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二度目の、おはなし。  作者: 白黒音夢
知っていく。
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知っていく。太田海編1

掲載の仕方をちょーっと変えます。短い文章でもできるだけ毎日掲載しようかと。




 季節は緩慢に進んでいき、寒さの強まる神無月の半ばへと突入していた。既に前期期末考査も過去の出来事となっており、気を張り詰めていた反動なのか、周りの生徒達が醸し出す空気は緩いモノへと変化させていた。勿論俺自身もそうだ。

 しかし一ヶ月も経たない内に学祭本番になる。また空気は変わっていくのだろうけど、所詮はイベントだから楽しんで行う者達がほとんどのはずだ。

 それにしても寒いな。このまま冷え込んでいけば学祭の頃には温もりが恋しくてたまらなくなるだろう。個人的にはという前置きを付けるけど、売れ行きは抜群になるような気がするから、出す料理を煮込みモノにして正解だったと思う。

 遠野さんから助言された言葉が脳裏で思い出された。

『そうだなあ。……この前作ってくれたポトフとか、煮込み料理系なら良いと思うよ?』

 優しげな声でそう呟いたのを俺はまだ覚えていた。なんてことのない言葉の一つ一つを、未だに俺の頭で再生できる。

 思えば初めて遠野さんの家に行った日、俺が料理を作っている間に彼女は寝てしまったのだった。自宅に異性を上げておきながら寝入ってしまうとは凄い女性だなあと感心してしまいそうになったけど、それは違っていたと思う。

 課題を一問解く度にチラチラと彼女の表情を伺ったが、遠野さんは本当にぐっすりと眠りこけていたのだ。まるで幼い子供のように安心しきっている様子だった。

 寝息を立てる遠野さんを西日が照らしており、薄茶色の髪が透けて金色に輝いていた。

 何もかも、透けてしまうんじゃないかと思った。

 そこで俺はようやく遠野さんの本質を理解したような気がしたのだ。沢山の感情を持っているのではなく、大切な何かを喪失してしまった女性なんじゃないかと。

 そしてその『喪失してしまった女性』というフレーズが俺の琴線に触れたのだ。理由なんて分からないし、分かったとしてもそれは後付けなのだろうとは思うが。

 気が付けば、好きになっていた。

 だけど相手は住んでいる世界の違う社会人だ。どれだけ想いを積み重ねようと届くわけがないと思っていたのに、互いに心を許し始めていた。色々な価値観が符合していたからか、少しずつ懐に入っていけたと思う。

 なのに――

 腕時計が、俺たちに何かをもたらした。それから遠野さんはおかしくなった。何か余裕がないように感じるし、はっきりと言ってしまえば危なげだ。

 腕時計を付けていない俺は求められていないのだろうと分かっているけど、遠野さんがそれでいいのであれば……。

 駄目だ。俺に余裕がない。遠野さんがどうのこうのじゃなくて俺が危ない。

 大事なのは一つなのだ。遠野さんに疑問を尋ねるか尋ねないか、ただそれだけなのだ。



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