第三話 救助
1923年9月1日1406時 大日本帝国・東京
かつて世界最大の人口を誇った江戸の町並は建物という建物が軒並み倒壊し一部では火の手が上がり地獄絵図と化していた。怪我がないものは逃げ惑い、何処に行けばいいのか分からなくて彷徨う人々が居た。
辛うじて建物に押し潰されなかった子供が梁と地面に挟まっている親を助けようと必死に持ち上げていたりしていた。しかし、親は今にも息絶えかけている状態だった。
「父ちゃん!母ちゃん!死んじゃ・・、死んじゃ嫌だよう。」
「早く逃げろ!信夫、俺達に構うんじゃあねぇ。」
「大丈夫。あなたは強い子だから大丈夫。だから逃げてここは危ないから逃げて・・。」
だが、無常にも信夫の親が下敷きになっているかつて我が家だったのも火が点いてしまった。
「早く行け、この馬鹿者が!お前まで死んでしまったら。わしらの墓を誰が守るんじゃ!早く逃げんか!」
「嫌だよ。父ちゃん僕達だけで逃げるなんて出来ないよ。」
「そうよ。・・・貴方だけでも行きなさい。・・・あなたの妹達と私達は貴方といつも一緒だから・・・ね。」
「嫌だよ。みんな一緒に逃げないとだめだってばぁ・・う・・わぁーん、・・誰か父ちゃんと母ちゃんを助けてよー!!」
信夫の叫び声も虚しく空に消えていくかと思った瞬間、キィーンと独特の音を出して空から巨人が降りてくる。
「・わぁー!」
信夫も風で飛ばされそうになってしまうが、母親が手を握り必死に飛ばされないようにしていた。幸運にも家についた火は消えていた。
そして、巨人が地面に降り立つと親が挟まれている家の梁に指を掛ける。
「やめろー!母ちゃん達に触るなー!」
信夫は慌てて巨人の指を剥がしに掛かるが子供・・・。いや、人の力ではどうする事も出来なかった。
『邪魔だ!坊主!』
「ひゃ!!」
突然の大きな声に信夫は腰を抜かして周りに水溜りを作ってしまう。
巨人は何事も無かったかのように両手で梁と屋根を持ち上げ近くの大きい道路に置いた。
そして、また巨人が戻ってくると今度は膝をつき胸の辺りに穴が開きそこから男が降りてきた。
「・あ、あ、ああ、あ・あ・あ」
「・・・すまないな。怖がらせてしまって・・・立てるか?」
「えっ!?・・・あ、あ・あ、はい!」
「よし、強い子だ。」
信夫は頭を涙でくしゃくしゃにされながらポカーンとしていた。
「ちょっと、待ってろ。お前の親の手当てをしたら直ぐに戻ってきてやるから。」
「はい。」
男が両親の元に向かってしばらくすると戻ってきた。そして、信夫には見覚えのある赤ん坊達を抱えて戻ってきた。
「待たせたな。ところでこの子達お前の妹達か?」
男が赤ん坊を見せると信夫は・・・。
「望!信子!」
「しぃー、コラ、この子達が起きちまうだろ。・・・・でも、良かったな。お前のご先祖様がこの子達を助けてくれたみたいだぞ。」
「えっ!どういうこと?」
「あそこの居間があった辺りの小さい布団の上に仏壇があったから気になって仏壇を起こして開けてみたらこの子達が居たんだ。
多分、上手い具合に仏壇が倒れて、その中に望と信子だっけ?この子達がすっぽり入って落ちてくる壁や屋根から守ってくれていたみたいだな。
あと、お前の両親も今は落ち着いて、そこの木の陰に寝かせてあるから。」
男は双子を抱えたまま被害を受けてない木を見る。信夫もその視線を追ってみるとそこには両親が木に寄りかかるように寝ていた。二人・・・四人は木の元に向かう。
「お前はこれ持って両親を見ていてくれ。おじさんは仕事があるからな。」
男が上着から筒を取り出して信夫に渡す。
「えっ!お兄さんじゃなくておじさんなの?」
「・・・プっ。そうだ。」
信夫の純粋な感想に男は笑いながら赤いボタンの付いた筒みたいな物を渡した。
「それの使い方な、何か有ったら赤いボタンを押してくれよ。直ぐ俺が駆けつけてやるからな。
ぼう・・、そう、いや名前聞いてなかったな。俺は広和、桝谷広和っていうんだ。よろしくな。」
「あ、僕の名前は鷹田信夫です。」
信夫の元気な返事に頭をなでる広和は笑顔を浮かべ巨人のほうに向きながら。
「じゃあ、信夫、今から30分位したら兵隊さんが迎えに来るからその人にその棒を渡してくれよ。あと、これから一人になると思うけどちゃんと待っていられるか?」
「うん。僕が父さんと母さんと望と信子を守らないといけないんだよね。」
広和は「そうだ。」といって、巨人の元に向かい胸の中に入っていった。信夫は大きく手を振って巨人を見送る。
巨人は空高く飛び上がり黒煙が上がる東京の東に向かった。
信夫はこの時、将来の夢に軍人になると決めたのだった。後に広和と信夫は再会することになるのだがその話はまたの機会になる。
―Side Hirokazu―
さて、この救助活動の間にトラブルが無かったと言えば・・・・有った。
しかも、初島で・・・だが、初島で有ったトラブルは突如現われた我々に現地住民が怪しんだ事だった。
しかし、副司令の魅耶が出向き顔を見た数人が驚き、掌を返したようにペコペコしだしたのだ。
理由を聞いてみたところ去年の夏に将軍がこの島に避暑に訪れ、魅耶がその将軍に良く似ていたから将軍の縁者ではないかと思ったらしい。
事実、当代(1923年)の将軍が九條家当主になっていることが後に判明している。お陰で魅耶が政府との交渉が楽に進んだのは後々話そう。
一応、島が津波被害に遭った為、家屋が軒並み倒壊し家屋の下敷きになった人や怪我人と波に攫われた人も多数居たが、島に残っていた歩兵部隊や運良く基地に戻ってきた艦隊に全員救助され、奇跡的に死者は出なかった。
それから出発前にいた施設科連隊に島民52人用のプレハブ小屋を作ってもらい一時間あまりで完成させてから東京に出発していった。施設科の連中にとっては簡単なものらしい。
また、東京でも一部の暴徒と化した被災者達が救助していた歩兵部隊と衝突したが、戦術機などの救援(被災者が巨人を天皇(神)使いと勘違いした。)により、沈静化させていった。