ご学友と書いて腐れ縁と読む。~セレスティア=マゴットの一週間~
コメディーのつもりですが、口が悪く、(軽めで?)殴ったりするシーンが入っています。苦手な方はご注意ください。
事の発端はまあ、些細なことだった。
いつものようにご学友こと、腐れ縁の四人で飲んでいた時の事。
「少し席を外す」と、言って出て行ったエリックを見送ってすぐその話題はふられた。
「なあ、最近リックの奴、俺たちにつれなくないか?」
そう言ったのは、ジェフリー。
銀色の髪に青い瞳。切れ長の細い瞳は見る者を虜にする「青の貴公子」と言われているが、ご学友から見れば、「口減らずのジェフ」の方がしっくりする。
「確かにそうね。金づるなんだから付き合ってくれないと困るわ……」
頬に手を添え、ふうと溜息をつくのはパトリシア。
華奢な体躯に透き通るような白い肌。そして、ウェーブのかかった桃色の髪。
その見た目と言葉の内容が全く合わない彼女は「歩く毒舌令嬢」と呼ばれている。
「まあ、リックも忙しいんじゃない? あれでいて王子だし」
これはあたし。
この三人になるとあたしは比較的まともな事を言っている気がする。
なんていうか、働きアリの原理みたいな?
エリックがいない時は、そういう役回りになってしまうのよね。
「王子でも、俺達との時間は大事だろ? あいつには今度酒を用意してもらおうか」
「それいいわね。わたくしは、宝石でもねだってみようかしら」
「まあ、そうだとは思うけどさ……。宝石と酒は好きにしなよ」
さりげなく物品をたかろうとしているが、この二人は上位貴族でお金には困っていない。
まあ、趣味みたいなもんである。
ちなみにあたしは、物欲がないのでパス。
多分……いや、絶対これを傍から見たら不敬罪とかいろいろ言われそうなんだけど。
しかしながら、あたし達に相手が王子だとかそういった観点は存在しない。
ジェフリー、パトリシア、セレスティア(あたしね)、エリックの四人は所謂ご学友というやつだ。
そんなあたし達は小さなころから共に勉強を……と、いうか年相応なお遊びをして過ごした。
実際、ご学友じゃなければなんかの罰ぐらい受けたかもしれないが、まあそこは許容されたようで。
あたし達は周りからとやかく言われる事無く、まっすぐに育ち今や立派な悪友となっている。
それは周知の事であり、陛下からは『悪ガキ四人衆』と未だに呼ばれていた。
もう、歳だけ見れば子供ではないのだけどね。
そんなこんなで愚痴をこぼしている時、ジェフリーがポケットを探った。
「……と、いうわけで! こんなもの持ってきた!」
ジャンっと言わんばかりに取りだしたのは手のひらサイズの小瓶。
茶色の小瓶にはラベルがついていない。そのかわり、注ぎ口の引き締まった部分にピンクのリボンがついており、その見た目で秘薬的な何かだと察する事が出来た。
「なんか面白そうな気配がするわ」
パトリシアが二ィッと令嬢らしからぬ笑みを漏らす。
あたしは瞬時にそれがエリックにとってやばい物だと察知した。
この会話の流れで餌食になるのはエリックに決まっている。
でも。
「たしかに、面白そうな気配がする」
あたしは話に便乗した。
そう、あたし自身も止める気などなかったから。
だって不満に思っているのは、なにも二人だけじゃない。
さっきはフォローするような事を言ってはみたけれど、あたし自身も不満に思っているのだ。
小さい頃からご学友といって四人でつるんでいたあたし達。
今さら忙しいとか言われたり、何故か目線を逸らされたりするのは納得がいかない。
今だって、なんで席をこんなに外しているのか気に入らないのだ。
「で、なんですの? それ?」
興味津津と言ったようにパトリシアが身を乗り出す。
それを面白そうにジェフリーがニッと笑う。
「これは、性格が緩やかーになる薬」
「は? なにそれ?」
「緩やかって?」
