第47話 ――工房ダンジョン第四層――
カクヨム側の近況報告にクー子の挿絵2つ入れてるので気になる方はどうぞ(タイトル同じです)
扉が光を吸い、ゆっくりと開き始めた。
内側の空気が、すっとこちらへ流れ出る。音はほとんどない。金属が擦れる気配すら薄くて、向こう側の空間そのものが形を変えて通路を作ったみたいだった。
一歩踏み込んだ瞬間、白い広間の奥で何かが立ち上がる。
(……いる)
広い円形の部屋。
そこに、三つの存在がすでに鎮座していた。
気配だけで背筋が冷える。
深層の階層主を見た時と同じ重さ。いや、それより一段、分厚い圧だ。
場の空気が、私たちを試す前に「ここが境界だ」と告げている。
(最後の関門……て訳ね)
◇
まず左側にいた一体。
金属でできた樹木のような形だった。幹に当たる胴は細長く、そこから刃のような枝が何重にも伸びている。枝先は節ごとに角度が違い、近づけばどこから切り込まれるか分からない。足元は根の束のように広がっていて、歩くというより、床の上を滑るように位置を変えている。
(範囲と軌道で叩くタイプ。ラナたち向きね)
次に、右奥の一体。
巨大な壺だった。白い空間に浮かび上がった陶の胴体は、表面に工房の刻印みたいな筋が走っている。底は割れていて、そこから黒い粒がぽろぽろ落ちている。粒は床に触れた瞬間、消えるでも跳ねるでもなく、じわっと広がる。場の密度をゆっくり変えるような、嫌な沈み方だ。
(地形系か、状態の撒き散らし系か。抑え役が必要)
そして正面。
私たちの進路を塞ぐように立つ、三体目。
◇
そいつは人型に近い。
でも、どこか作られた人型という感じが強い。
肩から背にかけて黒い金属板が何層も重なり、鎧みたいに組まれている。関節は細く、無駄な装飾が一切ない。胸の中心に、淡く脈打つ核の光がひとつ。顔の部分は滑らかな面で覆われ、目も口もないのに、こちらを見定めている感覚だけが鋭く刺さってくる。
(……こっちが相手するべきなのは、たぶんこれ)
他の二体とは質が違う。こいつだけ、戦うために形を整えたような気配がある。動き出す前から、こちらの呼吸や立ち位置を測っているみたいで、本能が警告を鳴らした。
ラナが小声で耳打ちする。
「クー子、正面のやつ、やばいね」
「うん、同感」
視線を逸らさないまま返す。
「小細工を弄する感じが薄い。純粋に戦うための形だ」
氷雨が小さく息を吐く。
「動かないのに、空間が張りつめる。あれは……強いよ」
私は胸の奥で一度だけ呼吸を整えた。
(強力な相手ほど、周囲の魔力への影響は大きくなる。そこを拾えば、有利に立ち回れる筈)
◇
エルドが全体を一瞥して、すぐ指示を投げる。
「分隊ごとに受け持つ。予定通り三つに割るぞ」
声に従い、全員の動きが同時に切り替わった。
「第一分隊、左の金属樹を受けろ! ラナ、氷雨、ロシャ。動きが読みにくい相手だ、機動と幻影で削れ」
「了解!」
「うん、やるね」
「手数を減らすくらいは出来るだろう」
三人が左へ散り、間合いを作っていく。
「第二分隊、右奥の壺を抑えろ! トゥリオ、オーリス、ヴァルク。場を汚される前に足場と結界を固めろ」
「了解」
「結界、展開します」
「オーリスを補助しよう」
三人は右へ寄り、壺の落とす黒い粒に警戒を向けた。
「第三分隊、正面の人型を俺たちで受ける。俺、クーデリア、リディア、ファルマ。初動は俺が取る、クーデリアは付与準備、リディアはいつでも撃てる位置を」
「はい」
「分かったわい」
「解析の時間をください。魔法は私が無効化する」
正面の人型へ向けて、私たち四人がゆっくり歩幅を揃える。
階層主たちは、まだこちらへ踏み込んでこない。
けれど、三体とも今から動くという張りだけは部屋全体に満ちている。
(……階層主との同時戦闘なんて初めてだ)
息の音すら、三つの敵に届いてしまいそうな静けさ。
エルドが私の視線を一度だけ確かめる。
「クー子、いけるか」
「大丈夫。正面は私たちで崩す」
リディアが肩を鳴らす。
「儂は火を溜めておく。動いたら焼くぞ」
ファルマが足元の式を滑らせながら、淡々と告げた。
「三体とも、すでに起動済みですね……これ以上は待ってくれないようです」
言い終える前に、正面の人型の核が一度だけ脈動。
それを合図に、白い空間の階層主達が動き出す。
左で金属樹が枝を一斉に開き、刃の森が起きる。
右奥で壺が傾き、黒い粒が床を這う。
正面の人型が、間合いの内側へ滑り込んだ。
三体が同時に動き出し、第四層の戦闘が始まった。




