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紫華の付与師は今日もお留守番。ダンジョンで無双する最強支援職  作者: さくさくの森
終章 光焼く翼

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第62話 ――決行の時――

 地図を受け取り、その場で座標を照らし合わせた。


「……ここ、ですね」


 私が指し示す先を、エルドが覗き込む。


「国境のすぐ手前だな。サンライズ王国側、山間部の何もない地帯だ」


 私は小さく息を整える。


「地形から見ても、標高はかなり上ですけど……座標の深さが逆におかしいですね。位置としてはかなり下になります」


「地下か」

 トゥリオが腕を組む。


「地下施設か、ダンジョンか……その可能性が高い」

 ヴァルクが続ける。


 私は一息ついてから、皆の方を見て、頷いた。

 意識を戦場のものに切り替える。


「どちらにせよ、一度戻って装備を整えよう。

 これから向かうのは、おそらく敵の本丸だと思うから」



 その後は一旦解散し、それぞれの拠点へ戻った。


 私は自室で道具袋を開き、【連環の匣】の触媒を確認する。

 残しておく五粒を除き、残りをすべて回収した。


(補充速度も上がったし……四十日もすれば満タン。遠慮してる場合じゃない)


 少し迷ったが、すぐに決めた。

 使うべき時に使わなければ意味がない。


 杖を背負い、最後に外套を羽織る。


(……大丈夫。準備は整ってる)


 集合場所へ向かう前に、足を研究棟へ向けた。

 理素結晶の保管室前で、主任がこちらに気付く。


「受け取りに来ました。……これがないと戦えませんから」


 主任は無言で頷き、丁寧に包まれた理素結晶を差し出した。


 胸元に抱えると、ひんやりした感触が手の中に広がる。


(行こう)



 全員が既に集合していた。

 装備の音がわずかに重く響く。


 エルドが振り返る。


「向かうぞ。座標地点近くまではリニアを使う」


「まだ動いてるんだね……」

 ラナが小さく眉を上げる。


「他国は既に壊滅が始まってるのに」

 氷雨の声が落ちる。


 私は思う。


(……ここだけ平常を保っているのは、レイグレンがそう仕向けたということ?

 王国には攻め込まず、他国を地獄に落としながら……私たちに時間を与えてる?

 いや、違う。誘導だ。どうしても私たちをここに向かわせたい)


 エルドが短く告げた。


「考えても仕方がない。向こうで答えを得るしかない」


 リニアが動き出し、景色が横へ流れた。


 向かう先は、月影国との国境の山間地帯。

 地図では何もない場所だが――


(その何もない場所に、レイグレン本体がいる)


 拳を握った。


(絶対に、終わらせる)


 世界の地獄が広がる速度よりも早く。

 私たちは進み続けなければならない。



 リニアの車内は、走行音だけが静かに響いていた。


 誰も騒ぎはしないが、沈黙ではない。

 それぞれが、言葉を選ぶように話し始めた。


「……各国に残された時間はどれほどか」

 エルドが窓の向こうに視線を流す。


「もう何が起きてもおかしくない状況だよ。分身を止めたとしても、あれは本体じゃない……根を絶たなきゃ終わらない」

 氷雨が小さく肩を寄せる。


 ラナは拳を握ったまま、床を見つめた。


「悔しいね。私らが向かう場所一つで全部が左右されるなんてさ」


 私は隣で息を整えた。


「……でも、向かえるのは私たちだけ。伝言は明らかに、私達に向けられたものだった。本気で誘導してきてる」


(ロシャ…ファルマ…あの二人にも本当は来て欲しいけど、きっと月影国の防衛で忙しいよね?)


 ヴァルクが目を閉じたまま呟く。


「誘導だろうと罠だろうと、座標位置に本体がいる確率が最も高い。突き止められる者が限られていた時点で、向かうのは必然だ」


 オーリスが静かに同意する。


「歴史的には不幸な状況ですが……今は嘆くより、正しく進むほうが上です」


 トゥリオが短く息を吐いた。


「……終わらせる」


 その言葉に皆が頷く。


 私は胸元の理素結晶をそっと押さえた。


(……この力を持っていく。必要な理由は、向こうにある)



 リニアが停車地に到着した。

 月影国との国境に近い、山間の小駅。

 状況を考えると、まだ動いているのが奇跡に近い。


 駅員は驚いた顔で私たちを見つめ、口を開いた。


「あなた方、こんな時に……」


 エルドが軽く頭を下げる。


「王命だ。すぐに向かわねばならない」


 駅員はそれ以上は何も言わず、ただ道を示した。



 山間部へ続く足場は、思った以上に険しい。

 瘴気の匂いはまだ薄いが、空気の重さで遠くで何かが起き続けているのが分かる。


 エルドが前を行き、その後ろにトゥリオが続く。

 私たちは疲弊しすぎない速度を維持しつつ、それでも急ぐ。


「下り……いや、座標の深さはもっと下か」

 ヴァルクが地図を確認しながら言う。


 そこでエルドが氷雨に指示を出す。

「ここから徒歩で降りるのが一番早い。道は荒れているが……氷雨、幻影で 段差の見やすい視界を作れないか?」


「できる。……補助程度だけどね」

 氷雨が手を振ると、薄い視界補正が前方に展開された。


 ラナが跳ねるように段差を降りながら声を上げる。


「助かる!こういうのあると全然違うね」


 オーリスが最後尾で周囲を確認する。


「瘴気の密度は普通の山岳地帯と大差なし。むしろ通常よりも低いくらいです。つまり、ここ最近の王国周辺と変わりませんね……今のところは、ですが」


 私は深く息を吸い、感じたことをそのまま口に出す。


「……ここの普通さが逆に嫌だね。本当にここにいるの?」


 エルドが振り返らず答える。


「潜伏するなら、この上なく良い場所だ。何もない場所は、逆に何でも隠せる」


 山肌を越え、古い獣道を抜けたところで、地面の傾斜が急に変わった。


 ヴァルクが足を止める。


「……この先だ。座標の中心は、ここからさらに下にある」


 エルドが頷く。


「全員、準備はいいな」


 私は杖を握り直し、胸の奥のざわめきを押し込んだ。


(ここにいる。……レイグレンの本体が)


「いつでも」


「行こう」


 光焼く翼は、山の裂け目へ続く暗い下り坂を、一歩踏み込んだ。


 ――座標の示す、底へ。

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