疑問符を浮かべるあたしとパトリシアにジェフリーは「聞きたいか?」と、意地悪い笑みを浮かべる。
「これは、ヘタレる薬だ」
「ヘタレ?」
「そう、ゆるゆるーく、ヘタレる薬」
「って、つまり……」
「あのクールで気取った態度をぶち壊すってわけだ!!」
ジェフリーが指をパチンと鳴らし、片目をつぶって見せた。
「「ナイス!!」」
あたしとパトリシアは声を上げ、お互いの顔を見てニヤリと笑った。
「最近クールぶってるものね、リックったら」
「そうだね、前はもうちょっと小動物みたいなとこあったのにね」
「だろー? 今のあいつには可愛げがない!! だから、可愛げをプラスしようって作戦!」
あたしたち三人は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
だから未だに悪ガキだと言われる理由だが、そんな事は気にしない。
「じゃあ、リックが戻ったら酒の中に混ぜるぞ」
そう言ったジェフリーにあたし達は頷く。
今、思えばここで反対しておけばよかった。
そう思う事が後の祭りだなんて、わかっちゃいるけど、悔やまれてしょうがない。
しばらくするとエリックが戻ってきた。
何故かエリックはあたしを見ていた。が、あたしがその視線に気がつくと、すぐにプイッと視線をそらしてしまう。
…………納得がいかない。
きっとそう思うのはあたしだけじゃないはずだ。
時々何かの視線に気付き、そちらを向くとエリックが傍にいる事が多い。
にもかかわらず、何を言う訳でもなくプイッと顔をそらせるのだ。
あたしに文句があれば言えばいい。
そういうのを気軽に言い合える仲のハズなのに、この反応は気に入らなかった。
あたしは訊ねた。「言いたい事あるの」と。しかし、答えは「何でもない」。
イライラした。
ヘタレたら一番にからかってやろうと思っていた。
だからあたしはエリックの隣の席に座り、いつもより傍に寄ってみる。
すると、エリックはあたしの隣が気に入らないのか落ち着きなくジワリとお互いの隙間を開けた。
あたしはその動きが気に入らなかった。
だから、必要以上にエリックに近づいてやった。
すでにあたしは臨戦態勢。さあ、いつでも来い。
そんな事を思っていたら、床についていた手にそっと温かい物が触れた。
ん?
なんだ?と、思って手をみたら、温かい物はエリックの手だった。
重ねされた手や指が自分よりも大きくて驚いた。
だって子供の頃は同じだった手が、握ったりしなくなったこの数年でこんなに変わるなんて。
あたしが一人感慨深く思っていると、その手が優しく握られた。
意味不明だった。
なんでここで手を握るんだ?
ああ、多分あたしの手だとわかっていないんだな。
そう考え、エリックに言おうと思った瞬間。
コトン……
その音を聞いて、あたしは顔を上げた。
机の上にはエリックが使っていたであろうグラスが横倒しに転がっている。
あたしはすぐにエリックの方を見た。
すると何故かエリックもあたしを見ていた。
でも、いつもと違って顔をそらせない。
翡翠色の瞳が潤むように揺れ、何故か顔に朱がさした。
そして急に手を広げたかと思ったら、
「好きだ!! セレス!」
そう叫んでギュっと抱きしめてきた。
あたしは固まった。
まさに石のようになり、頭の中は真っ白になる。
あたしは聞こえた言葉を理解する前に、ギコギコと油を切らした車輪のような動きでジェフリー達を振り返った。
その動きに気がついてか、ジェフリーはポケットから小瓶を取り出す。
小瓶についていたピンクのリボンが無くなっていた。
あたしが薬を使ったのだと理解するのと同時に、ジェフリーは小瓶をまじまじと見る。
そして、ハッとした顔をしてパトリシアに小瓶をみせた。
すると二人はお互い顔を見合わせたかと思うと、両手をパンっと合わせ、祈りを捧げる様な真似をした。
なんだ、そのポーズは。
と、思ったが意味だけはわかった。
『ごめん』
って!
