ロズも歩くと言うので乗せては貰わなかったが。



 太陽がだいぶ傾いてきた頃、ようやく街が見えてきた。入り口に街の名前を示す看板が立っているようだが、よく読めない。上からなんどもカラフルな塗料で上書きされているからだ。しかも書かれている文字はそれぞれ異なり、元の木の板の色が見えないほど文字で埋め尽くされている。教えて貰ってなかったら『チェクマ』という名前だとは、この看板からは分からなかっただろう。

 また、街からは活気の良い声……良く言えばそう取れるのだろうが、怒鳴り声に近いものが絶えず聞こえてくる。


「ここに入るの……ね?」

「そうだな。宿にでも泊まりたいし……」


 ちょっと尻込みしてしまう。だがこんなところで怖がっていてはあの怪物達などには立ち向かえない。ロズにはまたフードを被ってもらい、俺を先頭にして中に入る。

 宿を探しつつ先へ進むが、みな俺達のことは見向きもしない。けれど、屈強な人々が道端で喧嘩をしていることがあるので、こっちは当たらないように周りを見ていなければならなかった。


「ロズ大丈夫か?」

「なんとか。通りをもう少し行った右側に宿っぽい建物があるね」

「本当だな。行ってみるか」


 ロズが見付けてくれた『クララの宿』は、俺達がいたカディナさんの宿よりも綺麗とは言えなかった。けれど素泊まりで二人で400ポルで良いらしいのでこの宿に泊まることに決めた。さらに話によるとこの宿のすぐそばに大衆食堂があるそうなので、そこで夕食を食べることにした。



 奥へ歩くとアルコールの匂いが辺りを漂ってくる。この国では十六歳からお酒が飲めるので、一応俺は飲んでも問題ない。だが今まで飲んだことは無いからアルコールの匂いには敏感だ。酔っ払いの醜態を散々見てきたから俺も同じようになりたくないのかも知れない。


 だから今もまた良い予感はしなかった。教えてもらった目の前の食堂が、おそらくこの匂いの元だろうからだ。これじゃあ酒場じゃないか。


「ロズ、ここでいいか?」

「私は平気よ。こういうの慣れてるし」

「そっか、接客してたからな。ただ気を付けような」

「うん」


 そんな会話をしてから、沢山のキズが付いた店のドアを開けた。

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