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紫華の付与師は今日もお留守番。ダンジョンで無双する最強支援職  作者: さくさくの森
第六章 表で輝く紫華・裏で淀む世界

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第54話 ――揺らぎの呼吸と整える手――

※明日以降の第六章の11:20更新分は所要により20:50に変更となります。


(……ようやく終わった、と思いたいけど)


 そう考えた矢先だった。仲間との雑談が思ったよりも長引き、政庁の扉を出て数歩も進まないうちに、向こうからこちらへ急ぎ足の影が一つ。


「『光焼く翼』の皆さん!」


 呼び止めたのは、理素結晶研究班の担当者だった。


「すみません、今よろしいでしょうか。至急、確認していただきたい計測結果が出まして……」


 エルドがわずかに眉を寄せる。


「理素結晶の件か?」


「はい。先ほど政庁内での共有内容を受け、世界の三層構造のモデルを前提に再解析したのですが……どうにも説明のつかない揺らぎが観測されまして。可能であれば、皆さんの意見を伺いたいと」


(……休む暇は、無いみたいね)


 エルドが私たちの顔を順に見て、小さく頷いた。


「分かった。今から向かう。案内を」


「こちらです!」


 私たちは宿とは逆方向――政庁併設の研究棟へ向かって歩き出した。



 研究棟の中央室には、理素結晶がひとつ、魔導灯の光の中で静かに置かれていた。


 表面は小さく脈動し、

 内部の三層――外殻、循環層、中心の空隙――が、

 小さく呼吸のような動きを見せている。


 主任がこちらに向き直る。


「先にお伝えした通り、計測値に呼吸周期の変調が見られまして。

 政庁で皆さんが説明された内容――世界構造の三層モデルを前提にすると、

 理層との相関を疑わざるを得ない揺らぎです」


 静かな室内に、結晶の呼吸だけが響いているようだった。


(呼吸……いや、脈動……?

 どちらにしろ、ただの魔力の波とは違う)


 じっと見つめていると、胸の奥にざわりと熱が走る。


(分かる……気がする)


 何に反応しているのか

 どこへ通じているのか

 何を示しているのか――


 ぼんやりした輪郭が、かすかに形を持ち始めていた。


 主任が再びこちらを向く。


「光焼く翼の皆さん。

 あなた方は、分身の説明を直接聞いている。

 この変調が偶然なのか、それとも構造上の必然なのか……

 なにか心当たりは?」


 エルドが私の方へ視線を向けた。


(……そうよね。私が一番、気になってる)


 深く息を吸い、吐く。


「主任さん……ひとつ、お願いがあります」


 私の声に、研究班の手が止まった。


「この理素結晶を――私に使わせていただけませんか?」


 主任が瞬時に表情を固める。


「……理由を、伺っても?」


 私は杖を握り、結晶を指す。


「理素結晶の呼吸…これはただの呼吸じゃありません。周期が一定で、揺らぎが整っている。何か()のようなものが、内部で開閉しているように見えるんです」


 主任の目が細められる。


「道……?」


「私の付与は、力を押しつける術ではありません。

 魔力が通れる状態に手入れするもの。

 炎を出すのではなく、炎が通る形に整える。

 雷を流すのではなく、雷が通れるようにする。

 それが付与の本質です」


 言葉にして、ようやく自分でも気づく。


(私、ずっと……理を整えることしかしてこなかった)


 だからこそ――この呼吸が気になってたのだ。


「もし、この内部の揺らぎが通り道のようなものなら……

 私はそこに触れられるかもしれません。

 整えるだけ。押し広げたり壊したりはしません」


 主任が息を呑んだ。


 エルドが問いかける。


「危険性は?」


「最小限に抑えます。

 結晶全体ではなく、接続部だけ。

 負荷はかけません」


 沈黙が落ちる。


 やがて、主任がゆっくりと口を開いた。


「……条件付きなら、試験を許可できます。

 結界と遮断系を二重に敷き、研究班が監視する前提で」


 エルドが頷く。


「段取りはこちらで組む。何か必要なものがあれば、政庁の損耗品庫から借りれば……」


「いいえ、不要です。私の【連環の匣】を使います」


 胸の奥が熱くなる。


(ようやく、触れられる)


 結晶の奥にある呼吸へ。

 そして、その呼吸と同じ理に基づいた古い機能たちへ。


「今からですと……いえ、少々時間をください。

 外ならぬ『光焼く翼』のお願いです。早急に準備を進めます」


「……ありがとうございます。

 必ず、正しく扱います」


 結晶が、ほんの一瞬だけ脈を早めた。

 気のせいかもしれない。

 けれど、そうではない気もした。


(次に進む。

 世界の奥にある理に、もう一段触れるために)


 私は皆をその場に残し、急いで自宅の【連環の匣】を取りに戻った。

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