あたしはプチンと切れた。
「ごめんですむかっああ!!」
「ぐえ!!」
「パティ! リックより酒だ! 酒を床に落とすなぁ!!」
「無論ですわ!!」
四人の声が上がり、あたしは拳を振り上げたポーズで止まる。
エリックは吹っ飛び床に転がるが、一緒に吹っ飛んだ複数のワインのボトルはパトリシアとジェフリーにより無事保護されていた。
四本以上吹っ飛ばしたのに、何故か曲芸のようなポーズで全てをキャッチした二人。
こいつらは多分家を勘当されてもやっていける気が。
……が、そんなことより。
「ジェフ!! あんた、ごめんじゃ済まされないわよ!!」
「でも、それしか言えん! 間違えたごめん!!」
「素直は美徳だけど、今回は美徳ってだけでは勘弁できないわ!」
「いや、でも……あ、リック」
え?
と、あたしが振り返ろうとしたらそのまま後ろから抱きすくめられた。
「セレス、好きだよ。結婚しよ?」
むぎゃあ!!
背後から甘い声で囁くな!!
しかも耳元!!
エリックがしゃべるたびにかかる吐息がくすぐったい。
ついでにいうなら、首筋にふれる金髪もなんとかしてほしい!
「リック!! 目を覚まして!!」
「目? 目は覚めてるよセレス。 折角君がいるのに、眠るわけないじゃないか」
半ば叫ぶように話すあたしに、甘い言葉を囁くエリック。
ひぃぃぃ!!
さ、砂糖が、砂糖がエリックの口から精製されている!!
「それとも、今日は一緒に眠る? 俺はいつでも歓迎だ」
その声が聞こえたと同時に耳の後ろに柔らかい物が触れた。
キスされた。と、いうのは見なくてもわかる。
あたしは問答無用でエリックに足払いをかけた。
体勢の崩れたエリックにそのまま背負いこむように身体を丸め、投げ飛ばす。
「きゃあ! セレスお酒がもったいないわ!!」
「セレス!! 酒は大事にしろ!!」
「うるさい!! あたしはそれどころじゃない!!」
あたしは、息切れしながらエリックを見下ろす。
無理な体勢で投げたが、受け身は取れたようであまり痛そうにしていない。
ホッとしたのも、束の間。
まるでゾンビの如く起き上がった、エリックはあたしを見て目を細めた。
「好きだよセレス。 こっちにおいで」
「いくかぁああ!!」
あたしは一目散に逃げ出した。
こんなゾンビと組みあってもあたしの体力が持たない。
部屋から出る時、床に転がった茶色の小瓶が見えた。
しかし、あたしはそのまま部屋を後にする。
もはや何の薬と間違えたなんて聞く必要もなかったから。
翌日。
「結婚して! セレス!!」
「ぎゃあ! 来るな!!」
「そんな事言わないでセレス」
「わ、わっ! 抱きつ……」
「好きだよ、セレ……」
ゴスッ!
「……おーい、セレス、リックー……って、おい! リックの顔が減ってないか?」
「……面積的には減ってるかもね」
「ぎゃぁぁぁぁ!! 殿下のお顔にセレスお嬢さまの肘がめりこんでる!!」
さらにその翌日。
「ゴミの日っていつだっけ?」
「まあ、セレス。ただのゴミにしてしまうの? 使えるモノはしっかり使わないと」
「しかし、こいつをリサイクルに出すと面倒じゃない。利用されると国が傾きかける」
「それもそうねー」
「…………誰か、いま土にめり込んでいるヤツは王子だと教えてやってくれ」
さらにさらに翌日。
「ところでさー」
ドスッ
「この薬」
メシッ
「いつ切れるの?」
ドォンッ……
「うぉおっつ! リック! 大丈夫か!? 医者! 医者を!!」
「そう言いながら、何顔に落書きしてんのよジェフ」
「ああ? そこに油性ペンがあるからに決まってんだろ」
「……(ポケットから出してたじゃん)」
