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僕らは護られていた  作者: 齊藤さや
第一章
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川を渡ろう

 二人用の部屋だからベッドは二つしか無く、俺は(ゆか)に寝袋を敷いて寝ていた。俺が起きた時にはまだ二人とも起きてはいなかった。それもその筈だ、床だから寝心地が悪いとかではなく、俺が昨日はふて寝とかしてたから睡眠時間は十分取ったんだから。船が何時(いつ)から出てるのか知らないけれど、今から起こす必要は無いだろう。

 ここのところご無沙汰していたナイフ研ぎをすることにした。リュックサックから砥石を取りだして、ナイフをベルトに付いた鞘から抜く。鈍い光が復讐の心を思い出させる。

 シュログと会ってからずっと和やかだったな。最初からベギンス村でこんな日々が続いていればどんなに幸せだっただろう。けれどそんなことはもう叶わない、ただの想像に過ぎなくなってしまった。

 辛い思いをするのは、俺達二人で十分なんだ。一体吸血鬼のやつらはどこに隠れてるんだ。早く正体を現しやがれ。




 全員起きてからクララさんの宿を後にし、チェクマを出ていた。昨日まで出歩くのも(はばか)られるほど人で溢れていたのに、通りは至って静かだった。眠そうなシュログ曰く、「ヤンキーは朝が苦手なんや」ということだ。

 立て看板のとおりに広川(サロ・リブラ)を目指して歩き出すが、馬車が多い。それも人が乗るのではなく荷馬車だ。俺達はちょくちょく端に避けなければならなかった。けれども距離があるわけではなく、三人とも疲れる前に川へと着いた。


 ここまでは順調だった。天気は良いし風もさほど吹いていない。川は俺が想像していた以上に川幅がとても広く、対岸が遠くてよく見えない程。そして流れが緩やかだ。船に乗ろうと言っていたのも頷ける。俺もロズも泳いだ事なんて無いけれど、例え泳げていたとしても船に乗る方を選ぶ。


 ……そう、乗れるならの話。俺達はシュログの勧め通りに大きめの帆船の乗り場へと向かった。何でも大きい方が船酔いしないそうで。大きな建物に入ると、数人が船を待っていたので運行もしているようだ。けれども俺達はこの船を断念せざるを得なかった。

 運賃がめちゃくちゃに高いのだ。馬車の四倍はあろう。今の所持金では一人ですら乗れない。


「シュログが借金返済に充てるからだ」

「すまんって言うてるやんか」

「シュログが使わなくても三人は乗れなかったんだから、別の船を探しましょ」

「せやせや、喧嘩してもお金は戻って来ぉへんし」

「シュログが言うことじゃない!」


 二人で睨みあっていると、ロズがすたすたと先に行ってしまっていた。慌てて追いかけると、ロズは一軒の木造の小屋の前で立ち止まっていた。


「ロズちゃん、幾らなんでもこのボロ……」

「ここなら三人丁度乗れるね。手漕ぎ船らしいけど仕方無いわよね」


 シュログの抗議も流され、ロズは小屋の扉を開けて入っていった。きっと俺達に呆れているのだろう。俺は別に渡れれば良いのだが、シュログは明らかに渋々といった表情だ。

 小屋の中には背の丸まった中年の男性がいた。格好はお世辞にも綺麗とは言い難い。


「船出してもらえますか?」


 ロズはお金を手に乗せて見せながら言う。男性はロズの手からお金を引ったくると、手を擦りながら答える。


「勿論ですとも、お客さま。私めはサギと申します。船はこちらにございます」


 手招きして奥の扉を開ける。ギシギシ鳴るのがどうも不吉だ。扉の先は既に川と繋がっていて、船が一艘繋いであった。船……と言うか木の板で出来た小舟で、底こそ抜けてないものの、正直いつ沈んでもおかしくなさそうなほど頼り無い。船内には棒が二本置いてあった。


「この二本のオールで漕いでいただきます。なにぶん私めは高齢なもので日に何度もは漕げません故、お客さまご自身でお願いします」


 そう告げると、早速ロープを解いて出航の準備に取りかかった。


「なぁロズちゃん、ほんまにこの船で行くんか? もうちょっと、もうちょっと探したらもっと良さげな船あるんやないか?」


 小声で聞くが、ロズは船を指差すだけ。流石に壊れそうなこの船に乗るのは俺も渋っていたが、船上のサギさんは早くしないと出航するぞとばかりに手招きを繰り返していた。シュログの背中を押して、怖々乗船する。一人乗る毎に大きく揺れたが、転覆――後で聞いたが船がひっくり返ってしまうことらしい――はしなかった。ただ四人一列に座るのが精一杯で、漕ぐ関係で俺とシュログは真ん中に座っていたがロズなんか「大丈夫」とは言っていたが川に落ちそうだ。


「このまま真っ直ぐ進めばヴィレタレアンの国境へ着けます。方向は私めが指示致します」


 俺は右、シュログは左と片方づつオールを持って、おしえられたとおりに漕いでいく。シュログの方が力が強いから度々進路が右を向いてしまう。漕ぐ早さも俺の方が遅いためシュログがタイミングを合わせて漕いでくれた。けれど次第に慣れてきて、スピードアップ出来るようになった。ただ速くするとバランスが

崩れやすくなり、他の帆船が立てる波で転覆しかける。しかし判断はサギとロズに任せて、二人で漕ぎ続けた。


 腕がパンパンに膨らんで痛くなった頃、ようやく岸が見えてきた。停留場に乗り付けると、サギさんに急かされるままさっと降りた。ただシュログが、自分の後ろに乗っていたロズを先に下ろしてから最後に降りようとしたのだが、どうもバランスを崩したようで視界から一瞬消えた。幸い転覆はしておらず、シュログがずぶ濡れになっただけで、怪我も何も無かったから良かったが。


「シュログの髪台無しだな」

「それより服の心配せえよ服!」

「もう買うお金無いから我慢して」

「二人とも冷たいなぁ。川の水より冷たいわ」


「ええ賑やかな所ですが、私めは失礼致します」


 サギさんはやりすぎなくらい深くお辞儀すると、ひょいと船に乗って軽々(・・)漕ぎながら帰っていった。

こうしてヴィレタレアンに着いた三人は、あちこちで吸血鬼について尋ね歩いた。だがみなから嘲笑されるばかりで一向に情報は得られない。やがて何ヵ月か過ぎたが彼らは今日も吸血鬼を探し旅をしている。いつか復讐を果たすその日まで。――完










……という手の込んでないエイプリルフール←

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