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春日井 結愛

放課後の教室。夕日が斜めに光を投げ入れる橙色の空間。

その片隅、窓際最後列の席に一人の男子生徒が座って机に突っ伏していた。


この時間は校庭からの運動部の活発な声、

音楽室からの合奏の音が響き、

子守歌代わりのざわめきには事欠かない。


ともすればこのまま眠ってしまいそうな穏やかな空間だ。

というか現にその男子生徒は眠りに落ちている。


このまま下校時刻まで眠ってしまうと校内に閉じ込められて翌朝まで帰れない。

生徒間ではそのような噂が立っているが、

しかし、この男子生徒に限ってはその状況とは無縁だ。


「……」


その男子の体が揺すられる。


「おーきてー」


今度は声で刺激される。

そこでやっとおもむろに体を起こし始める男子生徒。

寝ぼけ眼で辺りを見渡すその顔を見ると眼に隈が浮かんでいる。


……やがて、傍らの少女と目があう。


「やっとおきた?樅」

「ああー……。……いつも起こしてもらってるな」


大きく、とはいえ眼前の少女に遠慮して口の開き方は控えめに欠伸を放ちながら、

その男子生徒、内津 樅は少女へ目を向ける。


「いいよ。寝させたくて寝させてるし、

起こしたくて起こしてるから」


──さて、この言い方に補足しておく。

彼女、春日井 結愛は「眠気を操る魔法」を使う。

……寝させたくて寝させてるという言葉通り、

彼女の意思通りにコントロールできる代物だ。


樅は机の上の書類を確認すると、小さく息をついた。

一番上にはなにやら「よろしくー」「おねがいしますね」

などと書かれたメモがテープでくっついている。


「さて?今回の学級日誌をまとめるか」

──そして彼、内津 樅は学級委員であり、

毎週、この学級日誌をまとめる役割を担っている。


「うへ、相変わらず細かいカルテだね……

これを内津に任せて部活楽しんでるんでしょ?

ひどいね皆」

「気にしないさ。得意なことだからね。

あとは君がいる」

「……ふーん……」


カルテ。

魔法学園に通う生徒として提出を義務付けられた魔法の成長記録。

もしくは個人プロフィール。


今から彼らはクラスメート全員分のそれをまとめることになる。

……というより現在進行形だ。

だからこそ、放課後の教室に居座ってまでこんなことをしている。

眼の隈もその影響だ。


教室に響く紙をめくる音、もしくはカルテを書き込む音。


夕日の影が二人の間に揺れ、窓の外では風の音。

教室には、彼ら以外誰もいない。


けれど、この“二人きり”は偶然ではなく、

内津の完璧主義とクラスの自由奔放さ、そして結愛の善意が積み重なって生まれた習慣だった。


──この穏やかな日常が、とある“事件”をきっかけに揺らぎ始めることを、

二人はまだ知らない。



・このまま下校時刻まで眠ってしまうと校内に閉じ込められて翌朝まで帰れない。

生徒間ではそのような噂が立っている

これ、伏線です。七不思議的なエピソードになる予定。

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