そして――――
いつ終わるかわからない告白週間は六日目を迎えた。
正直あたしはぐったりしていた。
毎日のように告白され、そして、追い返すやり取りにだんだん疲れてきたのだ。
ちなみに今日はまだ来ていない。
たしか、国賓が来るとかの話を父上から聞いた気がするので、おそらくそちらに参加しているのだろう。
是非、国賓様に頑張っていただいて今日ぐらいは静かに暮らしたいものだ。
……と、思っていたのに。
「やあ、セレス」
「ごきげんよう、セレス」
ジェフリーとパトリシアはあたしを放っておいてくれなかった。
「なあセレス、俺思うんだけどさー。リックのなにが嫌なの?」
三人で茶を飲み話し込んでいた中、突然ジェフリーがそんな事を言った。
あたしはすぐにしゃべろうとして、そして、言葉に詰まった。
頭の中でその理由に相応しい言葉を探したが、どうもいい言葉が浮かばなかったからだ。
「あら、嫌な理由がないの?」
ニヤニヤと楽しむように笑みを浮かべるのはパトリシア。
その顔を見て何か答えねばと思うが、その思いとは裏腹にちっとも嫌な理由が思い浮かばなかった。
「おおっと!! 天下のセレスティア嬢ともあろうお方が、言葉に詰まるとは!!」
「からかうなジェフ!! 嫌な理由なんてなんでもあるだろう!」
「へぇー。それはなんですの? セレス?」
二対一。
しかも相手は口減らずのジェフに歩く毒舌のパティ。
圧倒的に不利だった。
「まあ、なんだ。あのハイテンションにはついていけない」
「リックは元々クールだろ?」
何言ってんだセレス。
そう言ってジェフリーが笑う。
言われてみればそうだ。
最近の行動が濃すぎて忘れていたが、エリックは馬鹿騒ぎするあたし達のストッパー役。
あのテンションは本来ではありえない。
「じゃあ、プレゼントがいらない」
「まあ、セレス。物に罪はないわ」
プレゼントなんて換金してしまえばいいじゃない。
そう続けたのはパトリシア。まるで、理由になりません。と、言っているように聞こえた。
「う、う……あ、そうだ。
あのしつこさは嫌だ!! うっとおしい」
「「思いを受け入れてあげれば大人しくなるよ」」
ジェフリーとパトリシアが声を揃えて言った。
ってか、なんでこうも悪い顔をしている時には動きが同じなのかな。こいつら。
「思いを受け入れて……て、そんな簡単に……」
「いいじゃないか? なあ、パティ?」
「そうね。下手に断るより頷いてしまえばいいのよ」
「んな、無責任な…………」
呆れ顔のあたしに、パトリシアはキョトンとした顔を浮かべる。
「無責任ってあたりまえじゃない。ね? ジェフ」
「そうだな」
問いかけられたジェフリーも、頷く。そして
「「だって、責任取るのリックだし」」
「…………」
いや、わかってたよ。
あたしだって、長年ご学友な訳だし。
ただ、こうも勝手を言われると、あたしが……と、いうよりエリックが気の毒になってきた。
エリックは不可抗力で薬を飲まされ、挙句毎日あたしに付きまとい、殴られるという不憫な状況だ。そのうえ、下手に承諾して責任を取らせるのは……
「その顔はリックが、かわいそーって思ってる?」
「あら、そんな顔ね。だったら、受け入れてみたら?」
「…………なんかホント、リックが可哀想になってきた」
ボソリと呟くと、ジェフリーとパトリシアは首を傾げる。そして、お互いの顔を見合わせ、
「「でも、一番可哀想な事してるのは……」」
セレスだよ。
そうジェフリーとパトリシアは声を揃えて言った。
意味がわからなかった。
可哀想な事をしているのはあたし?
毎日殴るから?
