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序章

その日、唐突に世界の平和は音を立て崩れ落ちた。


かつて、勇者との戦いに敗れた魔王が封印されたといわれている勇者の剣が自らを暗黒騎士と呼ぶものに抜かれたというのだ。


たちまち世界は瘴気で満ち溢れ、魔物が跋扈するようになった。


魔物たちは自らの王を再びこの地に降ろすために


当然、魔物たちは怨敵である人類にその牙を剥いた。


人類は必死の抵抗で、魔物たちに戦いを臨んだが、長年の平和で戦い方を忘れた人類に勝ち目はなく、なす術もなく虚しくも、なんとか種族存命の道を探すのみであった。


かつては豊かに萌える春の花々の芽も、今は見る影もなく踏みにじられ、うなだれるように折られた首はなんとも悲壮感と絶望感に陵辱されている。


大地は荒廃し、あたりは腐敗した臭いで立ち込め、地核が崩れたせいでむき出しになった溶岩により灼熱の大地となり、一呼吸しただけで肺を焦がす。


蒼い記憶を宿していた空は、今では見る影もなく穴の底を覗いてるかのように鈍色の黒が覆い尽くす。


世界は深い絶望が支配していた。


人類は東の果てを決戦の地に、存亡をかけて魔物の軍勢に最後の抵抗を仕掛けた。


東の果ての地には邪知暴虐の限りを尽くす魔物の軍勢と、それを向かえ討つために世界の各地から全勢力をかけて集められたで犇いていた。


魔物の軍勢はそれぞれに下卑た笑みを浮かべ、その獰猛な瞳には邪悪な願いの炎が揺らめいている。


魔物たちが一歩を踏み抜く度に、大地と空気は怯えるように震える。風はその悪意が憑いたかのように悲鳴を上げ、吹き荒れ、その荒々しい様子はまさに悪鬼そのものだった。


人間側はみな怯え、不安、恐怖がどの人の目にも宿っている。あるものは足がすくみ、またあるものは神に祈り、またあるものは絶望して人類の敗北を反芻している。そんな様子を見かね、彼らを束ねる兵士長が強く叱咤激励し、彼らを勇気付けた。


彼にだって内に秘める恐怖があるだろう。しかし、彼の家族、恋人、そう守るべき人たちのことを思い、彼は自らを鼓舞する。


弓の準備の指示が上がると、兵士たちは一斉に弓を構え始める。


静寂が続き、空気が粘り強くなり、構えた弓のように張り詰める。


空気が高まり、昂ぶり、震える、奮える!


戦いの口火を切ったのは人間側であった。


魔物の進軍が極限まで近くなったときに、緊張に耐えかね、一人の兵が命令を待たずに矢を放ったのだ。


放たれた矢は魔物たちの軍勢の最前線にいたゴブリンの目へとあたった!


ゴブリンは悲鳴を上げたが、その直後に怒号の叫びへと変わった。


それに呼応し、他の魔物たちも一斉に人間たちに飛び掛った!


人間たちの軍団はもう攻撃するしかなく、他に構えていた弓矢を兵士長の合図で次々に放つ。


放った矢は雨のように降り注ぎ、凶暴な牙となって魔物の肉を突き刺さっていく!


魔物たちは人類の決死の猛攻に次々と倒れていくが、無尽蔵に現れる魔物たちはそんなことをもろともせず、先に突撃して倒れた他の魔物を踏みつける。


人間の軍団は弓での攻撃をやめ、各々に剣をとる。


自分たちの世界を魔物の手から守るために、大切な人を守るために、それぞれの想いを胸に剣をとる!


そしてついに二つの勢力が本格的にぶつかり合う


骨を砕き、血で血を洗う戦いが幕を開ける。


戦場はまさに生き地獄と化した。


闘争の雄たけび、痛みでもがき苦しむ悲痛の叫び、魔物の残虐な笑い声、鉄と鉄が交わり弾ける音。


炎の魔法が肉を焦がす臭い、泥と血が混じった臭い。


人間、魔物関係なしに死屍累々と積もっていく屍の数々。


その果てに勝利の希望があると信じて、必死に、決死に、剣で敵の肉を切り裂き、魔法で敵を討ち滅ぼしていく。


皆が生きるための戦いをしていた。


前衛で戦っていたものは一時、戦域を離脱した。


後方では、魔法の道を極めた魔導師たちが極大魔法を作り出すために魔方陣の用意していたのだ。


前衛が離脱するのを確認すると、魔導師たちは練り上げて高まっていた魔力を一気に解放し、巨砲のごとく放出した。


膨大な魔力の砲撃は赤黒色の波動となって風に悲鳴を上げさせ、大気を焦がしていく。


そして次々と魔物たちを消滅させていく。


人々はその光景に希望を見出し、誰もが勝利を確信した。


しかし、そのつかの間のことである。


雷が轟いたかのような激しい破裂音が戦場をこだました。


それから一拍間をおいて、暴風のような衝撃波が襲ってきた。


兵士たちは何事かとその音の方に皆目をやった。


そこには一人の騎士がいた。


闇よりも深く、夜の宇宙を吸い込んだかのように底の見えない漆黒の鎧に身を包んだ騎士だった。


彼こそが大陸を絶望と恐怖で震撼させた張本人、暗黒騎士である。


暗黒騎士の鎧の節々からは黒色の瘴気があふれ出ていて、気づけば空を重く覆いつくしていた。


暗黒騎士は兵士の軍勢にたった一人立ち向かう。


暗黒騎士が大地を踏みしめるたび、怯えているかのように大地が震え、大気が啼く。


暗黒騎士の兜から零れる赤き眼光が瘴気の夜に漂う。


兵士たちはあまりにも禍々しいその様子をみて、口々に悪鬼だと並べ、本能的に眠っている畏怖の感情をむき出しにした。


焦燥からか、高等魔術師たちは指令を待たず先ほどの魔術砲を放つ。


魔砲の閃光が暗黒騎士へ瘴気の闇を切り裂き、風をつんざめかせながら、一条の光を走らせて襲いかかる。


暗黒騎士は血の流れより赤きマントをたなびかせ、懐の刀剣を抜いた。


鋼が大気に触れ、きぃいんと金属音が鳴り響く。


そして、眼前まで迫りくる赤黒色の魔力の波動を前に



一閃



横に薙いだ。


すると、魔力の波動は形をなくし、瞬く間に霧散していった。


「大数の軍勢の士気を一瞬にして崩壊させる一番の方法……」


暗黒騎士は赤き眼を兵士の軍勢に向け、呪詛のようにつぶやいた。


恐怖フィアー……だ」


兵士たちは目の前の恐怖に慄き、立ち竦んだ。


最早、人類に勝ち目はないのか。


かくして人類の存亡をかける戦争は、暗黒騎士の手によって幕引きされた。


しかし、人類にはまだ希望が残されていた。


勇者と呼ばれるものに希望が!

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