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紫華の付与師は今日もお留守番。ダンジョンで無双する最強支援職  作者: さくさくの森
終章 光焼く翼

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最終話 ――紫華の付与師は今日もお留守番――

 王都に戻ったのは、夕焼けが塔の窓に差し込むころだった。


 世界全土で被害が広がる中、サンライズ王国だけは()()()襲撃を受けなかった。その理由は一般国民には分からない。ただ――結果として王国が無傷だったことだけは、国民に安堵をもたらしていた。


 それでも、街の空気はざわついていた。外から届く被害報告と混乱が、王都をじわりと包み込んでいる。救援班や伝令が行き交い、世界規模の大騒動の余震が続いていた。


 そんな中、私たちが城門をくぐった瞬間、通りの人々がふとこちらを振り返った。


「……あれは、光焼く翼だ!」

「元凶を倒したって、本当なのか」

「じゃあ、この国が無事だったのは……」


 希望と困惑が入り混じった声が広がり、やがて静かな拍手が連鎖するように続いた。


(……国を救った、と思ってくれているんだ)


 その事実だけで十分だった。

 理解されるべきところは、きっと私たちだけが知っていればいい。



 ――そして数日後。


 王都は、まるで祭りの日のように彩られていた。


 襲撃が世界規模だったせいで、各国の使節が王都へ詰め掛け、連日、式典と面談が続いていた。安堵と高揚が入り交じる異様な空気――だが、誰もがその異様を歓迎しているのが分かった。各国にはいまだ魔物の残党こそ残ってはいるが、亡国の未来は回避されたということだ。


「この度のご活躍、我が国としても深く感謝を申し上げる」

「貴殿らの働きがなければ、我々は国土を失っていた」

「どうかこれを受け取ってほしい」


 文書、宝石細工、国章入りの表彰牌。

 各国は礼儀だけでなく、本気で救国の英雄として扱っていた。


(……本当に、世界規模の災害だったんだな)


 そう実感するには、十分すぎる数の感謝状だった。



 パレード当日。

 王都の大通りは、端から端まで人で埋まっていた。


 軍旗と王旗が並び、各国の色鮮やかな紋章旗も翻っている。

 沿道には屋台がずらりと並び、祝宴のための香りが風に混ざった。


 列の先頭を進むと、頭上から花弁が舞い降りてきた。

 歓声と拍手が波のように押し寄せる。


(……こんな光景、二度と見られないかもしれない)


 戦場とは違う熱が、胸の奥にゆっくりと広がっていった。



 謁見の間は、外の喧噪とは対照的に、静かだった。


 国王陛下は玉座から立ち、ひとつ息を整えてから言葉を紡ぐ。


「光焼く翼よ。

 そなたらが、この国――いや、世界の均衡を守った。

 その功、万代に残すに足る。

 ゆえに、此度の戦功に対し――」


 空気が張り詰める。


「――そなたら全員を、紫位へと叙す」


 謁見の間が呼吸を忘れたように沈黙した。


 紫位の同時叙任。それも五人以上の一団に。史書にも例がないはずだった。

 その静寂の中、陛下の言葉が続く。


「ラナ・シエル。

 その剣は天を裂き、理を導く。これより《紫刃(しじん)》を冠せられよ」


 ラナがわずかに目を見開き、深く頭を垂れる。


「氷雨・エトランス。

 幻と静謐を以て戦場を統べた。その働き、まさしく《紫幻(しげん)》に値する」


 氷雨は静かに微笑み、衣を揺らした。


「オーリス・ノルディア。

 祈りをもって同胞を支えた癒しの手。《紫祈(しき)》を授ける」


 オーリスは胸に手を当て、瞳を伏せた。


「ヴァルク・ゼノス。

 理を読み、呪を断ち、混沌を鎮めた功績。《紫呪(しじゅ)》を名乗るがよい」


 ヴァルクは無言で、しかし厳格に一礼した。


「リディア・グレイス。

 焔のごとく道を開いたその才、比肩なし。《紫焔(しえん)》の称号を授く」


 リディアは静かに頷き、銀紫の髪が光を反射する。


 そして陛下は、私たち三人へ視線を移す。


「エルド・フェルナー。《紫煌(しこう)》。

 そして、トゥリオ・ハルヴァ。《紫嶺(しれい)》。

 最後に――クーデリア・リーフィス。《紫華(しけ)》。

 そなたら三名は、すでにその名を揺るがぬ境地に押し上げた」


 私の胸が奥底から震えた。


(……皆、本当にすごいな)


 八人全員が紫位。そんな狂ったような偉業の中心に、自分が立っているのが不思議だった。


 私は深く頭を下げ、胸に広がる熱をそっと噛み締めた。

 

 ……実はリディアが少しだけ紫位叙任を嫌がっていたのは内緒だ。ヴァルクは何か心変わりがあったようだけど、リディアはまだ()の途中だという思いがあるらしい。とは言え、一人だけ私情で断るには余りにも収まりが悪く、放棄するには功績が大き過ぎた。これもまた、(しがらみ)という奴である。





 戦後処理は想像よりも長かった。瘴気の残渣(ざんさ)の解析、各国の被害状況の取りまとめ、協定の更新。ラナとリディアは魔物の残党処理で奔走し、エルドは何度も政庁に呼び出され、オーリスは怪我人の治癒、氷雨とトゥリオは他国の復興に尽力していた。


 そして私はというと……


「ヴァルク、終わったよ」


 ヴァルクが計測し、私が算出した数値を手元に出す。


「……レイグレンからの宿題。星の寿命の再計算結果か」


「星の寿命、残り約六千年。

 ……同じ結果が算出されたんだから、文句のつけようがないわね」


「倫理的には最悪な部類だが、やはり呪具師の頂点か」


 互いにため息をつくしかなかった。


(褒めるは癪だけど……やっぱり凄い)


 それが、あの日に散った彼に対しての本音である。





 一月ひとつき後、久々に八人全員が揃って卓を囲んだ。世界同時襲撃の後処理もようやく落ち着き、やっと光焼く翼としてのいつもの時間が戻ってきた気がした。


 そんな中、エルドが書類の束を机に置く。


「レイグレンがいたダンジョンが、どうやら変質したようだ」


 彼の声は普段通りだったが、卓の空気が一瞬で引き締まった。


「定員は……一名。しかも入口の時点で雷鱗龍が群れで(たむろ)しているそうだ。

 恐らく、奴が世界中から集めていた瘴気の残滓が形となったのだろうな」


「……第一層で雷鱗龍、ですか」


「相当な難度だね。それだと、赤位や金位ではまず近寄れないよ」


 オーリスと氷雨の所感が続き、その後は言葉を失う。この八人が全員参加という訳ではなく、それも()()()()となれば、答えは一つだ。


 全員が同じことを思っている。

 誰も口にしないだけで、答えは決まっていた。


 自然と卓の視線が、一点へ集まっていく。


 ラナは机の上の資料を見つめ、少しだけ息をついた。


「……やっぱり、私だよね?」



 ラナの言葉には不安も嫌気もなく、ただ仲間としての当然が滲んでいた。


 しかし、この空気のまま無言の決定になってしまうのは、なんとなく『光焼く翼』らしくない。


 だからこそ私は、少しの悪戯心を込めてこう言うのだ。



「私は今日、お留守番でもいいですよ?」


これにて物語は完結です。色々と情報を詰めたおまけも21:30に投稿予定

完結タグもそこで付きますね。


最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

感想・評価御座いましたら、是非頂けると報われます。

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