でも、しかたないじゃない。そうでもしないと離れてくれないのだから。
「ねえ、セレス。さっきも言っていたけれど、リックが嫌なのかしら?」
「……嫌というか、あれは薬のせいだろ? まともに返す方が……」
「なんで、薬のせいだと思うんだ? セレス?」
「え? だって、薬を間違えたんだろ??」
あたしの問いにジェフリーが目を細めた。
静かに微笑む青の貴公子様はまるで諭すように言葉を紡いだ。
「ああ、間違えた。けれど、セレスはなにと間違えたと思ってる?」
あたしは小さく「…………惚れ薬」と、答えた。
すると、ジェフリーの微笑みがぺリッと音を立てて剥がれ、
「は? 俺、惚れ薬と間違えたなんていったか?」
と、言った。
あたしは開いた口がふさがらなかった。
その横で、「そうね、『薬を間違えた』とは言ってたけど惚れ薬と間違えたとは言ってないわ」と、パティの声が聞こえる。
「あ、え……っと?」
頭の中で理解が追いつかない。
あたしは事を順立てて追ってゆく。惚れ薬という大前提が崩れ去った今、残された答えは。
「……あれ、本気ってこと?」
「と、思って考えてあげたら?」
「そうそう。あんだけ言い寄ってくるのに、ウソだったら国宝でもぶんどってやればいいのよ」
相変わらずパティは物騒な事を言う。
でも、たしかに冗談なら本当に国宝を奪ってもいいとあたしは思ってしまった。
ずっと惚れ薬のせいだと思ってた告白。
そう思っていたから、特に何を思う訳でもなく断り続けていた。
ただ、そんな告白を疲れるように感じていたのは中身が伴わないと思っていたからだ。
そんな今、中身がある告白だったとしたら…………
「…………いずれにしろ、疲れるね」
「……まあ、そこは否定しない」
「迷惑料をもらえばいいのよ」
やっぱり、惚れ薬って事の方がエリックにとってよかったのではないかと、あたしは思った。
告白が始まって一週間。
「セレス! 会いたかった!」
一日ぶりの甘い声。
砂糖を精製する口は一日経っても変わらなかった。
「はいはい」
あたしはいつものように返事をする。
このやり取りは正直飽きたのだが、とにかく間合いを取って返事をしないと突撃してくるからしょうがない。
「セレス! 好きだ!!」
「はいはい」
あたしはやっぱり同じように返事をする。
エリックの後ろにジェフリーとパトリシアの姿をみて心の中で舌打ちをした。
今からやる事を見られるのは少々しゃくだったが、まあ、あたし達はご学友だからしかたない。
「セレス……」
「はいはい」
「好きだよ?」
「はいはい」
「どうして、いつも『はいはい』なんだ!!」
「はいはい」
あたしは再三同じ解答を返す。
エリックは少しいじけた様な顔をする。
ここまではいつも通り。
でも――――……
「…………セレス、結婚して」
「はいはい」
「!!!!」
エリックが固まった。
あたしはいつもの返事を繰り返しただけ。それなのに、エリックの白っぽい肌がゆでダコのように真っ赤に染まる。
口はパクパクしてるし、なんかもう、クールって言葉を返上した方がいいぐらいに狼狽していた。
「セレス……あの、結婚して?」
「はいはい、いいよ」
「!!」
フリーズ再び。
今度は完全に止まってしまった。
今のやり取りを静観していたジェフリーとパトリシアが傍までやってきて、固まってるエリックを撫でるように見回す。
「おーい。リック大丈夫か?」
「まあ、立派な彫刻ね。王子の彫刻、限定一体なら高く売れるわね」
「おお。いいなそれ。じゃあ、パッと飲みに行こうぜ。いいだろ? セレス?」
「いいわよ。迷惑料だもの」
「…………って、セレス! 俺を勝手に売るな!!」
エリックの口調が完全に戻っていた。
甘ったるい声じゃなくて、いつもの鋭い声。
なんだか久しぶりに聞いたので、ちょっと懐かしくてポロっときてしまった。
「は? な、なんで泣くんだよセレス……」
「泣いてない。ゴミに決まってる」
「おい、リック。セレスを泣かせるなんて、お前も命知らずだな」
「セレス、ちゃんとお代は頂くのよ。それで三人で飲みに行きましょう」
「……わかった。三人で行こう」
「…………なんで、俺は仲間外れなんだ?」
そんな事を言いながらも、エリックはあたしの方をチラチラ見ている。
視線を感じたって今までは、そういった意味で見られているだなんてちっとも思わなかった。
(あたしも、随分と自惚れ屋になったもんだ)
そう思いながらも、ポロポロと流れる涙は止まらない。
なんだか泣いている自分が恥ずかしかった。
それでも、あたしは泣いてる理由をゴミだと言い切る。
告白が惚れ薬のせいじゃないとわかって泣いたなんて。絶対教えない。
お読みいただきましてありがとうございます!(*^_^*)
また別キャラで短編を書けたらなぁと企み中です!